晒粉(読み)さらしこ

精選版 日本国語大辞典 「晒粉」の意味・読み・例文・類語

さらし‐こ【晒粉】

〘名〙
① 米の粉を水にさらして白くしたもの。
消石灰塩素ガスを吸収させて製した白色粉末漂白殺菌作用が強いので漂白剤殺菌剤消毒剤などに広く用いられる。漂白粉カルキクロールカルキクロール石灰
米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉三「一箇年に〈略〉漂白粉(サラシコ)〈『コロールカルキ』の類なり〉、百二十万磅を製するに至る」

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改訂新版 世界大百科事典 「晒粉」の意味・わかりやすい解説

晒粉 (さらしこ)
bleaching powder
chlorinated lime

漂白粉,カルキともいう。次亜塩素酸カルシウムを有効成分とする白色粉末で,アルコールや水によく溶ける。塩素に似た刺激臭を放ち次亜塩素酸ナトリウム亜塩素酸ナトリウムなどとともに強い酸化漂白作用をもつ。そのため,さらし粉は一般に漂白剤,殺菌剤として用いられる。さらし粉の主成分の組成Ca(OCl)2・CaCl2・2H2Oであり,この純粋な物質の酸化作用を営む有効な塩素量は48.9%であるが,実際の工業製品にはCa(OCl)2,CaCl2,Ca(ClO32,H2Oからなる固溶体と消石灰が含まれるため,有効塩素量は33~38%で,日本薬局方,食品添加物およびJIS1級では,30%以上含むことと規定されている。不純物(無効成分)を除いてCa(OCl)2に近いもの(有効塩素量60%以上)は高度さらし粉として別に市販されている。さらし粉は日光照射,温度の上昇,水および重金属の存在などにより,

 Ca(OCl)2・CaCl2・2H2O─→2CaCl2・H2O+O2

のように分解し酸化作用を呈する。さらし粉を水に溶かすと,次亜塩素酸HOClを生じ,これは次式に従って徐々に分解し漂白・殺菌作用を与える。

 2HClO─→2HCl+O2

 3HClO─→2HCl+HClO3

この際,酸の添加により反応が促進されるので,ホウ酸,炭酸などを加える。さらし粉の殺菌効力は強く,低濃度(0.1~数ppm)で細菌やウイルスを,高濃度(50ppm以上)では芽胞を不活性化する。

 一般に次亜塩素塩は常温においても不安定で,とくに夏季の自然分解率は大きい。通常,有効塩素量6%くらいまではかなり速く分解するが,以後緩慢となる。さらし粉の貯蔵に際しては,日光照射,高温,重金属および酸の混入は避ける必要がある。なお,高度さらし粉はより安定している。

消石灰,消石灰乳を静置あるいは散布する非連続的な方法,およびキルン,塔式による連続的な製法があるが,いずれも消石灰に塩素を通し塩素化して次亜塩素酸塩を生成する。反応は,

 2Ca(OH)2+2Cl2─→Ca(OCl)2+CaCl2+2H2O

 ⊿H=-138.14kJ

の大きな発熱反応である。この際,反応塩素量を調節して反応熱を制御し,pHを12以上に保ち塩素酸塩の生成を防ぐ。原料アルカリ中の重金属は極力避ける必要がある。また反応温度は40℃以下に保つ。

製紙工業のパルプの漂白が最も多くて約40%,無機工業薬品用として14%,染色工業用11%,医療・衛生用その他に27%が使用され,ほかに8%が高度さらし粉として輸出されている。医療・衛生用としては,飲料水や下水・プール水の消毒,毒ガスの中和,伝染病患者が使用した器具・食器の消毒・殺菌などに用いられる。

 さらし粉製造の歴史は古く,1799年に固形で市販されている。1825年にはラバラック液として感染創の洗浄に使用され,また47年にI.P.ゼンメルワイスが産褥(さんじよく)熱の院内感染防止のために,さらし粉液で手を洗うことで成功を収めたことは有名である。

 なお,さらし粉や高度さらし粉と製法は同様であるが,目的物を析出させず高濃度(有効塩素量8~10%)の有効塩素の水溶液とした,さらし液も多量に使用される。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の晒粉の言及

【次亜塩素酸カルシウム】より

…さらし粉以外の漂白剤の原料ともなり,分析化学の標準液としても用いられる。晒(さらし)粉【曾根 興三】。…

【テナント】より

…イギリスの工業化学者・企業家。漂白工から身をおこし,化学工場を経営した。1774年K.W.シェーレが塩素を発見し,次いで85年にC.ベルトレは,塩素溶液の漂白力に注目し,布の漂白剤として用いたが,液体のため輸送が困難であった。そのような状況にあってテナントは漂白剤の製造に従事し,99年塩素を消石灰に通じることによって粉末化に成功し,漂白業に革命をもたらした。彼はすぐにこの漂白粉(さらし粉)の製造に関する特許を得て,この製造工場をセント・ロロックスにつくった。…

【漂白剤】より

…漂白に使用される化学試剤。漂白剤は対象物に含まれる有色物質と化学反応を起こし分解ないし変化させ無色物質にする作用をもつが,大きく分けて酸化反応を利用するものと還元反応を利用するものがある。そのほかに染色工業で使用される白さを増すための蛍光増白剤があるが,これは目的は類似しているが漂白剤とは区別すべきである。
[酸化性漂白剤]
 さらし粉は代表的な酸化性漂白剤で,主成分はCa(ClO)2・CaCl2・2H2Oである。…

【滅菌】より

…微生物の生細胞を殺すことを殺菌といい,滅菌とは非病原菌,病原菌,細菌胞子もすべて殺すことをいう。一般には同じように用いられている消毒とは,病原微生物を殺すことを意味する。消毒・滅菌法には物理的方法と化学的方法がある。
[物理的方法]
 最も簡単な方法は焼却法で,汚染された繊維製品,衣類,紙類などに用いられる。煮沸法は,適当な容器に水を入れ,そのなかに金属,ガラス製品などを入れ,沸騰したらそのまま20~30分沸騰を続ける。…

※「晒粉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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