たんす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「たんす」の意味・わかりやすい解説

たんす
たんす / 箪笥

収納用家具の代表的なもので、衣服、小道具、書類などを整理保管するための箱類の総称である。箪笥の語源は、中国の食料を入れる円形または弓形の竹製の箱から出ている。収納する品物によって、茶だんす、食器だんす、書類たんすなどとよばれるが、普通には衣類収納のための衣装たんすをさす。

[小原二郎]

日本のたんす

収納家具としては、古くから櫃(ひつ)や厨子(ずし)があり、衣類は櫃や長持に納められていた。引出しのついたものは製作技術がむずかしいため小形のものしかなく、道具類の収納に使っていたが、引出し式のほうが便利なところから、衣類用にも使われるようになった。現代のような和だんすの形式が一般的になったのは、近世になってからのことである。当初は衣類用のものは小袖(こそで)たんすとよばれ、江戸時代中期には長持などとともに、嫁入り道具の一つであった。小袖たんすの内部を透かしにして、下に香炉を入れ、香を焚(た)き込めるようになったものを匂(におい)たんすとよんでいた。

[小原二郎]

西洋のたんす

衣類などを収納する古い時代の家具は、チェストchestとよぶ蓋(ふた)付きの長方形の箱で、ルネサンス時代まで広く使われていた。17世紀初期になって、イタリアで引出しが3ないし4個ついたチェスト・オブ・ドローワーズchest of draweresとよぶ形式のたんすがつくられ、ヨーロッパの各国に普及した。17世紀末にはチェスト・オブ・ドローワーズを二つ重ねにしたチェスト・オン・チェストchest on chestと、引出し付きのテーブルにチェスト・オブ・ドローワーズをのせたハイボーイhighboyまたはトールボーイtallboyとよぶたんすがイギリスでつくられた。ハイボーイの下部は化粧のための小道具の引出しであった。

 衣服の着替えは16世紀までは寝室の付属部屋で行われていたが、17世紀になってウォードローブwardrobeとよぶ衣服を吊(つ)る戸棚の下に整理用の引出しをつけた衣装たんすが寝室に置かれるようになった。18世紀になってから、それが現代と同じ形式のものに発達してきたのである。

[小原二郎]

現代のたんす

現在広く使われているのは洋家具形式のたんすである。最近になって普及してきたものに、ユニット式のたんすと、造り付け式のたんすがある。前者はある単位の大きさのものをいくつか組み合わせていくもので、構成が自由なところに特徴がある。後者には壁に取り付けるものと、間仕切り兼用になったものとがあるが、いずれも収納効率がよく、壁面がすっきりと美しく仕上がるところが長所である。今後は生活様式の合理化に伴って、置きたんすの形から、造り付け式のたんすに推移していくものと思われる。

 和風のたんすを代表するものは桐(きり)だんすである。キリは材質が柔らかで美しく、白木造りの座敷によくあううえに、湿気を通しにくいという長所があるため、衣服を保存する容器の用材として最適のものとされてきた。たんすのすべての部分をキリでつくったものを「総桐」といい、前面、上面および両側面にキリを用いたものを「三方桐」、正面だけにキリを使ったものを「前桐」とよぶ。

 東京では従来は白木仕上げにするのが普通であった。しかし関西では塗り仕上げにするものが多い。欅(けやき)たんすは、本体をキリでつくって、表面にだけケヤキの薄板を張ったものである。

 たんすの大きさは建物の室内寸法にあわせてつくられた。関西間は関東間より部屋の寸法が大きいため、たんすも関西のほうが大形である。普通は三尺型(間口三尺、奥行一尺四寸、高さ五尺四寸)で、そのほか三尺八寸型や四尺型などがある(一尺は約30センチメートル)。たんすの形は引出しの数やその大小、戸棚との組合せによって違ってくる。古いものは箱を二つ重ねた形であったが、大正年間に三つ重ねが一般的なものとなった。それは、上部が引き戸のついた上置きで、二番目の箱は観音(かんのん)開きの戸がつき、その中は数段の棚になっている。また最下段の箱は引出しになった形式である。二つ重ねで引出しだけのものを男だんす、開き戸小引出しのあるものを女だんすとよぶこともある。

 いずれの箱にも両側板(がわいた)に金具がつき、それが上部に引き出せるようになっているが、これは、火事にあったとき棒を通して担ぐようにくふうされていた名残(なごり)である。たんすの数の単位を棹(さお)というのは、そのことから生まれたという。たんすには定紋などを入れた萌黄(もえぎ)の油箪(ゆたん)をかけた。いまでも婚礼のときに緑色唐草文様風呂敷(ふろしき)をかけるのは、その名残である。

[小原二郎]

材料・生産

洋家具の形式のものには、ほとんど広葉樹が使われる。構造部分にはブナホウカツラシナノキ、ラワン、クス、クルミ、タモ、トチなどのほか、輸入材のチークやウォールナットが使われる。

 生産は、特殊なものは手工芸によるが、ほとんどは機械生産によっている。主要な産地には府中(広島県)、大川(福岡県)、新潟、山形、東京などがある。桐だんすの産地は川越(かわごえ)、春日部(かすかべ)(埼玉県)、加茂(新潟県)などである。

[小原二郎]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「たんす」の意味・わかりやすい解説

たんす
chest of drawers

衣類,書類,食器を収納するための家具。「箪笥」とも表記される。一般には引き出しと戸棚からなり,木製のものが多い。収納する物に応じて,衣装だんす,茶だんす,書類だんすなどがあり,衣装だんすには衣類をたたんでしまう和だんすと,洋服をハンガーに掛けて収納する洋だんす,主として下着や小物類を入れる小型の整理だんすなどがある。茶だんすは茶器や食器などを収納するための棚やいくつもの引き出しを備えた家具である。日本では江戸時代中期以降,町人などの経済力の向上に伴い,保有する衣類や道具類などを収納する必要から,たんすが広く普及した。ケヤキ(欅)やクリ(栗),スギ(杉),ヒノキ(檜),キリ(桐)などの素材に拭漆(ふきうるし)か素地仕上げを施し,鉄金具をつけたものがおもにつくられた。地場産業として諸藩が身近な生活財であるたんすづくりに取り組んだが,明治維新後は海外に輸出された。生活様式の洋風化により和だんすの需要が減るなか,産地では伝統技術をいかした新たな商品づくりが行なわれている。岩手県奥州市の岩谷堂箪笥,宮城県の仙台箪笥,埼玉県の春日部桐箪笥,大阪府の大阪泉州桐箪笥などは国の伝統的工芸品に指定されている。

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