黒沢清(読み)クロサワキヨシ

デジタル大辞泉 「黒沢清」の意味・読み・例文・類語

くろさわ‐きよし〔くろさは‐〕【黒沢清】

[1955~ ]映画監督。兵庫の生まれ。成人映画「神田川淫乱戦争」を監督し、商業映画デビュー。サスペンスホラー映画を中心に意欲的な問題作を発表、世界的に注目される。代表作は、猟奇殺人事件を扱った「CUREキュア」のほか、「ニンゲン合格」「カリスマ」「回路」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒沢清」の意味・わかりやすい解説

黒沢清
くろさわきよし
(1955― )

映画監督。神戸市に生まれる。高校在学中より8ミリ映画を撮り始める。1975年(昭和50)に立教大学社会学部入学、1980年卒業。在学中は映画製作サークルに所属。1980年には『しがらみ学園』で「ぴあフィルム・フェスティバル」入賞。長谷川和彦(1946― )の『太陽を盗んだ男』(1979)や相米(そうまい)慎二『セーラー服機関銃』(1981)で現場経験を積んだ後、長谷川が主宰する映画制作会社、ディレクターズ・カンパニーで成人映画『神田川淫乱戦争』(1983)を撮り、商業デビュー。第二作の『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)が成人映画としての公開を拒絶され、『スウィートホーム』(1989)では製作総指揮かつ主演俳優の伊丹十三(いたみじゅうぞう)と著作権料をめぐって訴訟沙汰になるなど、当初は多難であった。本格的なホラー『地獄の警備員』(1992)を完成後、1992年(平成4)にオリジナル脚本『カリスマ』でサンダンスインスティテュート(ロバート・レッドフォードが1981年に創設した若手作家養成機関)のスカラシップを受賞したことを機に、研修のため渡米。帰国後は「勝手にしやがれ!!」シリーズ全6作(1995~1996)、『復讐(ふくしゅう) 運命の訪問者』『復讐 消えない傷痕』(ともに1997)、『蛇の道』『蜘蛛(くも)の瞳』(ともに1998)などをオリジナル・ビデオという枠のなかで次々に発表。独特のユーモアを織り交ぜながらも、主としてスリラー、ホラーのジャンルで卓越した映像表現に磨きをかけてゆく。

 これらの合間に撮られたサイコ・サスペンス『CURE キュア』(1997)が東京国際映画祭に出品されたことを機に内外の評価は一気に高まり、世界各国の映画祭から招待が殺到。『ニンゲン合格』(1999)がベルリン国際映画祭、『カリスマ』(1999)がカンヌ国際映画祭、『大いなる幻影』(1999)がベネチア国際映画祭と、三大映画祭に相次いで出品され、注目を集めた。また香港(ホンコン)、エジンバラトロント、パリ、台北、ロッテルダム等の映画祭で相次いで黒沢清特集が組まれ、高い評価を得た。『CURE』『ニンゲン合格』『カリスマ』はパリなど海外数か所で公開され、『回路』(2001)はカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど、黒沢は世界でもっともその動向が注目される日本映画監督の一人となった。『ドッペルゲンガー』(2003)では、『CURE』以来多くの黒沢作品で存在感を示してきた役所広司(1956― )が、自分の分身に出会って苦しむ男を一人二役で演じた。『アカルイミライ』(2003)では、メーキング映像『曖昧(あいまい)な未来、黒沢清』も同時に製作・公開され、黒沢の映画製作の裏側がはじめて明らかにされた。

[常石史子]

資料 監督作品一覧

六甲(1973)
暴力教師 白昼大殺戮(だいさつりく)(1975)
不確定旅行記(1976)
信号ちかちか(1976)
白い肌に狂う牙(1977)
SCHOOL DAYS(1978)
しがらみ学園(1980)
逃走前夜(1982)
神田川淫乱戦争(1983)
人間性のけじめ(1983)
ドレミファ娘の血は騒ぐ(1985)
冬の面影(1988)
スウィートホーム(1989)
危ない話 奴らは今夜もやってきた(1989)
もだえ苦しむ活字中毒者 地獄の味噌蔵(1990)
地獄の警備員(1992)
よろこびの渦巻(1992)
ヤクザタクシー 893(1994)
打鐘 男たちの激情(1994)
勝手にしやがれ!! 強奪計画(1995)
勝手にしやがれ!! 脱出計画(1995)
勝手にしやがれ!! 黄金計画(1996)
勝手にしやがれ!! 逆転計画(1996)
DOOR Ⅲ(1996)
勝手にしやがれ!! 成金計画(1996)
勝手にしやがれ!! 英雄計画(1996)
復讐 The Revenge 運命の訪問者(1997)
復讐 The Revenge 消えない傷痕(1997)
CURE(1997)
廃校奇談(1997)
蛇の道(1998)
蜘蛛(くも)の瞳(1998)
ニンゲン合格(1999)
大いなる幻影(1999)
カリスマ(1999)
回路(2001)
降霊(2001)
2001 映画と旅(2001)
アカルイミライ(2002)
刑事まつり~「霊刑事」(2003)
ドッペルゲンガー(2003)
ココロ、オドル。(2004)
LOFT(2005)
楳図かずお恐怖劇場~「蟲(むし)たちの家」(2005)
叫(2006)
トウキョウソナタ(2008)
贖罪(しょくざい)(2011)
リアル 完全なる首長竜の日(2013)
ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト(2013)

『『映像のカリスマ 黒沢清映画史』(1992・フィルムアート社)』『『映画はおそろしい』(2001・青土社)』『黒沢清・篠崎誠著『黒沢清の恐怖の映画史』(2003・青土社)』『「特集黒沢清」(『ユリイカ』2003年7月号・青土社)』

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知恵蔵mini 「黒沢清」の解説

黒沢清

日本の映画監督。1955年7月19日、兵庫県生まれ。立教大学在学中に映画評論家・蓮実重彦(はすみしげひこ)に師事し、8ミリ映画「SCHOOL DAYS」「しがらみ学園」などを制作、注目を集める。81年の話題映画「セーラー服と機関銃」などで助監督を務め、83年「神田川淫乱戦争」で商業映画デビュー。97年の「CURE」は国内外で注目を浴び、2001年には「回路」がカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で国際批評家連名賞を受賞、08年に「トウキョウソナタ」が同部門で審査員賞を受賞した。14年には「セブンスコード」でローマ映画祭最優秀監督賞を受賞。15年5月には「岸辺の旅」が、カンヌ映画祭「ある視点」部門で日本人初となる監督賞を受賞した。

(2015-5-27)

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