もの(読み)モノ

デジタル大辞泉 「もの」の意味・読み・例文・類語

もの[接助・終助]

[接助]口語では活用語の終止形文語では活用語の連体形に付く。順接の確定条件を表す。…(だ)から。…ので。「ゆくゆくは社長となる人ですもの、しっかりしているわ」「彼は努力家だもの、きっと成功する」
わしもこなさんの女房ぢゃ―、何の忠儀を忘れませうぞ」〈伎・幼稚子敵討
[終助]
活用語の終止形に付く。多く「だって」「でも」と呼応して用いる。現代では多く女性や子供の間で使われるが、時に撥音化して「もん」となることもある。
不平・不満・恨みの意を込めながら、相手の自分に対する非難に対し、根拠や理由を示し、反駁はんばく、訴え、甘えなどの気持ちを表す。「だって時間がないんですもの」「でもお父さんがそうおっしゃったんですもの
㋑(「ものね」「ものな」などの形で)詠嘆の意をこめて理由を表す。「でもあなたと私とでは考え方も違いますものね」「なるほど、それは彼のお得意だものな」
文末で、活用語の連体形に付く。
㋐逆接的な気持ちを込めて詠嘆する意を表す。…のになあ。…のだがなあ。
「我が持てる三つあひにれる糸もちて付けてまし―今そ悔やしき」〈・五一六〉
㋑順接の確定条件を含み、詠嘆・感動の意を表す。…だからなあ。
「もっともぢゃ、もっともぢゃ、道具屋の娘ぢゃ―と」〈浄・卯月の潤色
[補説]上代の「もの」は形式名詞から、近世以後の「もの」は終助詞「ものを」の音変化したものという。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「もの」の意味・わかりやすい解説

もの

日本語のもっとも基礎的な語彙の一つである〈もの〉という言葉は,幅広い意味範囲を示し多岐にわたる用い方がされている。第1にそれは知覚しうる個々の物体をさし,同時により抽象的・包括的な物象全体の称でもある。そして経験の対象である物事・事がらから,それらの蓄積としての慣習,経験より帰納される道理・筋道を意味する。あるいは形式名詞として感嘆・希望・強調を含意させ,接頭語として理非にかかわらぬ気分・状態を示す。さらに人間については相手を客体視・蔑視し,自身を卑下する意味を添え,反対に畏敬すべき霊威・鬼神も〈もの〉と呼ばれた。こうした〈もの〉は,要するに人間にとっての他者一般をさまざまな次元においてあらわし,ときには〈自然〉と代置させうる言葉と考えられる。〈もの〉という語の歴史をたどってみると,若干の変化を含みながらも,古代より現代まで本質的な意味に違いがない。上述の多岐な用法も8世紀の《古事記》《万葉集》などにほぼ出そろっているとしてよく,そこにこの言葉の日本語における根幹的な位置がうかがえる。

 もっとも霊威・鬼神を〈もの〉という場合は,現代において〈方言〉の類例を除き一般的には少ない。しかし〈ものに憑かれたように〉といったいい方になお,古い意味が持続しているとみてよかろう。古代での〈もの〉は畏れつつしむべき対象の意が強く,そこから漢字〈鬼〉で表記することが多い。〈鬼〉をもって日本語の〈もの〉の包括的意味をあらわしえているとはいえないとしても,《万葉集》の借訓仮名に〈鬼〉が多用されたこと(〈心は妹(いも)によりにし鬼(もの)を〉など)がこの事情を裏書きしていよう。その点とかかわり,上代の複合語例の〈物忌(ものいみ)〉〈物部(もののべ)/(もののふ)〉〈物語(ものがたり)〉〈物実(ものざね)〉などが一種厳粛な内容を呈示することが注意される。こうした畏敬すべき〈もの〉の意味は,以後の日本語の歴史の中ではしだいにうすれ,代わって物・人に対する蔑視の意が強まっていく傾向がみられる。これを,小さからぬ推移ととらえることもできる。〈もの(物・者)〉を含む現代通用の名詞に,〈化物〉〈安物〉〈にせ物〉〈わる者〉〈くわせ者〉〈河原者〉など,貶視して用いられる語が多いのに対し,尊敬の例は非常に少ない。つまり上代とは逆の現象を示しているわけで,上記語例もおおむね中世以降の発生に属する。文化を媒介とする進化の過程で,人間と〈もの〉(他者としての自然)との交感・交渉が間接化され,経験の質を変えてきたことが〈もの〉の意味推移の背景に考えられねばならないであろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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