まろうど

日本大百科全書(ニッポニカ) 「まろうど」の意味・わかりやすい解説

まろうど

「まれびと」つまり「稀(まれ)に来る人」の意で、いまは「客人珍客」を意味するだけだが、その伝統は根深いものがある。すでに平安時代の饗宴(きょうえん)習俗でも「主客」を「まれびと」といい、その方式には古代祭祀(さいし)に来臨する「聖なる者」を饗応する伝統が受け継がれていた。饗宴の主客を「まれびと、尊者」といい、その応待の当事者が「あるじ」であり、そのための設営が「あるじもうけ」であった。折口信夫(おりくちしのぶ)は「常世(とこよ)」という聖界の存在を想定して、ときあってそこから来臨する「聖なる者(まれびと)」が俗界に幸福をもたらすことに日本の古代信仰の根源を認め、「まつり」はこうした「まろうど」の饗応方式に源流するとした。ともかくそうした形が祭祀方式はもちろん後代の饗宴にも跡をとどめている。近世遊里の客人を「大尽(だいじん)(大神)」といい、その伴客を「末社」というのも単なる戯語ではなかったというのである。ともかく日本の異郷人・珍客歓待にはこうした伝統があり、いわゆる「あるじもうけ」の伝統もそこに生じた。『翁(おきな)』など芸能の「祝言演伎(えんぎ)」にもまた「まろうど」来訪の形はその跡をとどめている。

[竹内利美]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のまろうどの言及

【もてなし】より

…【塚本 学】
[民俗]
 もてなすことを〈客をする〉ともいう。現在では訪問者を等しく客と称するが,客の古語にあたる〈まろうど〉とはまれに来る人の意であり,めったに来訪しない貴い賓客のことであった。ただ今日でも客には実質的に単に訪れて来る者と招かれて来る者の別があり,さらにその社会的地位や親疎の関係などによってもてなしの方法には差異がある。…

※「まろうど」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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