せめて(読み)セメテ

デジタル大辞泉 「せめて」の意味・読み・例文・類語

せめ‐て

[副]動詞める」の連用形助詞「て」の付いたもの》
不満足ながら、これだけは実現させたいという最低限願望を表す。少なくとも。十分ではないが、これだけでも。「せめて声だけでも聞きたい」「せめて10歳若ければなあ」
しいて。無理に。
「霧ひとへ隔たれるやうに透きて見え給ふを、―絶え間に見奉れば」〈更級
痛切に。切実に。
「このことの―あはれに悲しう侍りしかば」〈大鏡・時平〉
非常に。きわめて。
高麗の紙の薄様だちたるが、―なまめかしきを」〈梅枝
[類語]少なくともせめても最低限最小限ミニマム

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「せめて」の意味・読み・例文・類語

せめ‐て

〘副〙 (動詞「せむ(迫)」「せめる(責)」の連用形に「て」が付いてできたもの。対象に間隔を置かず、さしせまって、逼迫(ひっぱく)して、の意から)
① (他にせまり他をせめる意から) しいて。むりに。たって。つとめて。
※平中(965頃)二七「せめて対面にと言ひければ」
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「いとどいみじき物思ひさへまさる心地して、恥づかしくいみじけれど、せめてのたまへば」
② (自分にせまり自分をせめる意から) 切実に。しきりに。熱心に。
※平中(965頃)三「時をいつとはわかねどもせめてわびしき夕暮れはむなしき空を眺めつつ」
※大鏡(12C前)六「人やあるともおぼしたらで、せめて弾き給を、きこしめせば」
③ 非常に。ひどく。たまらなく。はなはだしく。
※枕(10C終)二六四「せめておそろしきもの、夜鳴る神」
源氏(1001‐14頃)幻「せめてさうざうしき時は、かやうにただ大方にうちほのめき給ふ折々もあり」
④ (①から⑤へ移る過程的な意味で) むりにがまんすれば。しいていえば。
太平記(14C後)一二「是はせめて俗人なれば言ふに足らず。彼の文観僧正の振舞を伝(つたへ)聞こそ不思議なれ」
⑤ 最小限これだけは実現してほしかった、実現してほしい、という話し手気持を表わす。これだけでも。少なくとも。
※金刀比羅本保元(1220頃か)上「ぜひなく位を押し取られ給て、せめて廿年の御宝算をだにも保たせ給はず」
※太平記(14C後)一一「跡に留(とど)めし妻子共も如何成りぬらんと責(せめ)て其の行末を聞て後心安く討死をもせばや」
[語誌](1)中古前期から副詞として用いられた。この時期に、動詞から派生した副詞は「併せて」「改めて」「強ひて」など数が多い。
(2)もともとは、派生する元の動詞「せむ(迫)」の意を残した情態副詞であったが、③のように程度副詞としても用いられるようになった。⑤のような、現代語で使われる叙述限定を表わす用法は、中世からその用例がみられる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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