これからの内科学

内科学 第10版 「これからの内科学」の解説

これからの内科学 - 挑戦と応戦 (内科学総論)

 そもそも内科学(internal medicine)とは,患者の観察から出発し,それを体系的に把握して科学的に分析し,その病態生理および病因を明らかにすること,そしてその知見に基づいて新しい診断法や治療法を開発し,これを患者および社会に還元して医療の質向上を目指す学問である.また,内科学はその診療分野として,幅広いプライマリ・ケアの段階から,臓器器官を中心とした高度専門医療,さらには重篤な患者の救命治療や先端医療技術の実地診療への導入まで広い範囲の領域を担当する分野でもある.手術などをおもに担っている外科学など,多くの医学・医療分野と密接な関連を有するとともに,その進歩には理学工学といった異なる学問領域との連携も重要になっている.
 一方,内科学は医療として社会と幅広い接点を有することから,社会の動向が敏感に反映される分野でもある.すなわち,最近進展著しい国際化とともに,経済の状況,人口の少子高齢化,情報化,技術の高度先進化などの社会の大きな潮流に伴って,医療に対する価値観や伝統的な概念が急速に変わりつつあり,内科学,特に医療としての内科学は,社会とともに歩んで進歩し,変革しなければならない.そこで,社会と患者の価値観を反映した医療が課題になっている.
 さらに,内科学も最近進展著しい生命科学分野における分子生物学遺伝子生物学に関する知見の爆発的な集積により,基盤となる疾患の病態生理が分子レベル,遺伝子レベルから理解されるようになり,それぞれの病態に的確に反応する有効性の高い治療法や診断法が次々と開発され,がんなどの難病も集学的な治療で克服されて,大きな変革を遂げることができた.また,従来からの患者の病態を観察して分析することからはじまった内科学の研究も,はじめは臨床とは関連のなかった遺伝子解析などによる基礎的な生命科学で得られた知見により,一気に病態が解明されて,革新的な治療法や診断法が開発されるという新しい臨床研究の流れが形成されるようになった.一方,コンピュータを活用したITシステムの発達により,診療データの蓄積と分析を行うデータマネジメントの手法も導入されるようになって,臨床的に有用性の高い新たな知見も得られるようになった.
 このような医学と医療の目覚ましい進歩に伴い,わが国における疾病構造も大きく変化した(図1-1-1).すなわち,結核を中心とする感染症が制御されるようになるとともに,国民死亡原因の大半を占めていた脳出血が,高食塩と低カロリーの食生活を改善して,高血圧をコントロールすることにより防止されるようになり,国民は長寿を獲得し,経済も大いに発展するところとなった.その後ライフスタイルの欧米化により,高脂肪,高カロリー食へと大きく変化し,肥満,糖尿病,動脈硬化などの生活習慣病が国民に蔓延した.その結果,冠動脈疾患や脳梗塞などの心血管疾患が国民死亡原因に占める割合が大きくなり,最近の人口の高齢化もあって,がんとともにその1/3を占めるようになった.しかも,単一の臓器だけでなく,多くの臓器の障害を伴う病態が一般的となり,先端的な高度専門医療に加えて,全人的なアプローチによる医療の推進も社会的なニーズの高い課題になっている.
 このような視点から,医療のあり方も大きな変革を迫られているところであり,社会の期待する医療も治療効果という医学的尺度のみならず,患者の目線に立って安全で信頼され,しかも患者の価値観が反映されることがきわめて重要なポイントになっている.これからの内科学は,このような社会からの要望に的確に応えていかなければならない.[矢﨑義雄]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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