いもち病(読み)いもちびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「いもち病」の意味・わかりやすい解説

いもち病
いもちびょう / 稲熱病

イネのもっとも重要な病気。昔は冷害の年などに激発して、しばしば飢饉(ききん)の原因になった。発生はイネの生育の全期にわたるため、時期および発病の部位によって、苗いもち、葉いもち、節いもち、穂くびいもち、枝梗(しこう)いもち、籾(もみ)いもちなどとよぶ。

[梶原敏宏]

病徴

葉では初め褐色斑点(はんてん)ができ、しだいに拡大して内部が灰白色、周りが褐色のやや菱(ひし)形を帯びた大きさ1センチメートルほどの病斑ができる。激発時の病斑は全体が灰緑色ないし暗緑色で急速に拡大、病斑が癒合して葉全体が褐色になり枯れる。ひどくなるとイネはほとんど生育しなくなる。このような症状はずり込みいもちといわれ被害が大きい。もっとも被害の大きいのは穂に発生した場合で、穂くびの節の部分が淡褐色から暗褐色に変色し、やがて上下に広がる。早く発病すると白穂になって枯れ、まったく収穫がなくなる。遅く発病したときでも実入りが悪くなる。

[梶原敏宏]

病原

ピリキュラリア・グリセアPyricularia griseaという糸状菌が病原である。最近、子嚢(しのう)時代が発見されたが、自然条件下では分生胞子だけを形成する。分生胞子は、病斑上にできた線状の折れ曲がった分生子柄の上に普通3、4個生ずる。無色で二つの隔膜があり、西洋ナシに似た形で、長さ25マイクロメートル、幅10マイクロメートルである。分生胞子は20~25℃で水滴の中でよく発芽して先に付着器を形成、イネの表皮を突き破って組織内に侵入し発病する。病原菌には、イネの異なった品種に対し、病気をおこす力の異なった多くの系統(生態種またはレースraceという)の存在が知られている。

[梶原敏宏]

伝染

病原菌は、前年の被害藁(わら)や被害籾(もみ)の病斑組織の中で菌糸の形で越冬し、翌年新しく分生胞子をつくり伝染する。分生胞子も乾燥状態では1年以上生存できるので伝染源になる。イネの栽培期間中は、葉の病斑上に形成された分生胞子によって広がる。分生胞子は、主として夜間、午後11時ごろから午前2時ごろまでの間に、条件のよいときは一つの病斑上に数千から1万個も形成され、風によって飛散する。このようにして飛散した分生胞子が発芽してイネの組織内に侵入するには、およそ8、9時間を要し、発芽して侵入を完了するまでに乾燥すると死んでしまうことから、山間や川筋などイネの上の露の乾きの遅い所で発病が多く、雨が続くような天候のときにはとくに発病が多くなる。また窒素肥料が多すぎると、イネの抵抗力が弱くなり発生が多くなる。

[梶原敏宏]

防除法

抵抗性の強い品種を栽培し、極端な多肥、晩(おそ)植えは避ける。最近は安全で効力の高い薬剤が開発されているので、葉いもちの発生を認めたら薬剤を散布する。穂くびいもちに対しては、穂ばらみ期と穂ぞろい期にそれぞれ1回薬剤を散布する。

[梶原敏宏]


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百科事典マイペディア 「いもち病」の意味・わかりやすい解説

いもち病【いもちびょう】

日本では最も重大なイネの病害で,冷害と合併して1934年には東北地方で重大な社会問題となった。子嚢(しのう)菌類マグナポルテ・グリセアの寄生による。夏気温が低く雨が多く日照不足の年に発生しやすい。また窒素肥料の使用過多,冷水の流入,排水不良なども要因となる。苗代期から収穫期まで発生し,葉,節,穂首,もみなど各部が冒され,白穂になったり,実入りが悪くなる。分生胞子によって病気が広まり,被害わらやもみの中で菌糸・胞子が越冬する。対策は,耐性品種の選択,被害わらやもみの焼却,窒素肥料の適量施用,冷水流入の注意,その他有機リン剤,抗生物質(ブラストサイジンSカスガマイシン)を病害部位や病害時期に応じて適宜使用すること。
→関連項目ケイ(珪)酸肥料殺菌剤植物菌類病植物病プロベナゾール冷害

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「いもち病」の意味・わかりやすい解説

いもち病
いもちびょう
rice blight

イモチビョウキン Pyricularia oryzae によって起こるイネの病気。胞子がイネの葉に到達すると,条件がよければ 1~2時間で発芽し,気孔から組織内に侵入して,黄褐色の斑点を生じ,葉は先端から枯れる。茎につけば黒変し,それより上部は枯れ,穂につけばはまったく実らず白穂となる。稲作上最も恐るべき病気である。しかし,近年はカスガマイシン剤や有機リン剤などの薬品による防除が徹底されるようになった。

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