(読み)おん(英語表記)sound
son[フランス]
Schall[ドイツ]

精選版 日本国語大辞典 「音」の意味・読み・例文・類語

おん【音】

〘名〙
① =おと(音)〔淮南子‐墜形訓〕
② 人の発する声。
※洒落本・通言総籬(1787)凡例「(かたこと)を改めず仮名違を正ざるは、其音(ヲン)の訛(なまれる)を知(しら)しめんが為なり」
③ 音楽。
※五音曲条々(1429‐41頃)「恋慕、幽曲、哀傷も祝言の安全音の力也、いづれも其音を全くうたふ、みな安全なり」 〔礼記‐楽記〕
④ 漢字のよみ方の一つ。昔の中国の発音をもとにした漢字のよみ方。そのもとになった中国音の時代、地方によって、漢音、呉音、唐宋音などの別がある。⇔
※名語記(1275)四「れいは鈴也。〈略〉音にはりゃうといひ、唐音にはれいといへる也。訓にはすす也」
⑤ ねいろ、韻(ひびき)の調子。

いん【音】

〘名〙 (「いん」は「音」の漢音) おと。おん。音声。また、特に、漢字の発音や音曲をいうこともある。
※文明本節用集(室町中)「胡王好(イン)、秦穆公以女楽之」

と【音】

〘名〙 おと。ひびき。ね。こえ。
※古事記(712)上「天照大御神、先づ建速須佐之男命の佩ける十拳劔を乞ひ度して、三段に打ち折りて、努那登母母由良爾(ぬなトももゆらに)、〈此の八字は音を以ゐる〈略〉〉天の真名井に振り滌きて」

おっと【音】

〘名〙 =おと(音)
※史記抄(1477)一二「二世の験す時はさきの様に云たれば榜さうずと思てをっともせいでいたぞ」

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デジタル大辞泉 「音」の意味・読み・例文・類語

おん【音】[漢字項目]

[音]オン(呉) イン(漢) [訓]おと ね
学習漢字]1年
〈オン〉
おと。「音響音質音波擬音跫音きょうおん玉音高音轟音ごうおん雑音消音心音騒音低音爆音美音防音録音
音楽のふし。ねいろ。「音頭おんど音符音律楽音主音半音和音
言葉の音声的な要素。「音韻音声唇音清音舌音促音濁音短音長音同音発音撥音はつおん鼻音表音拗音ようおん
漢字の読み方の一。中国語音に由来するもの。「音訓漢音呉音字音唐音和音
たより。「音信
〈イン〉
おと。「余音
音楽。「知音
言葉の音声的な要素。「子音母音
たより。「音信音物いんもつ・いんぶつ疎音訃音無音ぶいん福音
〈おと〉「足音雨音あまおと羽音はおと水音物音
〈ね〉「音色遠音初音本音ほんね弱音
[名のり]お・と・なり

おと【音】

物の振動によって生じた音波を、聴覚器官が感じとったもの。また、音波。人間の耳に聞こえるのは、振動数が毎秒約16~2万ヘルツの音波。
うわさ。評判。「に聞こえた名勝」→おとに聞く
鳥獣の声。
「うぐひすの―聞くなへに梅の花」〈・八四一〉
訪れ。便り。音沙汰。
「年越ゆるまで―もせず」〈竹取
[下接語]足音あまかざかじ川音靴音瀬音つち筒音つまつる波音刃音葉音歯音ばち水音物音矢音
[類語]物音音声おん音色楽音サウンド

おん【音】

[名]
おと。ねいろ。「ドの
人の口から発せられる言葉を構成する、一つ一つのおと。「『ひ』と『し』のを混同する」
漢字の読み方の一。日本に伝来して国語化した漢字の発音。伝来した時代や、もとになる中国語の方言などにより、一つの漢字が数種の音をもつこともある。呉音漢音唐音などが主なもの。字音。漢字音。「で読む」⇔くん
[接尾]助数詞。
言葉を構成する、一つ一つのおとを数えるのに用いる。「俳句は5・7・5の17からなる」
音楽で、全音または半音を数えるのに用いる。「1下げて歌う」
[類語]おと物音音声音色楽音サウンド

