ひまし油(読み)ひましゆ(英語表記)castor oil

翻訳|castor oil

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ひまし油」の意味・わかりやすい解説

ひまし油
ひましゆ
castor oil

トウダイグサ科トウゴマ(ヒマ)の種子から圧搾法採油される不乾性油。ヨウ素価85程度。アセチル価大。主要成分脂肪酸はリシノール酸リシノレイン酸)で、その含有量は80~90%。ヒドロキシ基を有するモノ不飽和脂肪酸である。そのほかオレイン酸7~10%、リノール酸3~4%、飽和脂肪酸2~3%を含む。ほかの油脂に存在しないリシノール酸が主成分脂肪酸であるために、物理的、化学的性状が他の油脂のそれぞれと著しく相違し、特殊の用途を有している。

 リシノール酸に存在するヒドロキシ基の影響を受け、かなりの粘性を有する。金属に対する親和性があり、かつかなり安定であるために潤滑油として用いる。以前は自動車用ブレーキ油(ひまし油を基油とし、グリコールエーテル系溶剤を配合したもの)に使用されたが、今日ではポリエーテル合成油その他に移行した。ひまし油はエタノールエチルアルコール)に溶解するから、アルコール性頭髪油として用いられる。またポマードにも使用される。

 透明せっけん、二塩基酸製造に用いられる。ひまし油のヒドロキシ基を硫酸エステルとし、これを水酸化ナトリウムで中和したものをロート油(硫酸化油)という。染色助剤、乳化剤に使用される。水不溶性のひまし油をロート油にすれば、コロイド電解質に変じ、水溶性になる。またヒドロキシ基とこれに隣接するメチレン基とから脱水を行い、脱水ひまし油を製造する。これは共役ジエンを含み、乾性油であるから、塗料用に使われる。油かすは、ヒマ種子中に存在するリチンという有毒なアルカロイドリパーゼを含有するために、飼料として使用されず、肥料として用いられる。リパーゼは油脂を加水分解するが、まだ一部以外工業的には一般に用いられていない。

[福住一雄]

医薬用

下剤。内服により、小腸内で胆汁の共存のもと、リパーゼの作用によって加水分解され、リシノール酸ナトリウムを生成し、これが腸管からの水および電解質の吸収を抑制し、また腸管の蠕動(ぜんどう)を促し、瀉下(しゃげ)作用を現す。1回10~20ミリリットルを内服する。服用しやすくするためにオレンジ油、はっか油を配合した加香ひまし油がある。内用のほか、外用に皮膚緩和剤として製剤原料とされる。日本薬局方には製剤として、加香ひまし油のほか、クロラール・サリチル酸精、トウガラシ・サリチル酸精、複方ヨード・トウガラシ精が収載されており、これらに配合されている。

[幸保文治]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ひまし油」の意味・わかりやすい解説

ひまし油
ひましゆ
castor oil

トウダイグサ科の一年草トウゴマ (唐胡麻)の種子 (蓖麻子〈ひまし〉) から得られる不乾性油。その含量は 35~57%にも達する。主成分はリシノール酸のトリグリセリドである。帯緑黄色の粘稠な油。エチルアルコールや酢酸に可溶であるが,石油エーテルに難溶。香粧品,塗料,可塑剤,潤滑油,ロート油などの原料に用いるほかに,刺激性下剤の一つ。下剤としては,そのままの形では腸管粘膜刺激作用はないが,十二指腸で水解されてリシノール酸ソーダとグリセリンになり,前者が小腸粘膜の水分吸収を抑制するので,腸管内の大量の水分でぜん動運動が亢進する。骨盤内臓器の充血を起すため妊娠時には禁忌である。また,脂溶性の駆虫剤 (ヘノポジ油など) の吸収を亢進させるため,併用は禁忌である。

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化学辞典 第2版 「ひまし油」の解説

ひまし油
ヒマシユ
castor oil

ヒマRicinus communisの種子を圧搾すると得られる不乾性脂肪油.無色または黄色の透明の粘ちゅう液で,かすかに特異の臭気を有する.主成分はリシノレイン酸グリセリド(約80%).脂肪油中で,比重(0.945~0.965)および粘度がもっとも大きく,凝固点はもっとも低い.エタノールに不溶,石油エーテルに難溶.緩下剤,ロート油,せっけん,ポマードなどの製造に用いられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「ひまし油」の解説

ひまし油

 ヒマの種子からとる油.下剤として利用される.リノール酸を80%以上含む.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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