ひょっとこ

精選版 日本国語大辞典 「ひょっとこ」の意味・読み・例文・類語

ひょっとこ

〘名〙 (「ひおとこ(火男)」の変化した語で、火を吹くときの顔つきから出た語という)
① 口がとがり、一方の目が小さい、滑稽な顔の男の仮面。また、その仮面をつけてする踊り
黄表紙・玉磨青砥銭(1790)「ぎゃうじはしぶうちはをもってたちあはせる。そのかたちばかだいこのひょっとこのごとし」
② ①に似た顔の男。また、一般に、男をののしっていう語。
※人情本・春秋二季種(1844‐61頃)三「お前アノ鶴屋のひょっとこを知って居るだらう。〈略〉ひどい面(つら)の野郎だらう」

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デジタル大辞泉 「ひょっとこ」の意味・読み・例文・類語

ひょっとこ

《「ひおとこ(火男)」の音変化》
火吹き竹で火を吹くときのように口をとがらせ、一方の目が小さい、こっけいな顔をした男の仮面。また、その仮面をつけた里神楽道化役
男性をののしっていう語。「あのひょっとこ野郎めが」

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改訂新版 世界大百科事典 「ひょっとこ」の意味・わかりやすい解説

ひょっとこ

ひょっとこは火を吹くときの顔を表現したもので,火男のなまった言葉とされている。陸前地方では大きな面を竈神としてかまどの側の柱に掲げてまつる風習があるが,その起源譚にはヒョウトクとかヒョットコという火焚き男が竈神となったと語られるものがある。ひょっとこはお亀とともに道化役として神楽かぐら)の種まきや魚釣りの舞に登場し,口をとがらしたようすから潮吹きともいわれている。同様な面は狂言にも用いられ,〈うそぶき〉とよばれる。ひょっとこは火の神,風の神として鍛冶神にもなる。青森県の岩木山神社のみやげ物にひょっとこと鬼の二つの面を掛けた絵馬があり,ひょっとこは鍛冶神の本尊で火を吹く形を表したものと伝えられている。鍛冶神は《古事記》の天目一箇(あまのまひとつ)命をはじめとして片目であるとよくいわれ,また鍛冶師の伝承には片目片足伝承が多い。鍛冶の作業で最も重要なのは,吹子で風を送ることと火の色を見分けることだが,ひょっとこの顔や片足をあげて舞う姿はまさに鍛冶作業に由来するものと見ることができる。また長く火を見る作業に従事していると片目が失明することが実際多いようである。鍛冶は石から金属をつくるという神聖な作業として宇宙創造に比せられ,カオスからコスモスを生み出す媒介役割を鍛冶神は演ずるのである。ひょっとこはこの鍛冶神の系譜をひく道化でこの世を活性化する存在とみることもできる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ひょっとこ」の意味・わかりやすい解説

ひょっとこ

口を極端にとがらせた仮面。やや斜め上に突き出た口のつくりが一般的であるが、筒状になっていて動かすことが可能なものもある。また、この仮面をかぶって演ずる役や、さらに一般的におどけ者、まぬけ者を意味することもある。このような口の形をした仮面は田楽(でんがく)や猿楽(さるがく)の古面にみいだせるが、狂言面の嘯吹(うそふき)と里神楽(かぐら)のモドキ面に代表され、江戸里神楽でひょっとこの名を用いている。口ばかりでなく目を左右に甚だしく離し、片方の眼球が飛び出すばかりで左右のバランスも崩した道化面であり、おかめ、だるまなどと間(あい)の狂言役を演じる。この面を馬鹿面(ばかめん)ともいい、その踊りを馬鹿踊ともよぶことがある。この口つきは神に反抗する饒舌(じょうぜつ)な精霊の姿を根底に宿すもののようだが、語源的には東北地方の竈(かまど)神の火男(ひおとこ)に出たものといわれ、口をすぼめて火を吹くときの顔つきを模しているともいえよう。火男の神像は醜顔で、ヒョウトクともいい、関西ではトクスという。嘯吹のほうは口笛を吹く古語という。

[西角井正大]

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百科事典マイペディア 「ひょっとこ」の意味・わかりやすい解説

ひょっとこ

〈火男〉のなまり。口をとがらし曲げた滑稽(こっけい)な面で,火を吹き起こす顔つきという。東北地方では土製のひょっとこ面を竈(かまど)の上にかけて魔よけとし,竈神様と呼ぶ。里神楽(かぐら)のひょっとこは正しくは〈もどき〉といい,お亀とともに道化役。
→関連項目火の神

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「ひょっとこ」の解説

ひょっとこ

神楽(かぐら)の道化。
片目がちいさく口をとがらせた仮面をかぶって演ずる役。もどき,潮吹きともよばれる。狂言ではうそふきの面がこの形をしている。宮城県と岩手県南部では火男が「ひょうとく」「ひょっとこ」となまったとされ,火たき男がかまどの神になったという。

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