ね【音/×哭】

おと。「鐘の―」「琴の―」
声。また、泣き声。「本―」「弱―」
鳥獣などの鳴き声。「かりの―」「虫の―」
[補説]「おと」が大きな音響をさしたのに対し、「ね」は比較的小さな、人の感情に訴えかけるような音声をいう。
[類語]おと物音音声おん音色楽音サウンド

と【音】

おと。ね。
「風の―の遠き我妹わぎもが着せしきぬ手本たもとのくだりまよひ来にけり」〈・三四五三〉

いん【音】[漢字項目]

おん

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改訂新版 世界大百科事典 「音」の意味・わかりやすい解説

音 (おと)
sound
son[フランス]
Schall[ドイツ]

ふつうには,空気中の縦波でその振動数(周波数)がおよそ20Hzから2万Hzの範囲にあって,人間がその耳で知覚できるものを音ということが多いが,人間の耳に聞こえるのは一般的な意味での音のごく一部分にすぎない。耳に聞こえるといっても,人間以外の動物の可聴振動数範囲は,人間のそれとは必ずしも同じではない(図1)。コウモリが自分から出した音波を利用して,暗やみの中でも障害物などの存在を感知することはよく知られている。この場合の音は人間の耳には聞こえない超音波領域にあるが,これも広い意味での音に含まれる。また20Hz以下の振動数の音を超低周波音infrasoundと呼んでいる。この超低周波音はやはり人間の耳には聞こえない音であるが,ふつうの騒音と違った形で環境問題の一つになっている。このように空気中だけでも,人間の耳に聞こえるのは非常に限られた範囲の音であるが(ただし,ここで述べているのは定常音についてであって,非定常音では5万Hz程度まで知覚できるといわれる),さらに液体や固体の中を伝わる弾性波には多くの種類がある。水など液体の中では,空気中と同様に縦波だけが存在するが,固体中では縦波のほかに横波もできる。地震波も地下の深いところで,何かの原因で発生した弾性波が,地中や地表面を伝わるものである。縦波や横波など波の種類によって,伝搬速度など波動の性質もさまざまであるが,こうした弾性波も一般的な意味では音である。このように音あるいは音波は,波動を伝える媒質や振動数などについて,本来,非常に広い範囲の現象に使われるものであるが,ここでは空気中の音で,とくに人間の耳に聞こえる周波数範囲の音を中心にして記述し,広い意味での音については〈音波〉の項目を参照されたい。

人間にとって,音は音声による情報,意志の伝達手段として非常に重要な役割を果たしてきた。また音楽としての音に対する関心は,人間の歴史とともにあったと考えられる。前500年ごろにピタゴラスが行った弦の振動や音階についての研究は,音響学のみでなく広く自然科学の数学的取扱いの出発点になったといわれている。その後,楽器や劇場,音楽堂などの音の問題は,つねに多くの人の関心の対象になってきたが,音の物理的性質についての研究が自然科学の一分野として系統的な発展を始めたのはガリレイの時代からである。その後,17~19世紀にかけて,M.メルセンヌ,ニュートン,ラプラス,ヘルムホルツ,レーリーらが,力学の問題として音波を取り扱ってきた。その集大成は1877年に初版が出版されたレーリーの著書《The Theory of Sound》であって,音の物理的性質の研究は,19世紀の後半に基本的な部分の完成をみたということができる。一方,音を人間の耳に聞こえる範囲で考えるときには,聴覚の機構が重要な問題になる。音による空気の圧力変化が耳に到達すると,これによって鼓膜が振動し,これは耳小骨を経て内耳の蝸牛(かぎゆう)に伝えられる。そしてコルチ器官においてコード化された電気信号に変換され,聴覚神経を通って大脳に伝えられて音の感覚を生ずる。こうした聴覚の生理については,19世紀におけるA.コルチ,ヘルムホルツらの研究に始まり,20世紀になってG.vonベケシーらの業績によって,ほぼその全容が明らかにされている。

