すざく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「すざく」の意味・わかりやすい解説

すざく

宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が2005年(平成17)7月にM-Ⅴロケットにより打ち上げたX線天文衛星。計画名はASTRO-EⅡ(アストロイーツー)。2000年に打上げに失敗したASTRO-Eの代替機。日本のX線天文学の歴史を開いた「はくちょう(打上げは1979年(昭和54)、以下同)」「てんま(1983)」「ぎんが(1987)」「あすか(1993)」に続く5番目のX線天文衛星。高度550キロメートルの円軌道を96分かけて地球を周回(1日に15周)しながら銀河団X線スペクトル観測する。衛星形状は6.5メートル×2.0メートル×1.9メートルで、質量は約1680キログラムである。「すざく」は、宇宙の高温プラズマの高精細な分光観測、および高感度広帯域の測光・分光観測によりブラック・ホールの周りの物質の運動や銀河団の形成・進化の問題に新しい光をあてる科学的成果を目ざした。「すざく」にはX線用に開発された特殊な望遠鏡(口径約40センチメートル、焦点距離4.5~4.75メートル)とCCDセンサーが搭載されている。また、よりエネルギーの高い硬X線(10~700キロエレクトロンボルト(keV))の観測には、シンチレーターとシリコン検出器を使用している。また、X線マイクロカロリメーターというセンサーも搭載された。これはX線微少熱量計とよばれるX線分光装置で、非常に高いエネルギー分解能を有している。従来は1本に見えていた輝線の細かな構造を分離することができ、X線天体の温度、密度元素組成や運動のようすをこれまでとは質的に異なる精度で求めることが可能になる。このためには、センサーを極低温に冷却することが必要で、液体ヘリウムが使用される。打上げ後、センサーは予定通りに0.06ケルビン(K)まで冷却され、試験用の放射線源を使って所期の性能を達成していることが確認された。その後、ヘリウムの蒸発が連鎖的に発生し、X線マイクロカロリメーターでの観測はできなくなった。「すざく」は、目標寿命である2年を大幅に超え、約10年にわたって運用が続けられてきたが、電源系(バッテリー)の劣化により観測の継続が不可能と判断され、2015年8月に運用を停止した。

 従来のX線観測衛星の観測帯域が10keVであったのに対し、「すざく」は700keVまで観測可能で、世界最高レベルの感度を達成するなど優れた観測能力を実証し、宇宙の構造形成やブラックホール直近領域の探査等で成果をあげた。また、研究チームは、おとめ座銀河団では、マグネシウムやケイ素、硫黄も銀河団の外側までほぼ同じであることを明らかにした。このことから、銀河団内では元素がよく混ざっていて一様になっていることが明らかになった。

[森山 隆 2017年3月21日]


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知恵蔵 「すざく」の解説

すざく

JAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げた天文衛星。「すざく(朱雀)」は2005年7月10日に打ち上げられた日本の5代目のX線天文衛星。一部の機器の不具合により精密なX線分光観測は不可能になったが、他の観測機器は順調に動作。特に高エネルギーX線観測に威力を発揮し、観測成果をあげつつある。銀河団が衝突・合体する様子や、巨大ブラックホールに吸い込まれる直前の物質からの放射などを観測し、宇宙の進化や一般相対論的な時空構造の解明などに活躍が期待される。

(谷口義明 愛媛大学宇宙進化研究センターセンター長 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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