日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
長子(中村草田男の句集)
ちょうし
中村草田男(くさたお)の第一句集。1936年(昭和11)沙羅(さら)書店より刊行。28歳から35歳までの338句を収録。句集名は集中の「蟾蜍(ひきがえる)長子家去る由もなし」による。この句に、俳句においても負うべきものを負い、為(な)すべきことを為そうとする決意をみる評者が多い。この句集で、写生を土台とする象徴手法を用いての心理表現や、童心に似た驚きを生かす新鮮な句風を樹立、思想や観念を歌う現代俳句への道を開いた。「玫瑰(はまなす)や今も沖には未来あり」「秋の航一大紺円盤の中」「降る雪や明治は遠くなりにけり」など。
[鷹羽狩行]
『『長子』(1979・みすず書房)』