 20世紀における電気・電子技術の発達は,音についての実験的な研究や技術的な応用に画期的な変化をもたらした。とくに音の物理的な性質と聴覚あるいは音の心理作用などを総合した形での技術の進歩が著しい。電話,録音,放送などの技術は,マイクロホンスピーカー,送受話器など電気音響変換器の発達に裏づけられたものである。またオーディトリアム,スタジオなどでの音の聞こえ方の問題,住宅など各種建築物内での音の環境やさらに一般的な騒音環境の問題には,技術面と並んで心理的な音の評価が重要な役割を果たしている。電気補聴器の開発は,聴覚障害者(難聴者)に音の世界を開いたという点で大きな意義をもっている。人間の音声の性状についての研究も,音響学の重要な一分野になっており,最近では電算機や各種機械の音声制御や音声タイプライターなどが,現実のものになりつつある。
音響設計 →聴覚

音が存在するとき,空気は進行方向に沿って往復運動をしており,この状態が空気中を伝搬する(図2-a)。このように媒質の振動方向が伝搬の方向に一致するような波動を縦波という。図2-bで空気が密になったところは圧力が上昇し,反対に疎になったところの圧力は低下する。すなわち,音が存在する場所の圧力は,音がないときの圧力を中心にして上下に変化する。こうした圧力の変化部分を音圧という。音圧は時間tとともに変化するので,ある時間間隔Tをとり,各瞬間瞬間の音圧をpt)として,ふつうその実効値

で示され,単位にはパスカル(記号Pa)が使われる。聴覚は音圧による鼓膜の振動が原因になるので,音の表示には音圧が基本量として使われるが,そのほかに空気の運動そのものを表す粒子速度が使われることもある。一般に耳に聞こえる音の大小は音圧に左右され,音圧の大きい音ほど大きく感ずる。耳で聞くことのできる最小の音圧は20μPa程度であり,一方,ジェットエンジンの近傍では2×103Pa程度の音圧になるが,この程度になると聴力障害を起こすおそれがあるので,通常は20μPaから200Pa程度の音圧範囲を音といっている。この範囲は50億分の1気圧から500分の1気圧に相当するもので,人間の耳に聞こえる範囲の音圧が,非常に小さい圧力であることを示し,同時にまた,人間の耳が圧力センサーとして非常に鋭敏であることを意味している。工学の分野では,音圧pの代りにL=20 log10p/p0)で与えられる音圧レベルが使われている。ここでp0は基準音圧で,p0=20μPaとする。音圧レベルの単位はdB(デシベル)である。このように音圧の対数表示が使われるのは,人間の感覚が刺激の対数に比例するというウェーバーの法則によるものである。なお,音の大きさを感覚量として表す場合には,ホンという単位が用いられる。

音の発生源となるものには,各種スピーカーや楽器のように音を聞くためにつくられているものから,機械類などのように騒音の発生源となるもの,あるいは人間などの発声器官に至るまで非常に多くの種類があるが,音の発生機構としては比較的少数のグループに区分される。

 ふつうのスピーカーや弦楽器,打楽器の場合には,まず板や弦や膜が振動し,これに接した空気がそれに応じて運動し,ある条件のときに空気の圧縮膨張を生ずる。そしてこの空気の圧力変化が音波として周囲に伝搬する。こうした物体の振動を起こす原因としては,衝撃力,摩擦力,非平衡力などの機械的駆動力や,電磁力など非常に多くの種類がある。外から振動的な力が加えられているときの振動を強制振動といい,これに対して,外力をとり除いたあとでの振動が自由振動である。自由振動の状態は,物体の形状寸法と弾性的な性質によって決まる特定の振動数と振動の状態をもった固有振動によって規定される。固有振動の数は無限に多く,その組合せによって自由振動の状態が決まる。また強制振動の場合にも,外力の振動数に応じたいくつかの固有振動によって,振動の状態が決まるものである。このように,固有振動は物体の振動に関して,基本的に重要な性質である。

 振動する物体から発生する音の性質には,振動の状態などが関係するので,一般的には非常に複雑になる。振動と音との関係を示す例として,半径aの球が周波数f,振動速度vで全面同位相の状態で振動しているとき,球から単位時間に放射される音の全エネルギーは図3のようになる。すなわち,半径aや振動数fが小さいと,振動をしても音にはなりにくいことを示している。一般に音の高低は振動数に関係し,低い音ほど振動数が小さい。低音用スピーカーには大口径が使われたり,バイオリンに比べてコントラバスの胴が非常に大きいのは,こうした理由によるものである。

