(読み)ちょう

精選版 日本国語大辞典 「糶」の意味・読み・例文・類語

ちょう テウ【糶】

〘名〙 穀物を売り出すこと。また、売るための穀物。うりよね。糴(てき)に対していう。

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改訂新版 世界大百科事典 「糶」の意味・わかりやすい解説

糶/競り (せり)

1人の売手に対し2人以上の買手が相互に値段を競い合い,最も高値を付けた買手に売ることを〈せり売り〉といい,卸売市場での生鮮食料品の標準的な売買仕法である。せり売りには買手が値をせり上げていく〈せり上げ〉と,売手が値をせり下げていく〈せり下げ〉があるが,せり下げはオランダベルギーなど一部で行われたところから,別名オランダぜりDutch auctionと呼ばれるように,特殊な物品,特殊なケースに限られる(街頭のバナナ売りなど)。せりの一般的な形態はせり売りだが,買手が1人で,2人以上の売手が競争して最も安値を付けた売手のものを買うのを〈せり買い〉といい,建築工事の請負官公庁の調度品入札などにみられる競争入札(入札)はせり買いの一種である。この両者の方法を取り入れ,多数の売手と多数の買手が互いに有利な値段を求めてせり合って値段を決める方式を競売買(きようばいばい)と呼び,商品取引所での中心的な売買仕法である。

 せり売りは品質差のある商品を大量に,しかもすばやく取引する取引仕法として発達し,卸売市場での生鮮食料品のほか,たとえば製材品についても製材所から委託された問屋が一定の手数料を取って材木店(小売店)にせり売りする市売(いちうり)方式が行われている。

 せり売りに対し,1人の売手と1人の買手が話合いで取引するのを相対(あいたい)売買と呼び,取引量や互いの信用状態によってその値決めはばらつくことが多い。製材品の場合は,せり売り形態の市売りに対して,問屋が製材所から自らのリスクで買い付け,個々に販売する方式を付売り(つけうり)と呼んでいる。なお,美術品のせり売り(オークション)については〈画商〉の項を参照されたい。
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糶,糴の文字はすでに早く上代に用いられ,糶(うりよね)・糴(かいよね)とよまれたが,それは米価調整のため,官府の貯蔵米(常平倉の米)を放出あるいは買い入れることで,今日のような意味ではなかった。せり売り・せり買い慣行の起源はつまびらかではないが,それが近世に入ってから一般化したものであることは,ほぼ明らかである。せり売方式は,まず商品の規格が一定しない生鮮食品類の取引に即して発展したといえる。現品を指示して急速に取引をとり決めることが,なによりそこでは必要だったからである。江戸日本橋の魚市は,寛永年間(1624-44)に問屋仲間をつくったが,せり市の確立は享保年間(1716-36),六組問屋仲間の確定のころからであるという。大坂天満の雑喉場(ざこば)では,すでに承応年間(1652-55)からせり市を開いている。また江戸の木場町,大坂の立売堀(いたちぼり)にも材木のせり市が開かれた。せり売方式は,書画・古道具の類の売買にも早くから用いられた。すでに西鶴の《世間胸算用》(1692)には,大晦日(おおみそか)の古道具市のせりの記事があり,宿元が1割の口銭をとって場所を提供し,雑多の品をそれぞれせり上げて売買するようすがよくうかがわれる。こうした商品は規格も一定せず,建値も基準がないため,せり売方式が最も自然の仕方となるわけであろう。また馬牛の市でもせり売りが多く行われた。藩がこの制を利用したものに南部藩のせり駒の制があり,また甲州でも一時せり駒が行われた。南部のせり駒は子馬を一定価格で藩が買い取り,それをせり市にかけて競売するもので,馬の良否によってときには基準価格を割ることはあっても,大部分はせり売りの結果それを上回ることになり,藩財政の一助としてかなり大きな役割を果たした。

 大都市における中央卸売市場制度の確立はそう古いことではないが,いずれもせり売りの方法を採用している。もっとも,そこには古くから袖下取引,符牒取引,算盤(そろばん)取引などの相対売買(値組)も同時に行われて公正を保ちがたかったが,1923年制定の中央卸売市場法で,せり売りの原則を定め,ここにせり売制度が確立された。なお同法は1971年に廃止され卸売市場法が制定されたが,せり売りに関しては旧法のそれを原則的に継承している。
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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【卸売市場】より

…市場業者は,(1)出荷者(生産者またはその代理人)から生鮮食料品等の販売委託を受け,これを仲卸業者(いわゆる仲買)および小売商等の売買参加者に販売する〈卸売業者〉,(2)卸売業者から買い入れたものを市場内の店舗で小売商,大口需要者等に販売する〈仲卸業者〉,(3)卸売業者または仲卸業者から生鮮食料品等を購入する小売商および大口需要者,から構成されている。そして,一般的には,卸売業者と仲卸業者や売買参加者との間における〈せり〉を原則とした取引と,仲卸業者と小売商等の間における〈相対〉による取引の2段階の取引が行われている。卸売業者については,生鮮食料品等の効率的な集分荷や確実かつ迅速な決済を行うことができるよう,制度的に参入規制がなされ,ふつう1市場につき1~2社に限定されている。…

【商品市場】より

…特定の日に開かれる木材,家畜などの(いち),干しシイタケ,鰹節,干しのり,荒茶などの入札会,野菜,果実,魚介,生花を中心とする卸売市場,原糸,大豆,ゴム,砂糖などを取引する商品取引所などがそれである。具体的な市場は,法律に基づいて特定の場所(施設)で一定のルールに従って継続して取引する商品取引所や卸売市場(中央,地方)のように高度に組織化された市場と,入札会,せり市,席上(せきじよう)取引,荷受市場など組織化の度合が比較的低い市場に分けられる。商品取引所,卸売市場は,それぞれ商品取引所法,卸売市場法という法律に基づいて運営されるから,法定組織市場ともいう。…

※「糶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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