かむ

精選版 日本国語大辞典 「かむ」の意味・読み・例文・類語

か‐む

〘終助〙 感動詠嘆の意を表わす助詞「かも」の上代東国方言。
万葉(8C後)二〇・四四〇三「大君の命かしこみ青雲(あをくむ)の棚(との)引く山を越よて来ぬ加牟(カム)

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デジタル大辞泉 「かむ」の意味・読み・例文・類語

かむ[終助]

[終助]《上代東国方言》終助詞かも」に同じ。
「大君のみことかしこみ青雲あをくむのとの引く山を越よてぬ―」〈・四四〇三〉

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「かむ」の意味・わかりやすい解説

かむ
かむ / 噛む

生きものが食物をとるとき、もっとも簡単な型では「吸う」、すこし複雑になってくると「なめる(舐める)」「かじる(齧る)」があり、さらに「かむ」というように、口の部分での食物のとり方には、さまざまある。液性の食物に比べて、植物性・動物性の食物塊をとる場合には、食べるために、まず「引き裂く、引きちぎる、かみ切る、擦りつぶす」といった、主として機械的な動作が必要である。それらをまとめて普通「かむ」といっている。したがって、そのための種々の構造ができあがっている。

[藍 尚禮]

かむために必要な構造

「引き裂くため、引きちぎるための牙(きば)」「かみ切り、かみ砕くための牙」そして「擦りつぶすための牙」というように、それぞれ役割のはっきり決まった固い組織、それを支えるための骨格、さらにその骨を動かすための強靭(きょうじん)な筋組織とがある。こうしたものすべてがそろっていないと、かむ装置を備えている動物の場合、食物の摂取、ひいては消化までできないことになる。かむという動作一つをとってみても、非常に多くの種類の動物に、さまざまな「かみ方」をみることができる。

 たとえばウニヒトデの仲間の棘皮(きょくひ)動物でも、すでに食物をかむ歯のようなものがあり、そこに筋肉が付着しているのをみることができる。

[藍 尚禮]

昆虫

もっともよく知られているのは昆虫の場合で、大きいあご(顎)、小さいあごと、何枚かの牙状の顎脚(あごあし)が左右についていて、これが同時に物を挟むようにするので、肉食用にも草食用にも都合のよいでき方をしている。この顎脚は脚とよばれるだけに、もともと、あし(脚)であったはずのものが、進化の過程で物をかむための装置に変わってきたものである。イナゴバッタコオロギなどの直翅(ちょくし)類昆虫ではとくに大きく発達している。このようなかむ装置は、左右から物をかみ、引きちぎり、口の奥に押し込むといった、種々の役割をもあわせもつものであるが、ヒトの場合のかむ装置と比べてみると、その違いがよくわかる。

[藍 尚禮]

脊椎動物

かむための仕組みで、もっともよく進化しているのは、なんといっても脊椎動物の場合で、これは、どのような餌(えさ)を主としてとるかの食性によって変わっている。しかし一般に肉食性の動物は、引きちぎり、引き裂くための歯が前方に位置し、先は鋭くなっている。門歯、犬歯とよばれている歯が、それらの役を果たすもので、門歯でかみ切り、犬歯つまり牙で餌を押さえる。イヌ、ネコの場合に、このことがよくわかる。

 ウシ、ウマのように草食性の動物の場合、門歯、犬歯などよりも、むしろその奥に並んでいる臼歯(きゅうし)が重要で、消化しにくい植物性の餌を、擦りつぶすための装置として役だっている。したがって歯の形は上面平坦(へいたん)で台型をなし、上下の歯で上下・左右に擦りつぶすのに都合よくできている。もちろん固い餌をかみ砕くためにも利用されるので、草食性の動物に限らず、肉食性の動物の場合にも、これらの歯はよく発達している。

[藍 尚禮]

ヒトの場合

ヒトの場合、「かむ」動作は、おもに食物をかみ砕く目的に利用されるほか、ときには縫い糸を切るなどに役だてることもある。かむために、咬筋(こうきん)とよばれる横紋筋を収縮させて下(した)あごを強く上(うわ)あごに押し当てるとき、筋自身の中に収縮の大きさを調節する仕組み(筋紡錘(きんぼうすい))があり、やたらにむだな力を出してかむことのないようにしている。もっとも強くかむと、1平方センチメートル当り、その人の体重と同じ重量が出るといわれ、その力の大きさが想像できる。物の固さ、柔らかさは、歯の根の部分にある神経で知覚するといわれ、この部分には、1ミリメートルの1000分の50以下のわずかの歯のひずみにも、異常を感じる鋭い感覚があるといわれている。

 ヒトは「雑食性」のため、これらの歯は、イヌ、ネコのように鋭い牙状にもなっておらず、ウシ、ウマにみられる大きい臼(うす)型の歯になっているというわけでもない。しかし、動物の進化の跡をきちんと示すように、ヒトの左右の上あご・下あごの歯は、門歯、犬歯、小臼歯、大臼歯が2・1・2・3と計8本、上あご・下あご全体では32本の歯がそろっている。ヒトの歯は、胎児の時代に、すでに歯のもとになる細胞が上あご・下あごにきちんとそろっているが、一生のうち歯の生えかわりが幼児期にある(乳歯から永久歯へ)ほかには、ネズミにみられるような歯の絶え間ない成長はない。また、もっとも奥の臼歯は、生涯生えないことすらある。食性の変化により、歯の形や数がかならずしも固定的に決まっているものではないらしい。

[藍 尚禮]

かむことがもつ行動学的意味

いままで述べてきた食物のとり方とは別の側面で、「かむ」ことの行動学上からの関心が、最近高まってきている。よく知られているイヌやネコでの「軽いかみ合いによる仲間づくり」から、身を守るための闘争の道具としての「かみ合い」、また、毛づくろいにみられる親愛・求愛の行為に「かむ」というしぐさもよく見受けられる。そのほか、手で仔(こ)を抱えるかわりに、かむことで仔を運ぶことも行う。これらは、すべて前肢が歩行の目的に主として使われるため、ヒトの場合のように、前肢=手、と後肢=足の機能的区分が明瞭(めいりょう)になっていない場合に多く、「かむ」行為が物を食べるという本来の目的以外に使われている例といえよう。

 こうした食物をとるとき以外にも「かむ」しぐさをする動物の場合、上あごと下あごとを動かす筋肉がよく発達していて、そのうえ、その筋肉の収縮の大きさまで微妙に調節することのできる神経連結までできあがっている。固い食物、柔らかい食物をかむとき、また同類の動物との友情表現・求愛表現の際のかみ方などは、すべてコントロールされた筋の収縮のおかげで、そのときどきの必要な「かみ方」をつくりだすのである。

[藍 尚禮]


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