 音の発生機構としてもう一つ重要なのは,物体の振動にはよらないで,空気自身の一部分に起こった変動によるものがある。強い風のとき電線からヒューヒューという音がでるのは,空気の流れが障害物にあたると,その背後の部分に乱れを生じそこから音が発生するためである。高圧の気体が狭い隙間や穴から吹き出すときの音も同じものである。送風機,圧縮機やジェットエンジンなどの音もこれに含まれる。風や高圧気体による音は,一般に周期がない変動であるので,広い振動数範囲にわたる成分をもった音である。ただ気体の流れが一様であれば規則正しい渦(カルマン渦)が発生し,そのときの音は,振動数f=0.2v/dvは気体の速度,dは障害物の直径)に主要な成分をもつ音になる。これをエオルス音という。

発生した音の音圧の波形(音圧波形)は,発生源の性状によってさまざまな形をとる。いくつかの例を図4に示す。図4-aは正弦音波または純音と呼ばれる音の波形で,一つの振動数で構成されている。実際の音には厳密な意味での純音はほとんどなく,図4-b以下のような複雑な波形をもつのがふつうである。このうちb,cは整数倍の振動数をもったいくつかの純音の組合せになる。このように多くの純音の組合せでできる音を複合音,それぞれの純音を,その成分または部分音という。部分音のうちで振動数のもっとも低いものを基本音,それ以上の振動数の部分音を順次,第1上音,第2上音,……という。とくにこの例のように上音の振動数がすべて基本音の振動数の整数倍であるときには,第2倍音,第3倍音,……という。また実在する音には,図4-dのように音圧波形が不規則に変化し,同じ波形を繰り返さない音が多い。この場合には,すべての振動数にわたって連続的に成分をもった音になる。バイオリンの音とピアノの音は,たとえ同じ音圧,振動数であっても異なって聞こえるが,これはそれぞれの音圧波形の差異によるものであって,このような音の性質は音色と呼ばれる。

空気中に発生した音は,一定の速度で伝搬する。静止した空気中での音速c(m/s)は温度に関係し,t℃のときc=331.5+0.6tで与えられる。ふつうには15℃のときの値,c=340m/sが使われることが多い(音速)。周囲に障害物がまったくない開放空間に小さな音源があるとき,これから発生した音はすべての方向に均等に伝搬し,音源を中心にした任意の球面上の音圧は一定になる。こうした音波を球面波という。この場合に球面の単位面積を通過する音のエネルギーは,音源から離れるに従って距離の2乗に逆比例して減少する。音圧レベルでいえば,距離が2倍になるごとに6dBの割合で低下することになる。これは音の伝搬における重要な法則である。実際には,屋外では,地面はもちろん建物や地形など各種の障害物によって,音の伝搬はさまざまな影響をうける。音が境界面や障害物にあたると,そこで反射,散乱あるいは回折など波動としての各種現象が起こる。また反射面の性状によっては,入射した音のエネルギーの一部が吸収される。反射,散乱,回折などの性状は,障害物などの寸法と音の波長との関係で決まる。可聴範囲の音の波長は1.7cmから17mの間にある。これは人間,自動車,建物などの寸法と同程度であって,そのために障害物の陰の部分にも回折によって音が伝わることになる。また発生した音が純音成分を含むときには,障害物や地面からの反射音との干渉によって,音圧の大きな場所や小さな場所が現れるようになる。

 屋外での音の伝搬,とくに遠距離への伝搬については,こうしたいくつかの波動現象のほかに気象条件,すなわち温度分布や風が大きな影響をもっている。ふつう,地表面からの高さに従って大気の温度が低くなるので,音速は高いところほど小さく,音は上方に曲がるような形で伝搬する。これに対して夜間などには高いところほど温度が高くなることがあり,このときには上空ほど音速が大きくなって音は下方に曲がり,遠くまで伝搬する。次に風があるときには,風下方向には音速が大きく,風上方向には音速が小さくなり,しかも一般に風速は上空ほど大きいので,音は風上へは上方に曲がり,風下へは下方に曲がりながら伝搬する。ふつうには,こうした風速や風向,温度分布は時間とともに不規則に変動するので,音源から遠く離れた位置での音圧は不規則な揺らぎを示す。

