がん登録(読み)がんとうろく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「がん登録」の意味・わかりやすい解説

がん登録
がんとうろく

がん診断治療経過などについて情報を集め、保管整理・解析することで、国内のがんの状況を把握・分析する全国的な仕組み。がんの患者数や罹患(りかん)率・死亡率生存率、治療経過の把握など、がん対策を推進するための基礎となる登録システムである。大別して、居住地域にかかわらず全国からがんと診断された人のデータを収集する「全国がん登録」と、医療機関でがんと診断されたり、治療を受けた患者の情報を把握する「院内がん登録」の二つがある。

[渡邊清高 2022年4月19日]

全国がん登録

以前は都道府県がそれぞれの自治体内で診断されたがんの情報を収集する「地域がん登録」制度があったが、がんと診断された後で他県に移動するとデータが重複してしまうなどの問題があった。これに対し2013年(平成25)に「がん登録等の推進に関する法律」(以下「がん登録推進法」)が成立し、2016年から施行され、国ががんに関する情報を収集・管理する全国がん登録がスタートした。

 居住地域にかかわらず、全国どこの医療機関であっても、がんと診断された人のデータは、都道府県に設置された「がん登録室」に収集され、国(国立がん研究センター)の「全国がん登録データベース」で一元管理される。ここで集められる情報は、(1)がんと診断された人の氏名性別生年月日、住所、(2)がんの診断を行った医療機関名、(3)がんの診断を受けた日、(4)がんの種類、(5)がんの進行度、(6)がんの発見の経緯、(7)がんの治療内容、(8)(死亡した場合は)死亡日、(9)その他である。なお、ここで集められる情報は統計の正しさが優先されるため、「がん登録推進法」で本人の同意を得なくてもよいとされている。しかし一方で、個人情報の保護や管理、罰則に対する規定も同法で細かく定められており、がん登録の業務に従事する職員は個人情報の取扱いやデータの処理方法に関して専門的な研修を受けた「がん登録実務者」が担当している。

 ここで得られたがん統計情報は、地域におけるがんの実態把握やがん診療連携拠点病院をはじめとするがん医療提供体制の整備、がん検診体制づくり等、国や都道府県のがん対策に大きく役だっている。

[渡邊清高 2022年4月19日]

院内がん登録

院内がん登録も「がん登録推進法」で定められており、その医療機関でがんと診断されたり、治療を受けた人のデータを診療科を問わずに収集し、その医療機関でのがん診療の実態を明らかにする調査のことである。この調査を全国の医療機関が行うことで、施設ごとのがん診療の特徴が明らかになる。全国がん登録より詳しい項目として、たとえば、受診までの経緯の違い、治療方法の違いなどの情報を収集している。国立がん研究センターがん対策研究所では、全国のがん診療連携拠点病院等の院内がん登録情報を収集し、全国レベルや都道府県レベルおよび施設ごとの集計結果を公表している。

[渡邊清高 2022年4月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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