ほかのエルシニア属菌感染症

内科学 第10版 の解説

ほかのエルシニア属菌感染症(Gram 陰性悍菌感染症)

(7)ほかのエルシニア属菌感染症
定義・概念
 エルシニア属菌は腸内細菌科に属するGram陰性桿菌である.ヒトに病原性を有するのは,Yersinia enterocolitica,Y. pseudotuberculosis,の2菌種であり,いずれも人畜共通感染症を起こす.ヒトにはおもに急性腸管感染症を起こし,食中毒の原因となる.Y. pseudotuberculosisは小児を中心に発疹発熱をおもな症状とする泉熱(Izumi fever)の原因菌でもある.ちなみにペスト菌もエルシニア属に属しているが,前2者と病態が大きく異なるため,区別して扱われることが多い.
原因・病因
 エルシニア属の菌はブタイヌ,ネコ,ウシ,ヒツジなどの動物が保菌し,糞便で汚染した水や食物がヒトへの感染源となる.本菌は0~5℃の低温でも増殖できるため,冷蔵庫内でも増殖が可能である.
疫学・統計的事項
 エルシニア属菌による食中毒は国内の統計で1%に満たない程度で,散発的にみられることが多い.ほかの細菌性食中毒は夏に発生が多いのに対して,エルシニア属菌による食中毒は冬期に多くみられる.また成人に比べ小児の方が発症の頻度が高い.
病態生理
 汚染された飲食物を経口的に摂取すると,菌は腸管内で粘膜組織に侵入し,局所に肉芽を形成する.菌がリンパ節に達すると腸間膜リンパ節炎を引き起こす.両菌ともにスーパー抗原を有し,Tリンパ球を過剰に刺激してサイトカインを大量に産生させることで全身性の症状を誘発する可能性がある.
臨床症状
 経口的に菌が入った後,1〜10日の潜伏期を経て下痢腹痛微熱を伴うことが多い.症状は1~3週間程度続く.ときに嘔吐,血便を伴い,まれに皮疹や菌血症を発症する.Y. pseudotuberculosis感染例では回腸遠位部の炎症が強く,高い頻度で腸間膜リンパ節炎を起こすため,虫垂炎と紛らわしい症状を呈する場合がある.
検査成績
 末梢血白血球数は正常か軽度の増加を認める.
診断
 便あるいは血液,各種穿刺液などから菌が培養されれば診断が確定される.血清抗体価の測定による診断も可能である.
鑑別診断
 小児のY. pseudotuberculosis感染では,発熱,発疹,関節炎などを訴え,川崎病との鑑別が必要な場合がある.
合併症
 遊走性多関節炎およびReiter症候群がHLA-B27陽性者に高い頻度で認められる.また結節性紅斑を合併する場合がある.
経過・予後
 下痢など消化管に限局した症状の場合は,自然軽快することが多い.ただし敗血症に至る例では適切な抗菌薬が投与されたとしても予後不良である.
治療・予防・リハビリテーション
 一般的に抗菌薬を投与しないでも軽快する場合が多いため,対症療法が治療の中心となる.ただしときに敗血症に至る例があるため,乳児や免疫低下症例,全身症状が強く現れている例に対しては抗菌薬使用の適応となる.Y. pseudotuberculosisに対しては,アンピシリンやテトラサイクリン系,アミノグリコシド系抗菌薬を投与する.Y. enterocoliticaはβ-ラクタマーゼを産生するため,アミノグリコシド系,テトラサイクリン系,ST合剤,キノロン系抗菌薬を選択する.[松本哲哉]
■文献

Mandell GL, Bennett JE, et al: Mandell, Douglas and Bennett's Principle and Practice of Infectious Diseases, 7th ed, Elsevier Churchill Livingstone, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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