 室内など閉じた空間で発生した音は,境界面で何回も反射を繰り返しながら伝搬するので,室内での音の状態は一般に非常に複雑になる。こうした室内の音場の基礎になるのは,室内の空気についての固有振動の性質である。もっとも簡単な一次元音場として,両端を閉じた細長い管を考えると,この場合の固有振動の振動数fは,管の長さをlとしたとき,fnc/(2l)(nは正の整数)となる。実際の室は三次元の空間であるため,固有振動数および各固有振動における音圧分布はより複雑になる。また室の天井,壁,床など境界面や器具などの表面では,入射した音のエネルギーの一部が吸収されるので,その程度によって音圧の分布も変化する。とくに境界面が綿や連続気泡性樹脂などの多孔質材料でできていると,材料内部に入った音が隙間内部の表面での摩擦によってエネルギーの多くの部分を失うことになる。こうした材料を吸音材料と呼んで,音の調整に広く使われている。

音は,音声などの信号による情報の伝達,音楽などさまざまな形で人間の生活に役だっているが,その反面では機械,車両,航空機などから発生した音が,騒音として人間に関与している。非常に大きな音圧レベルの音は,聴力障害の原因となるので人間の環境として望ましくないのは当然であるが,それほど大きな音でなくても,会話やラジオ,テレビの聴取を妨害したり,睡眠や休息,各種の活動に影響を与えることがあり,重要な環境問題になっている。音の物理的性質を表示するためには,音圧あるいは音圧レベルを使うことができるが,騒音の評価量としては,音に対する人間の生理的あるいは心理的な反応とよい相関をもっていることが必要である。騒音の要因の一つは,音が大きいということであるので,人間の感ずる音の大きさに対応するような周波数補正を行った音圧レベルを騒音レベルと呼んで,騒音評価の基本量として使われている。
騒音
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音 (おん)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「音」の意味・わかりやすい解説


おと
sound

弾性的な媒質中を伝播(でんぱ)する波。とくに空気中を伝わって聴覚によってとらえられるものだけをいう場合もあるが、音はほとんどの気体、液体、固体中を伝播する。いま、太鼓をたたく場合を考えると、空気の疎密の状態が水面の波のように広がっていく(疎密波)。すなわち、音の伝播は波の形をとるので、音は物理学的には音波といわれる。疎密波の場合、密の部分は空気の圧力が高く、疎の部分は低い。したがって空気中の音波は圧力波であるともいえる。疎密波は媒質を構成する粒子(気体分子など)の運動の方向と波の進む方向が一致している縦波である。気体および液体中の音波は通常は縦波であるが、固体中では縦波のほかに横波も伝播しうる。

 もっとも単純な音波は正弦音波とよばれるもので、空間のある点xでの時刻tにおける音圧、すなわち音波の圧力p
  pA sin(2πx/λ-2πft)
と表される。Aは振幅、すなわち音圧の最大値、λは波長、すなわち音波の山から山までの距離である。また、fは振動数または周波数とよばれ、1秒間に繰り返される回数であり、ヘルツ(Hz)という単位で表される。波の伝播する速さ、すなわち音速ccfλの関係から求められる。

[比企能夫]

音圧の大きさを示す量

人の耳やマイクロホンは音波の音圧を検知して音の存在を知る。したがって音圧は重要な量であるが、これは時間的にプラスとマイナスの間を変動しており、単に平均するとゼロになってしまう。そこで通常は実効音圧として、音圧の2乗の平均の平方根が用いられる。正弦音波については、これは振幅Aの約0.7倍となる。一般の音波の場合、実効音圧がであるとき
  20 log(/0)
で計算される量を音圧レベルとよぶ。これは音の強さを示す量の一つである。ここでlogは常用対数であり、0は正常な聴覚をもつ人が聞くことのできる振動数1000ヘルツの最小の音に対する実効音圧で
  0=2×10-5 Pa
を選ぶ。ここでパスカル(Pa)は圧力の単位である。音圧レベルの単位としてはデシベル(dB)を用いる。

