とて(読み)トテ

デジタル大辞泉 「とて」の意味・読み・例文・類語

とて[格助・接助・係助]

[格助]名詞、引用の句・文に付く。
引用を表す。…といって。…と思って。「山に登るとて出かけた」
「この名しかるべからず―、かの木をられにけり」〈徒然・四五〉
事物の名称、役職名などを表す。…という名で。…といって。
「新三位中将資盛卿、その時はいまだ越前守―十三になられけるが」〈平家・一〉
[接助]活用語の終止形助詞などに付く。打消し・反語の意の表現を伴って、ある条件を述べそれが順当な予想に反する結果を生じることを表す。…としても。…といっても。「言ったとて、どうにもならない」→からとてって
[係助]名詞または名詞に準じる語に付く。
ある事物が、例外でなく他の一般の場合の中に含まれることを表す。…だって。…でも。「私とて不安がないわけではない」「違反すれば、未成年者とて許すわけにはいかない」
下の動作の根拠を提示する意を表す。「子供のこととて大目にみよう」
[補説]語源については、格助詞「と」に接続助詞「て」の付いたものとする説や、断定助動詞「たり」の連用形に接続助詞「て」の付いたものとする説などがある。の場合、多く「こととて」の形で用いられるが、理由を表す接続助詞とする扱いもある。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「とて」の意味・読み・例文・類語

と‐て

(語構成に関しては諸説がある。→補注(1))
[1] 〘格助〙
① 文または文相当の語句をうけ、「…と言って」「…と思って」の意を表わす。この場合の「て」はきわめて軽く、文法的機能は「と」だけの場合とほとんど変わらない。
※伊勢物語(10C前)一六「年だにも十とて四つはへにけるをいくたび君をたのみきぬらむ」
② 名前を表わす体言をうけ、「…といって」の意を表わす。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「あやきとて、めでたく形ある童を使ひ給ふ」
③ (①の用法から進んで) 体言をうけ、
(イ) 理由・原因を表わす。
歌舞伎・傾城阿波の鳴門(1695)一「為慣れぬ業とて見つけられ巾着切の悪名を取り」
(ロ) 「…だって」「…もやはり」の意を表わす。
野菊の墓(1906)〈伊藤左千夫〉「これが生涯の別れにならうとは、僕は勿論民子とて、よもやそうは思はなかったらう」
[2] 〘接助〙 ((一)の用法から転じて) 仮定の逆接を示す。たとえ…としても。…ても。
史記抄(1477)一二「秦楚を合すればとて韓にあたらう用てはない」
浄瑠璃・心中天の網島(1720)中「いかにわかいとてふたりの子の親、結構なばかりみめではない」
[補注](1)語構成に関しては、(イ)格助詞「と」に接続助詞「て」の付いたもの、とするのが一般の説であるが、(ロ)断定の助動詞「と」に接続助詞「て」の付いたもの、とする説もある。
(2)「と」によって引用された内容は、下の用言に対して理由・原因になることが多い。従って(一)の①の用例のあるものと③とでは、その間にたいした違いを認めることはできないし、また格助詞と接続助詞ともその点で連続する。

と‐て

〘副〙 (副詞「と」に接続助詞「て」の付いたもの) ああ。どう。副詞「かくて」「こ(か)うて」とともに用いる。
※道命集(1020頃)「とてやよきかくてやよきと見れどなほすくせつたなきもののさまかな」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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