さまよえるユダヤ人(読み)さまよえるユダヤじん(英語表記)Wandering Jew

翻訳|Wandering Jew

精選版 日本国語大辞典 「さまよえるユダヤ人」の意味・読み・例文・類語

さまよえる‐ユダヤじん さまよへる‥【さまよえるユダヤ人】

〘名〙 (The Wandering Jew の訳語) ヨーロッパ伝説刑場にひかれて行くキリストを辱(はずか)しめた一人ユダヤ人が、死ぬこともできず永遠に放浪するという筋。ゲーテワーズワースなどの詩にとりあげられ、ウージェーヌ=シュー同名小説がある。永遠のユダヤ人。

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デジタル大辞泉 「さまよえるユダヤ人」の意味・読み・例文・類語

さまよえる‐ユダヤじん〔さまよへる‐〕【さまよえるユダヤ人】

The Wandering Jewの訳語》欧州伝説で、刑場へ引かれるキリストを侮辱した罰として、死ぬこともできず、永遠に世界をさまようというユダヤ人ゲーテワーズワースの詩にも登場する。永遠のユダヤ人。
原題、〈フランスLe Juif errantシュー長編小説。日刊紙コンスティテュショネルに1844年から1845年にかけて連載

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改訂新版 世界大百科事典 「さまよえるユダヤ人」の意味・わかりやすい解説

さまよえるユダヤ人 (さまよえるユダヤじん)
Wandering Jew

ヨーロッパの伝説に語られる永遠に呪われた放浪者。中世末期に広まった伝説によれば,十字架を担って刑場におもむくキリストがアハスエルスアハシュエロス)Ahasuerusなる靴屋の家の前で休息をもとめたとき,彼はこれを拒絶した。そのときキリストは〈汝,我の来たるを待て〉と答えて立ち去り,それ以後アハスエルスは故郷と安息とを失い,〈最後の審判〉の日まで地上をさまよう運命を負わされたという。また,聖アルバン修道院の年代記(13世紀初頭)によれば,ピラトの下で裁判所の門衛をつとめるカルタフィルスCartaphilusという者が,キリストを打擲(ちようちやく)したため,同じ罰を受けることになったという。彼は100年ごとに昏睡におち,30歳ほどの若者となって目ざめるという伝説も生じた。ドイツではブッタダエウスButtadaeusという人物と結びつけられ,アントワープでは16世紀までに3度その姿が目撃され,最後に現れたのは1774年のブリュッセルといわれる。フランスではラケドンLaquedonあるいはラケディオンLakedionの名で語られる。オイディプスのように古代より放浪を宿命づけられた王の伝説があり,ユダヤ人の歴史的体験ディアスポラ)そのものが素材を提供していると考えられるが,より端的にはヨーロッパに根強い反ユダヤ人意識の伝説化といえよう。なおイギリスではシマフムラサキツユクサ等数種の植物,不吉な鳴き声を立てる鳥タゲリをwandering jewと呼ぶ。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「さまよえるユダヤ人」の意味・わかりやすい解説

さまよえるユダヤ人
さまよえるユダヤじん
Wandering Jew

最後の審判の日まで放浪を続ける運命を負わされた伝説のユダヤ人。彼は十字架を背負って刑場へ引かれていくイエスを嘲笑して,「とっとと行け」といったのに対して,イエスは「私は行くが,お前は私が帰ってくるまで待っていなければならない」と答えたといわれる。そのユダヤ人が実在しているという話が残っている。それは靴屋のアハスエルスといい,1542年ハンブルクで彼に出会ったというドイツの司教は,彼がイエスの罰を受けた「永生の」人間であるというのを聞いたと伝えている。この話を記したパンフレットが当時広く行き渡った。イギリスの年代記作者ロジャー・オブ・ウェンドーバーはもっと古い伝説を伝えている。 1228年イギリスに来たアルメニアの大司教が,イエスを嘲笑したユダヤ人に会ったが,その男はピラトの召使カルタピルスで,のちに改宗して洗礼を受けヨセフと名を改めたと語ったという。同種の伝説は他にも記録されている。永遠の罰を受けて,休みなく放浪を続ける人間という伝説は,ヨーロッパ各国で多くの作家の興味を喚起したが,特にレーナウ,シャミッソー,A. W.シュレーゲルなどドイツ・ロマン派の詩人が好んで題材とした。ゲーテもその一人であった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「さまよえるユダヤ人」の意味・わかりやすい解説

さまよえるユダヤ人
さまよえるゆだやじん
the wandering Jew

ヨーロッパに流布した伝説上の人物で、エルサレムの靴屋、アハシェロスという名のユダヤ人。彼は、十字架を担って刑吏に引かれて刑場ゴルゴタ(カルバリ)の丘へ向かう途上のイエス・キリストが彼の軒先でしばらく休もうとしたところ、イエスをののしり石を投げて追い立てた。そのときイエスが、「私がこの世にふたたびくるときまで、あなたは休む間なく、死ぬことすら許されず、地上をさまよい続けるであろう」と述べて、そこを立ち去った、という。

 この伝説は、1602年オランダのライデンに、この男に実際会ったという者が現れ、その証言集ともいうべき『アハシェロスという名のユダヤ人の話』と題するパンフレットが出回ってから、ヨーロッパ一円に広まった。ちなみに、すでに13世紀ごろ、イエスの十字架刑を許可したことで知られるローマ総督ピラトの下僕、カルタフィリスという人物についてもよく似た伝説がある。

 これらのユダヤ人は、紀元前6世紀に亡国の民となって以来、離散・放浪を余儀なくされたユダヤ民族の象徴であり、ヨーロッパ世界のユダヤ人差別の反映である。

[定形日佐雄]

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世界大百科事典(旧版)内のさまよえるユダヤ人の言及

【不老不死】より

…また不老ないし不死の獲得が人間にとりいちがいに好ましい状態であるとも断言できず,事実ヨーロッパでは悪魔に魂を売ったり神罰を受けた者は死ぬことができなくなり,永遠にこの世をさすらう。〈さまよえるユダヤ人〉の伝説や,C.R.マチューリンのゴシック・ロマンス《放浪者メルモス》の主人公などがその例で,ファウスト伝説もこれに含まれよう。しかし一般には,不老と不死を同時に獲得することが幸福の永続を意味すると考えられ,古来盛んにその方法が探究された。…

※「さまよえるユダヤ人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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