[比企能夫]

音の強さ、エネルギー

音の強さは物理学的にはそれのもつエネルギーで定義される。音波の進行方向に垂直な単位面積をとり、そこを単位時間に通過する音波のエネルギーをIとするとき、10 log(I/I0)で与えられる量を音の強さのレベルという。I0は前述の0に対応するエネルギーである。正弦音波では音の強さのレベルは音圧レベルに一致する。

 音の強さの絶対測定にはレイリー板が用いられる。これは石英糸または白金線で薄い雲母(うんも)板をつるしたものであり、これに音波を横から斜めに入射させたときの回転角から音の強さを定めることができる。

[比企能夫]

音の干渉とうなり

同じ振動数の二つの音波が重なると、音波の振幅がそれほど大きくないときには、全体の音圧はそれぞれの波の音圧の和になる。これを波の重ね合せの原理という。その結果、ある場合は山と山、谷と谷が重なって振幅が大きくなり、またある場合は山と谷が重なって打ち消し合い、振幅は小さくなる。この現象を音の干渉という。また、二つの波の振動数がわずかに違う場合、重なり合った波の振幅は時間とともに規則的に大きくなったり小さくなったりする。この現象はうなりとよばれる。うなりの振動数は二つの波の振動数の差となる。

[比企能夫]

基音と上音

一般に自然界で発生する音波はきれいな正弦音波ではなく、複雑な波形をしている。これは振動数の異なるいくつかの正弦音波が重なり合った結果であり、複合音とよばれる。これに対し、ただ一つの正弦音波からなる音を純音という。任意の波形の波にどのような振動数の波がどんな割合で含まれているかを調べるには、フーリエ解析という数学的方法が利用される。ある音を成分音に分解し、それぞれの成分音の強さを並べたものを音のスペクトルという。ある音を成分に分けたとき、もっとも低い振動数をもつ成分音を基音(基本音)、それ以外の成分音を上音という。弦楽器や管楽器の音は基音と、その整数倍の振動数をもついくつかの上音によって構成されている。このような上音は倍音とよばれる。どの倍音がどれだけ含まれているかによって楽器の音色がほぼ決まるが、これは楽器演奏の仕方によっても変わる。以上は原理的なことであり、実際の楽器の音色にはもっと多くの要素が関係しており、複雑である。

[比企能夫]

聴覚と音の大きさ

人間の聴覚が感知できる音を可聴音といい、その振動数と強さにはある範囲がある。正常な人の聴覚は16ヘルツ~2万ヘルツの間の振動数の音を聞くことができるが、これ以上の振動数の音波のことを超音波という。一方、強さに関しては、前述のように、人間が感知できる最小の音圧は2×10-5 Paである。また耐えうる最大の音圧は60Pa程度であり、音圧レベルでほぼ130デシベルとなる。ただし、音の強さを表す音圧レベルまたは音の強さのレベルは物理学的に決められたものであり、感覚的には振動数が異なる音は異なった大きさに聞こえる。そこで感覚的な音量の単位としてフォン(phon)が使われている。なおこの「フォン」は騒音レベルの単位として以前に用いられた「ホン(現在は「デシベル」を使用)」とは別の単位である。ここでフォン数は以下のようなものである。1000ヘルツの純音を基準にとり、その周波数の音に対しては音圧レベルの値をフォン数として用いる。他の周波数の音に対しては、経験的かつ標準的な聴覚の感度の補正を行う。経験的に定められた感度の周波数依存性はのようになる。1000ヘルツ以下では、振動数の低い音ほど音圧レベルは同じでもフォン数は小さい、すなわち小さく聞こえる。このようにして決めたものを音の大きさのレベルという。ただし、音の聞こえ方には個人差、年齢差があり、たとえば加齢とともに高い音が聞きにくくなる。

[比企能夫]

