精選版 日本国語大辞典 「じ」の意味・読み・例文・類語

〘助動〙 (活用は「○・○・じ・じ・じ・○」。用言助動詞未然形、ただし、形容詞活用語にはカリ活用語尾に下接する)
① まだ実現していない事柄に対する打消推量を表わす。ほぼ助動詞「む」の打消にあたる。…ないだろう。
万葉(8C後)五・九〇五「若ければ道行知ら士(ジ)(まひ)はせむ下への使負ひて通らせ」
※竹取(9C末‐10C初)「かの国の人きなば、たけき心つかう人も、よもあらじ」
② まだ実現していない話し手自身の行為に対する打消の意志を表わす。…しないつもりだ。…しないようにしよう。
古事記(712)上・歌謡「泣か士(ジ)とは 汝(な)は云ふとも 山処(やまと)の 一本薄(ひともとすすき) 項傾(うなかぶ)し 汝が泣かさまく」
※万葉(8C後)一四・三三六五「鎌倉の見越の崎の岩崩(いはくえ)の君が悔ゆべき心は持た自(ジ)
[語誌](1)成立に関しては、「あゆひ抄‐四」が「『じ』は『ず』の立居(活用)也」というように、「ず」との関係が考えられる。
(2)上代において、活用形は終止形にほぼ限られる。また、已然形の例は確認されていない。
(3)中古においても、狭義係り結び(「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」の結び)とならず、接続法(「…じど」「…じば」の形)にも用いられないため、連体形、已然形の用法は活発でない。「源氏玉鬘」に「負けじ魂」とあるのは連体形の例だが、已然形については、中古に確かな例がない。
(4)中世になると、「こそ」の結びの例が見られる。ただし、この時期には「こそ」が係助詞としての機能を失いつつあり、副助詞化している可能性がある。よって、「じ」の已然形として積極的に認めることはできない。

〘接尾〙 名詞に付いて、シク活用の形容詞をつくる。それらしいさま、それのような様子の意を表わす。「時じ」「男じ」「鴨じ」など。
※雑俳・千枚分銅(1704)「びんぼじく成るわろでこそあれ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「じ」の意味・読み・例文・類語

じ[助動]

[助動][○|○|じ|(じ)|(じ)|○]活用語の未然形に付く。
打消しの推量を表す。…ないだろう。…まい。
「人の心にはつゆをかしからと思ふこそ、またをかしけれ」〈・一三〇〉
打消しの意志を表す。…ないようにしよう。…まい。→まじ
「(双六すぐろくハ)勝たんと打つべからず。負けと打つべきなり」〈徒然・一一〇〉
[補説]連体形の例は少なく、已然形も「こそ」の結びとして用いられるだけである。室町時代以降、「まい」「まじい」に吸収され用いられなくなる。

じ[接尾]

[接尾]体言に付いて、シク活用の形容詞をつくる。
…ではない、…に関係ない、などの意を表す。「とき
それらしいさま、そのようなようす、などの意を表す。「男」「鴨
[補説]2は、一般に「じもの」の形で用いられる。→じもの

じ[五十音]

」の濁音。硬口蓋の有声破擦子音[dʒ]と母音[i]とからなる音節。[dʒi]
[補説]清音「し」に対する濁音としては、本来、硬口蓋の有声摩擦子音[ʒ]と母音[i]とからなる音節[ʒi]が相当するが、現代共通語では一般に[dʒi]と発音する。しかし、[ʒi]とも発音し、両者は音韻としては区別されない。古くは、[dzi](あるいは[dʒi][ʒi])であったかともいわれる。室町時代末には[ʒi]と発音され、近世江戸語以降[dʒi]と発音された。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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