いも

精選版 日本国語大辞典 「いも」の意味・読み・例文・類語

いも

〘名〙
① 贈り物の包み紙の上に書く平仮名文字。熨斗鮑(のしあわび)の形を略画にしたもので、「のし」と同様という。おもに女子が用いた。
② 手紙、口上書などの末尾に書く「以上」の草体。
※雑俳・柳多留‐五二(1811)「文は梅手紙の末はいもで留め」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「いも」の意味・わかりやすい解説

いも
いも / 芋

植物の根または地下茎が養分を貯蔵して、球形や紡錘形などに肥大したもの。古名「うも」。栄養繁殖のための器官で、地上部が枯れて冬を越した翌春に、いもに蓄えられた養分が萌芽(ほうが)、初期生育のエネルギー源となる。花を咲かせるための栄養となるものもある。形成の仕方で次のように分ける。

(1)根が肥大した塊根 サツマイモキャッサバダリアホドイモ、クズなど。

(2)地下茎が肥大した塊茎 ジャガイモキクイモアメリカホドイモクワイなど。サトイモコンニャクシクラメンなどは茎の基部が肥大したもの。

(3)担根体 地下茎と根の中間的な性質のいもで、ナガイモヤマノイモなど。

 繁殖のもとになるいもを種いもとよぶが、萌芽後に消失して秋までにふたたび新生されるものと、種いもが生存し続けるものとがある。いずれも、秋までには種いもより大きないもを形成するが、そのほかに多くの子いもをつくるものが多い。この場合、種いもを親いもとよぶ。

 いもに蓄積された養分はデンプンなどの多糖類で、食用をはじめ醸造用などの工業原料や飼料とする。また、デンプンを取り出して、食用および糊(のり)その他工業原料ともする。

[星川清親]

いもの種類と用途

ジャガイモ(ナス科)は、世界でもっとも広く栽培されているいもで、約1860万ヘクタールに作付けされ、3億2000万トンの収穫量(2005)である。ロシアや中国、ヨーロッパ諸国での栽培が多い。日本の作付面積は約8万8000ヘクタール、収穫量は290万トン(2005)ほどで、主産地は北海道である。食用のほか、デンプン採取用や養豚などの飼料とする。サツマイモ(ヒルガオ科)は、世界で約873万ヘクタールに作付けされ、1億3000万トンが収穫される(2005)。日本では作付面積4万1000ヘクタール、収穫量105万トン(2005)で、主産地は鹿児島、茨城、千葉、宮崎。食用のほか、アルコールやデンプンの原料、飼料とする。キャッサバ(トウダイグサ科)は、ナイジェリアブラジルインドネシアコンゴ民主共和国(旧、ザイール)などの熱帯、亜熱帯を中心に1863万ヘクタール作付けされ、収穫量は2億0386万トンである。デンプンはタピオカと称し、食用とする。アルコール原料としても重要である。ヤムイモヤマノイモ科)は、ナイジェリアなど世界各地で約444万ヘクタール作付けされ、収穫量は4000万トンほどである。日本では、この仲間のナガイモやダイショが栽培され、煮物やとろろにして食べたり、練り製品や菓子の原料とする。タロイモサトイモ科)は、アフリカ中西部を中心とし、オセアニアに至る熱帯で183万ヘクタール栽培され、収穫量は1069万トンほどである。日本のサトイモもこの仲間である。同科のコンニャクはおもにアジアで栽培され、消化吸収できない多糖類の一種のマンナンを含むことから、ダイエット食品としても利用され、糊(のり)原料ともなる。

[星川清親]

いもと人間

いもは世界中に広く分布し、古くから食物として利用されてきた。狩猟採集民でも、いもを掘ったあとにその断片を埋め戻す程度のことはしており、根茎類が栄養繁殖で増えることを知っている。しかし人為的ないも栽培の起源と伝播(でんぱ)については、考古学的にも植物学的にも証明がむずかしく、よくわかっていない。いもは穀物と違い、気候条件さえよければ植え付けと収穫に季節的限定を受けないこと、掘棒などの単純な農具とわずかな技術的知識で育てられることなどから、穀物栽培よりもずっと古く発生したとも考えられる。また反対に、栽培によらなくても利用できるので、むしろ穀物農耕が先行し、その影響を受けていもの栽培が始まった可能性もある。いずれにせよ、紀元前三千年紀(前3000~前2000)には新旧両大陸でいも類の農耕が確立していたとみられる。

 現在栽培されているいもは、旧大陸起源のものと新大陸起源のものに分けることができる。旧大陸のいもの代表はヤムイモとタロイモで、これらは東南アジアの熱帯森林帯で栽培化されたといわれる。しかしヤムイモは何百種にも及び、その野生種は世界中の熱帯地域に分布しているので、アジア、アフリカ、アメリカ各地で独立に栽培化された可能性もある。オーストラリア先住民は終始採集食料として利用し、栽培することはしなかった。ヤムイモ栽培の現在の中心地は東南アジア、オセアニア、西アフリカのヤムベルト(ヤムイモの栽培地帯)、それに新大陸のカリブ海地域とアマゾン地域である(新大陸では原生種と、スペイン人がもたらした旧大陸起源種の両方が育てられている)。