聴覚と音の高さ

音の高さの感覚は振動数に依存する。すなわち振動数が大きくなるほど、高い音に感じる。しかしながら、振動数が2倍になっても2倍の高さの音とは感じない。そこで音の高さの感覚的な尺度としてメル(mel)とよばれる単位が使われている。これは1000ヘルツの音の高さを1000メルと決め、それを基準にして他の振動数の音の高さの感じを経験的に数字で表したもので、1000ヘルツ以下ではメルはほぼ振動数に比例し、それ以上ではほぼ振動数の対数に比例している。すなわち、1000ヘルツ以上では音の高さに対する感覚が鈍くなる。二つ以上の振動数の音の混じった複合音の高さは複雑であるが、楽器のように成分音が基音とその倍音からなる場合はその基音の高さの音が聞こえる。これは各成分音の振動数の差が基音の振動数に等しいためといわれている。

[比企能夫]

音楽における音

音には、楽音、騒音などの区別の仕方もあるが、どのような音を「音楽的」な音と感じるかは、主観的なもので断定しにくい。ここでは、物理学的な立場から音楽における音について述べる。音楽は種々の高さ、大きさ、音色の音を時間的に組み合わせてできる芸術であるが、なかでも音の高さは重要である。もし連続的に分布する振動数の音を使ったら、作曲することも演奏することも困難であろう。そこで振動数がとびとびの値をもつ音の配列、すなわち音階を用いる。ところで、音の振動数を順に増加していってみると、振動数がちょうど2倍になると元の音に戻ったような感じを受ける。ある音と、振動数が2倍の音とはオクターブの関係にあるという。そして音階は普通オクターブごとにまったく同じに繰り返して用いられる。各音については、その振動数の比が簡単な整数比をなすときハーモニー(調和音)が出現することはギリシア時代から知られていた。

 西洋音楽ではオクターブを7分割した音を用い、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドと名づける。それらは5個の全音と2個の半音で隔てられ、半音の位置によって長音階と短音階に分けられる。音階のなかの二つの音の隔たりを音程といい、同じ段階の音を1度、1段階離れた音を2度というように表す。オクターブは8度である。音階の例として純正律長音階や平均律長音階などがある。

 純正律では、たとえば、ド、ミ、ソ音の振動数比が正確に4:5:6になり調和するが、主音(音階の最低音)をずらす(転調する)と、このような関係が成立しなくなり不便である。そのため現在では平均律音階が広く使われている。なお、近代では伝統的な調性音楽に反して無調音楽、十二音技法などの新しい手法も展開されている。

[比企能夫]

音と諸民族の生活

世界各地における祭り、祭儀、儀礼には、太鼓、銅鑼(どら)、鈴、鐘などの打楽器が用いられることが多い。北アジアのシャーマンも、憑依(ひょうい)状態になるとき、太鼓などの鳴り物を使うし、日本の東北地方のイタコも、太鼓、弓、一絃琴(いちげんきん)などを用いている。台湾の原住民族(中国語圏では、「先住民」に「今は存在しない」という意味があるため、「原住民」を用いる)が農耕儀礼の際に、銅鑼を鳴らし、太鼓、鐘、鍬(くわ)などをたたくのは、精霊に知らせて作物の実りをよくするためである。インドネシアのバリ島の祭儀にはガムラン音楽がつきものである。この祭儀も、神が降臨してくるという意味で、一つの状態から他の状態への移行に結び付いている。シャーマンの儀礼、先祖祭りなど霊界との交流を図るとき、太鼓、鈴、鐘などの打楽器が用いられる傾向があるので、ロドニー・ニーダムは、霊界との交流と打楽器の衝撃音には深い関連があり、おそらくこれは衝撃音のリズムが人体に与える生理的、心理的効果に由来するものであろうと述べている。日本の神社においても柏手(かしわで)を打ち、鈴を鳴らす。柏手は足を踏みならす音とともにもっとも原始的な衝撃音である。アフリカの諸民族でも祭儀のとき、よく太鼓を打ち鳴らすし、たとえばケニアのディゴは、憑依霊を病人から追い払う儀礼において、ガチャガチャと衝撃音をたてる楽器(カヤンバ)を打ち鳴らす。エチオピアのコンソの社会では、乾期から雨期へ移るとき、一つの年齢階級から次の年齢階級に移るとき、司祭の葬儀のときにかならず太鼓を打つ。つまり彼らの生活のなかでもっとも重要な「推移」のとき太鼓を打つのである。アフリカの民族集団アシャンティやアンコーレでは、太鼓は就任式のときに用いられる。アメリカ大陸先住民は、霊界と関連する音をがらがらによってつくるが、この音も打楽器の衝撃音である。

