食道異物(読み)しょくどういぶつ(英語表記)Foreign body in esophagus

六訂版 家庭医学大全科 「食道異物」の解説

食道異物
しょくどういぶつ
Foreign body in esophagus
(食道・胃・腸の病気)

どんな状態か

 誤って異物を飲み込み、それが咽頭や食道停滞嵌頓(かんとん)(はまり込む)することによって起こります。

 異物の種類としては、小児では硬貨おもちゃ、円盤状電池など、大人では義歯(ぎし)や魚の骨、薬を包装(PTP)のまま飲み込むことなど(図7)が多くみられます。このほか、食道の内腔が狭い場合は、食物塊が狭窄(きょうさく)の口側に停滞する場合があります。

症状の現れ方

 異物を飲んだと気づかない場合は、ものが飲み込めない、吐く、胸痛吐血などの症状が出ます。幼児では、吐く、唾液が多いなどがあり、乳児では哺乳のたびに泣くなどの症状が現れます。異物が食道壁を破った場合は、発熱、胸痛、腹痛さらには呼吸困難などの症状が出ます。

 小児では、円盤状電池を飲んで4~8時間くらいたつと、食道組織の破壊が起こり、食道潰瘍から穿孔(せんこう)(あな)があく)を起します。したがって、疑わしい場合は早急に内視鏡検査が可能な病院へ行く必要があります。

検査と診断

 硬貨、電池、入れ歯などは、胸部・腹部X線検査でその存在がわかります。X線で透過してしまうようなPTP、食物、おもちゃ、小さい針などはわからないことがあります。

 この場合は、水溶性造影剤(ガストログラフィン)を使用して食道の造影を行う方法もありますが、小さいものは見逃してしまうことがあるため、治療目的も兼ねて、内視鏡検査が必要になります。

 咽頭麻酔後、小児の場合は全身麻酔下に内視鏡検査(胃カメラ)を行います。異物が食道に停滞している場合は、小さいものであれば、鉗子(かんし)でつまんで除去できますが、角が鋭利なPTPなどの場合は内視鏡の先端に透明キャップなどを装着して除去します(図8)。

 また、食道穿孔可能性がある場合、内視鏡的に摘出が困難な義歯などは、全身麻酔下に食道を切開して摘出します。

症状に気づいたらどうする

 成人では異物を飲み込んだ自覚のある人、また食物がつかえる、飲み込むと痛いなど症状がある場合、小児では食べると吐く、つばを飲み込まない、何となくおかしい場合は、病院(診療所)で胸部X線検査、内視鏡検査が必要です。時間とともに重症となる円盤状電池、鋭利な物などは、小児のそばに置かないよう気をつける必要があります。

村田 洋子


食道異物
(のどの病気)

 食道にひっかかった異物は通常、食道直達鏡(しょくどうちょくたつきょう)という筒状の器械を口から挿入して摘出します。

 さまざまなものが食道異物となりますが、ここでは代表的な異物とその注意点について述べます。

硬貨異物

 小児の食道異物では最も多いものです。摘出は容易なことが多いのですが、まれに2枚以上の硬貨がひっかかっていることがあります。硬貨を数枚飲んだ可能性のある場合には、必ず医師に伝えておくべきでしょう。

ボタン電池異物

 近年、小型でボタン形の電池が普及していますが、これが食道に長時間とどまっていると、粘膜が腐食されて大変危険です。食道に穴があいて死に至った報告もありますので、できるだけ早く摘出しなければなりません。

魚骨(ぎょこつ)異物

 中高年層に多い異物ですが、通常のX線写真には写らず、診断をつけるのが難しい場合も少なくありません。骨の先が粘膜に刺さって感染を起こすこともありますので、診断がつかなくても食道直達鏡を挿入して、異物がひっかかっていないかどうかを調べることもあります。

PTP異物

 PTPとは、錠剤やカプセル剤を包装したパッケージで、指で押し出して薬を取り出すものです。高齢社会になり薬を長期に服用する人が増えるにつれ、薬と間違えてPTPをうっかり飲んでしまう事故も増えています。

 薬をのむ量を間違えないように、PTPのシートを1錠分ごとに切り分けることがありますが、これはPTPを誤って飲む可能性を高めることになってしまいます。

義歯(ぎし)異物

 先がとがって形も複雑な義歯は、食道直達鏡で無理やり摘出しようとすると、食道粘膜を傷つけてしまいます。義歯異物の場合は、頸部(けいぶ)を切開して摘出しなければならないことも少なくありません。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「食道異物」の解説

しょくどういぶつ【食道異物】

 1~3歳の子どもは、周囲にあるものをなんでも口に入れる習性があり、10円・100円硬貨、磁石、おもちゃを飲み込んでしまうことがあります。魚骨がのどにひっかかることもあります。
 飲み込んだものは、食道の第1狭窄部(きょうさくぶ)(食道入り口部直下)にひっかかることが多く、物が飲み込めなくなり、よだれをたらします。
 胃に落下すれば、ほぼ心配はないのですが、アルカリ電池は、粘膜(ねんまく)を腐蝕(ふしょく)させるので、ただちに取り出す必要があります。
 診断 硬貨のようにX線検査で映るものは容易に診断ができます。
 映らないものは、造影剤を飲ませ、異物の輪郭を映し出して確認します。
 予防 子どもの周囲に危険なものを置かないことです。
 もし、子どもが危険なものを口に入れていることに気づいたら、しかったりせずに、口に静かに指を入れ、取り出します。びっくりさせると、逆に飲み込んでしまいます。
 お餅(もち)がつかえたときには、救急車も間に合わないので、指を横から入れて、取り除きます。
 たばこの誤飲も危険です。たばこ、灰皿のすいさし、各種の洗剤なども子どもの手の届くところには置かないような注意が必要です(「のどに物がつまったとき(気道内異物)の手当」)。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「食道異物」の意味・わかりやすい解説

食道異物
しょくどういぶつ

気道・食道異物」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の食道異物の言及

【食道】より

…また一般に胃の消化不良のときは,噴門の閉じ方が不完全となり,不快な胸焼け,おくび,口臭などの原因となる。【和気 健二郎】
[食道のおもな病気]
 食道のおもな病気には食道閉鎖症,食道異物,食道炎,食道潰瘍,食道アカラシア,食道癌,食道憩室などがある。(1)食道閉鎖症 先天的に食道の一部が欠損し内腔が連続していない奇形である。…

※「食道異物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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