 ヤムイモの耕作が生業として重要なのは、オセアニアと西アフリカである。西アフリカではゆでたのち、臼(うす)で搗(つ)いて餅(もち)にする。オセアニアでは地中に穴を掘り、焼け石といっしょに入れて蒸し焼きにして食べる。またヤムイモは社会的、儀礼的にも重要な意味をもっており、たとえばトロブリアンド諸島(パプア・ニューギニア)では、収穫したヤムイモの大半が村の首長と姉妹の夫に渡される。首長は公的な儀式の場で集まったヤムイモを再分配する。一方ヤムイモを受け取った男も、自分の姉妹の夫へヤムイモを贈る義務があるので、交換は際限なく続く。こうして村の社会関係が確立されていくのである。タロイモもサトイモをはじめ多種のものが知られ、広く分布している。オセアニア、とくにポリネシアでは主食として重要で、灌漑(かんがい)農耕で育てられることも多い。ヤムイモと同じ方法で食べられるほか、水を混ぜて粥(かゆ)状に調理されることもある。タロイモはローマ時代のエジプトでも栽培されていた記録がある。

 新大陸起源のいもも数多くあるが、もっとも重要なのはキャッサバ(マニオック)、サツマイモ、ジャガイモである。これらは新大陸発見以後、世界中に広く伝えられた。キャッサバは南アメリカのベネズエラあたりに起源するといわれ、主として南アメリカ北東部の先住民が常食としてきた。ビター・キャッサバと、スウィート・キャッサバの2品種があり、ともに青酸性の毒を含む。スウィート・キャッサバは皮に毒が集中しているので、焼いたりゆでたりしたあと皮をむけば食べられるが、ビター・キャッサバはいも全体に強い毒があり、あらかじめ毒抜きをする必要がある。すりおろしたいもに水を加えて長い籠(かご)のような容器に入れ、絞り、さらに乾燥させるというのが伝統的な毒抜き法である。パン状に焼いて食べられる。一般に野生のいもは毒性をもっているが、栽培種は無毒化される傾向がある。キャッサバの栽培種に毒性が残っているのは、保存するために長期間地中に置いておくので、毒性があるほうが動物に食べられず都合がよかったこと、狩猟や漁労で毒が積極的に使われたことなどの理由によるものと考えられている。

 サツマイモは、コロンブス以前のメラネシアでも育てられたといわれ、起源が疑問視されてきたが、現在はメキシコ起源説が有力である。ジャガイモは、標高4000メートルにも及ぶアンデスの寒冷な高地で栽培化された。なかには毒性をもつものもあるが、毒抜きと長期保存のため凍結乾燥いも(チューニョ)をつくる技術が発展したことから、アンデスにおけるジャガイモの有用性は飛躍的に増大した。こうしてジャガイモは、先史時代のアンデス高地の文化を支える主作物の一つとなった。このほかアンデスではオカ、ラカチャなどさまざまないもが栽培化され、いまでも利用されている。

[松本亮三]

民俗

「いも」という語は、現在ではヤマイモ(薯蕷(しょよ))、サトイモ(里芋)、サツマイモ(甘藷(かんしょ))、ジャガイモ(馬鈴薯(ばれいしょ))などを総称するものであるが、かつては、東北地方の一部ではヤマイモのことを、全国的にはサトイモのことを意味していた。サツマイモやジャガイモが日本で栽培され始めたのはずっと遅く、サツマイモが初めて植えられたのは、1615年(元和1)のことである。またジャガイモは、江戸期にオランダ人によって伝えられたが、本格的に栽培されるようになったのは明治以後のことである。これら新来のいもが導入されるようになると、九州ではサツマイモのことを、また北海道ではジャガイモのことをそれぞれ「いも」とよぶようになった。ジャガイモには朝鮮いも(奈良県十津川(とつかわ))、九州いも(福島県北部)、信州いも(静岡県山地部)、上州(じょうしゅう)いも(愛知県北設楽(したら)郡)などと、遠隔地の名が冠されている。これは、新奇なものに対して一般的な接頭語を与えたと解されるが、同時に日本へ定着してゆく様相の一端が物語られているといえよう。そのほか、ニドイモ、ナツイモ、セイダユウイモ、カンプライモなどと異名が多い。

 東北地方では、正月に「三日とろろ」という行事が行われ、ヤマノイモをすってとろろ飯にするが、これを食べると1年間健康でいられるなどという。またヤマノイモは、すって食べるほか煮ても食べるが、実のむかごは飯に炊き込んだりする。正月に餅を搗かない、いわゆる「餅なし正月」の習俗を伝える地域では、餅のかわりにヤマノイモやサトイモを用いる例が多いことから、これらのいもが広く栽培されて、一部では主食ともなっていたことがうかがえる。またヤマノイモは『芋掘(いもほり)長者』という昔話にも登場し、この場合のいもは鋳物師(いもじ)であろうとの説もあるが、その当否は別として、全国的に類話に現れるいものほとんどがヤマノイモである。このことは、日本人との濃い関係を示すものといえよう。コンニャクも日本人には親しみ深いものの一つである。

[湯川洋司]

『宮本常一著『日本民衆史7 甘藷の歴史』(1962・未来社)』『坪井洋文著『イモと日本人――民俗文化論の課題』(1979・未来社)』『星川清親編『いも――見直そう土からの恵み』(1985・女子栄養大学出版部)』『吉田集而編『イモとヒト――人類の生存を支えた根栽農耕』(2003・平凡社)』


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