[吉田禎吾]

『小橋豊著『音と音波』(1971・裳華房)』『アーサー・H・ベナード著、小暮陽三訳『音と楽器』(1980・河出書房)』『牧田康雄編『現代音響学』改訂2版(1986・オーム社)』『早坂寿雄著『音の歴史』(1989・電子情報通信学会、コロナ社発売)』『武満徹・川田順造著『音・ことば・人間』(1992・岩波書店)』『安藤由典著『新版 楽器の音響学』(1996・音楽之友社)』『吉川茂・藤田肇著『基礎音響学――振動・波動・音波』(2002・講談社)』『N・H・フレッチャー、T・D・ロッシング著、岸憲史・久保田秀美・吉川茂訳『楽器の物理学』(2002・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『チャールズ・E・スピークス著、荒井隆行・菅原勉監訳『音入門――聴覚・音声科学のための音響学』(2002・海文堂出版)』


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百科事典マイペディア 「音」の意味・わかりやすい解説

音【おと】

音波によっておこされた聴覚をいうが,音波自体をさすこともある。人間に聞こえる音の振動数は16〜2万Hz(ヘルツ(単位))程度だが,個人・年齢により差がある。音には高さをはっきり認識できる楽音と,そうでない非楽音があり,楽音は高さ,大きさ,音色の三要素をもつ。音の高さは楽音を構成する純音(正弦形の波形をもつ音)のうちいちばん振動数の小さいもの(基本音)の振動数によって決まり,振動数が大きいほど高い。音の大きさは音波の振幅に関係し,物理的には音圧(音波が媒質に及ぼす圧力)または音波の進行方向に直角な単位面積を単位時間に通過するエネルギーで測り,デシベル尺度で表すが,耳に感じる音の大きさは音波の振動数によって異なるので,特別な振動数をもつ基準音と比較して感覚的に大きさを決めホンで表す。音色は音波の波形,つまり楽音に含まれている多数の上音(基本音より高い振動数をもつ純音)の振動数と強さによって決まる。
→関連項目音響学音叉

音【おん】

字音

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「音」の意味・わかりやすい解説


おと
sound

弾性体の中を伝わる縦波。通常は人間の耳に聞える振動数 (20Hz~20kHz) のものをさし,それを明示するときは可聴音という。音は楽音と騒音に分けることができる。楽音は楽器の音のように規則正しく,かつ一定の周期の続く音であり,騒音は不規則な振動または互いに無関係な周期の振動が同時に起っている音をいう。楽音の場合,強さ,高さ,音色が聞き分けられる。これを楽音の三要素という。騒音については,新幹線やジェット機の出現以来大きな社会問題になっている。音の速さは伝わる弾性体によって異なるが,t ℃の空気中を伝わるときの速さは (331.5+0.61t)m/s で与えられる。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【音韻学】より

…中国に起こった言語音に関する学問。中国語の語は原則として単音節から成り,その音節は一般に頭子音+介母音+主要母音+末子音(+声調)の構造をなしている。…

【字音】より

…個々の漢字の示す音(オン)。中国語以外の言語では,中国語の字音をその漢字と共に借用して自らの言語に順応させた音をいい,特に〈漢字音〉とも称する。…

【ソン】より

…キューバ,メキシコ,ベネズエラなどラテン・アメリカのいくつかの地域で,それぞれに固有の民俗舞踊およびその音楽の呼称。なかでも重要なのがキューバのソンで,1910年ころから島の東部に発生し,第1次世界大戦ころ全土に広まって同国の大衆音楽の基本となる演奏形態を確立した。その後のマンボなどはすべてソンから派生したものであり,ニューヨークのサルサもソンの伝統を重視している。リズムは2/4拍子。使用楽器にはギター類,マラカス,ボンゴなどの打楽器類のほか,トランペットなどを含み,六~七重奏に歌を加えた演奏形態が典型的である。…

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