β線(読み)ベータセン

デジタル大辞泉 「β線」の意味・読み・例文・類語

ベータ‐せん【β線/ベータ線】

放射線の一。原子核β崩壊で放出される高速度電子または陽電子の流れ。人工的にはベータトロンなどで加速して発生させる。透過力や電離作用αアルファγガンマとの中間。空気中を透過するが、薄い金属板や1センチメートル程度のプラスチック板で遮蔽することができる。その際、副次的に発生するX線を遮蔽する必要がある。人体に対しては、外部被曝ひばくにより皮膚および皮膚深部に悪影響を与えるほか、β線を放出する放射性物質を体内に取り込んだ場合、α線ほどではないが内部被曝による被害をもたらす。
[類語]放射線放射能宇宙線赤外線熱線遠赤外線紫外線可視光線アルファ線ガンマ線エックス線レントゲン線

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化学辞典 第2版 「β線」の解説

β線
ベータセン
β-rays

放射性同位体元素の原子核から放出される電子であって,元素の種類によっては正の電荷をもった陽電子を放出する場合もある.電子であるからβ粒子1個のもつ電荷の量は1.6×10-19クーロン(C)であり,陰陽いずれの場合もその静止質量は9.1×10-28 g である.β線のもつエネルギーは元素の種類によって決まる一定値以下0までの連続した値であり,この一定値を最大エネルギーという.たとえば,35S の最大エネルギーは0.167 MeV32P では1.71 MeV である.β線が物質中を通過するときには電離作用がある.電子の質量はα粒子の1/7360にすぎず,非常に軽いため,α粒子と同程度のエネルギーであってもその速度は光速度に近い.したがって,電離密度はα線に比べて低く,エネルギー損失も少ない.このため,透過力は比較的大きく,32P の場合,大気中で数 m にも達する.

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改訂新版 世界大百科事典 「β線」の意味・わかりやすい解説

β線 (ベータせん)
β-rays

β崩壊の際に放出される電子(β粒子)線。歴史的には,放射性物質から放出され磁場中でα線とは逆の偏向を受ける粒子線として見いだされた。物質中でエネルギーを失い有限の飛程をもつが,α線よりも透過力が高い。崩壊時に中性微子ニュートリノ)も放出されるため,そのエネルギースペクトルは,0から始および終状態で決まる崩壊エネルギーの最大値(典型的には数百keVから数MeV)に至る連続分布をしているのが特徴である。β⁺崩壊時の陽電子線を含めていうこともある。
β崩壊
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「β線」の意味・わかりやすい解説

β線
べーたせん

放射線の一種で、原子核のβ崩壊に伴い放出される電子または陽電子(β粒子)の流れ。プラスまたはマイナスに帯電しており、α(アルファ)線に比べると比較的電離作用が弱い。そのため透過力はα線に比べると強いが、厚さ1センチメートルほどのプラスチック板で遮ることができる。しかしβ線を遮る場合には、同時に制動放射でX線も放射されるため、X線の遮蔽(しゃへい)も考慮しなければならない。

[山本将史 2022年7月21日]

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百科事典マイペディア 「β線」の意味・わかりやすい解説

β線【ベータせん】

放射性原子核のβ崩壊の際放出される高速の電子線(陽電子線も含めていう)。電離作用はα線より小さいが透過力は大きい。飛跡は細く長く,気体分子と衝突して曲がりくねる。外部から照射しても皮膚の数mm下までしかとどかない。紙やプラスチックの厚み計,母斑,血管腫,ケロイドなどの治療に使われる。→γ線
→関連項目ガイガー=ミュラー計数管原子力電池

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「β線」の意味・わかりやすい解説

β線
ベータせん
β-ray

放射性核種が自然崩壊するとき放出される放射線の1種で,高速の電子または陽電子の集りである。運動エネルギーは数百万 eV ,またはそれ以下である。普通の放射性核種から放出される放射線には,ほかにα線γ線とがあるが,β線の電離作用はα線とγ線との中間で,写真乾板を感光させる。透過力はアルミニウム板で数 mm 以下,1気圧の空気で1 m 程度以下である。

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栄養・生化学辞典 「β線」の解説

β線

 放射線の一種で,β崩壊といわれる核の崩壊にともなって放出されるもの.電子線もしくは陽電子の線.

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世界大百科事典(旧版)内のβ線の言及

【原子力】より

…キュリー夫妻(M.キュリーP.キュリー)はこのベクレルの実験結果を徹底的に調べ,ウランが出している放射線はウランに固有のものであり,また,ウラン以外にも同じように放射線を出す元素があることを発見(1898),放射線を出す性質や能力を放射能とよび,放射能をもつ元素を放射性元素とよんだ。次いでE.ラザフォードは,ウランから放出される放射線のなかに,正の電荷と負の電荷をもつ放射線があることに気がつき,それぞれ,α線とβ線と名づけた。さらに,電荷をまったくもたない放射線もあることが発見され,γ線と命名された。…

【β崩壊】より

…原子核の放射性崩壊の一種で,放射性同位体が電子e(あるいは陽電子e)と反中性微子ν-e(あるいは中性微子νe)とを放出し,質量数は同じであるが原子番号Zの一つだけ異なる核に変化する過程。このとき放出される電子の流れをβ線という。電子を放出するβ崩壊ではZZ+1,また陽電子を放出するβ崩壊ではZZ-1となる。…

【放射線】より

…放射性同位体が放射性崩壊するときに放出される粒子線,あるいは電磁波のことで,α線,β線,γ線をさして用いられるが,X線や,加速器ビームの照射によって生成する中性子線などの二次粒子線,宇宙線など,同じ程度あるいはそれ以上のエネルギーをもつ粒子線,電磁波を含めていうこともある。程度に差はあるが,一般に,物質中で透過力をもつことが特徴である。…

※「β線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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