(読み)キン

デジタル大辞泉 「錦」の意味・読み・例文・類語

きん【錦】[漢字項目]

常用漢字] [音]キン(漢) [訓]にしき
金色の糸で美しい模様を織りなした絹織物。にしき。「錦衣錦旗錦繍きんしゅう
にしきのような。美しい。「錦鶏錦秋錦地きんち錦心繍口
[名のり]かね

にしき【錦】

種々の色糸で地色と文様を織り出した織物の総称。縦糸で文様を表した経錦たてにしきと、横糸で表した緯錦よこにしきのほか、唐錦からにしき大和錦などがある。
美しいもの、りっぱなものをたとえていう語。「織りなす紅葉」「をまとう」

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精選版 日本国語大辞典 「錦」の意味・読み・例文・類語

にしき【錦】

〘名〙
① 数種の色糸で地織りと文様を織り出した織物。経(たていと)で文様を織り出した経錦(たてにしき)と、緯(よこいと)で織り出した緯錦(よこにしき)がある。
※書紀(720)允恭八年二月・歌謡「ささらがた 邇之枳(ニシキ)の紐を 解き放けて あまたは寝ずに 唯一夜のみ」
※紫式部日記(1010頃か)寛弘五年一一月二〇日「にしきのから衣、やみの夜にも物にまきれずめづらしうみゆ」
② 美しくうるわしいものをたとえていう語。
※古今(905‐914)春上・五六「みわたせば柳桜をこきまぜて宮こぞ春の錦なりける〈素性〉」
③ 秋の紅葉をたとえていう語。
※古今(905‐914)秋下・二六五「たがための錦なればか秋ぎりのさほの山べをたちかくすらむ〈紀友則〉」
[語誌](1)もともと奈良時代に中国から入ってきた織物で、仏事の装飾に用いられたり、高級な物として一部の貴族の間で用いられたりした。朝鮮産のものを高麗錦(こまにしき)、中国産のものを唐錦(からにしき)、国産のものを大和錦(やまとにしき)と呼びわけたり、車形錦、菱形錦、霞錦など模様によって呼びわけたりした。
(2)豪華な織物の代表とされ、江戸時代には、はなやかなもの、高級なものの意で、「錦絵」「錦豆」「錦眼鏡」などの複合語に用いられることが多くなる。

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改訂新版 世界大百科事典 「錦」の意味・わかりやすい解説

錦 (にしき)

多彩な色糸を用いた絹の紋織物。織物の中でも最も華麗なもので,中国における〈錦〉の文字は《釈名》によると,その価が金に等しいゆえに〈金〉と〈帛〉(絹織物)の文字を並べて作られたという。したがって広義には多彩な織物に対してこの名が当てられ,広東錦,綴錦(つづれにしき),ペルシア錦,カシミア錦といった呼び方がされる。この場合,織物組織の上では錦織に限らず,絣(かすり),綴織,縫取織などが包含されている。狭義には,〈錦〉としての特殊かつ複雑な組織によって織製された織物をさし,これは大きく〈経錦(たてにしき)〉と〈緯錦(ぬきにしき)〉とに分類される。

 〈経錦〉は経糸によって地と文様が織りだされるもので,例えば3色の配色によるものであれば3色3本の糸を1単位として,これが互いに浮沈交替して地と文様があらわされる。したがって色数が多くなれば,それだけ経糸の本数も増し,織製は困難となる。この弊害を防ぐために,経錦は普通織幅をいくつかに縦に分割し,それぞれの区画を色分けして多色とする。その結果,帛面の文様が縞状に色分けされてあらわれるという特色を生じる。しかしなかには4色,6色を経の単位糸として,帛面に縞状をあらわさないものもあり,外モンゴルのノイン・ウラから出土した〈山岳文〉の錦は,六重の経錦であることが報告されている。

 〈緯錦〉は経錦と反対に緯糸によって地と文様が織りだされたものをいう。この織法によると織製の過程で自由に色糸を変えていくことが可能なため,一般に経錦より色数も多く,華麗な大文様のものが容易に作られる。この2種の錦の織法のうち,歴史的には経錦が古く,中国では戦国時代(前5~前4世紀)の経錦が湖南省長沙の広済橋左家塘などから出土している。また長沙馬王堆漢墓,その他外モンゴルのノイン・ウラ,新疆省楼蘭(ろうらん)などからの多くの出土例によって,漢代には経錦の織製技術が完全に成熟していたことが知られる。その後,経錦の伝統は隋から初唐まで続いたようであるが,唐以降は,新しく興った緯錦の技法が盛んとなり,経錦の技術は衰退した。日本にはちょうどその転換期にあたる時期の錦が舶載されており,法隆寺伝世の〈蜀江錦(しよつこうきん)〉(中国四川省産の錦〈蜀錦〉を舶載したとされる赤地錦)のような古様な経錦と正倉院伝世の華麗な唐花文の緯錦に,二つの異なる特色が顕著にあらわれている。

 日本においても奈良時代以降に織製された錦は,すべて緯糸によって文様を織りだす緯錦の系統のものになっている。中世以降には日本独特の〈倭錦(やまとにしき)〉や〈糸錦(いとにしき)〉と呼ばれる錦が作製されたが,〈倭錦〉はふつう地も文様も緯6枚綾組織としたもの,〈糸錦〉は絵緯(えぬき)を表裏とも別搦み糸で押さえたものをさす。
執筆者:

錦[町] (にしき)

熊本県南部,球磨(くま)郡の町。人口1万1075(2010)。人吉盆地にあり,球磨川沿いにくま川鉄道線と国道219号線が通じる。肥沃な盆地部では米作,施設園芸,ナシ,モモなどの果樹栽培が行われる。1973年から球磨工業団地の造成が始まり,繊維,弱電,精密機器などの工場が誘致された。装飾古墳を含む京ヶ峰横穴,前方後円墳2基を含む亀塚古墳群があり,また一武(いちぶ)にある桑原家住宅(重要文化財)は江戸後期の角屋(つのや)型農家である。
執筆者:

錦(山口) (にしき)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「錦」の意味・わかりやすい解説


にしき

山口県東部,岩国市北西部の旧町域。錦川と支流宇佐川流域に広がる。北は島根県,北東は広島県に接する。 1955年広瀬町と深須村,高根村の2村が合体して発足。 2006年岩国市,由宇町,玖珂町,本郷村,周東町,美川町,美和町の1市5町1村と合体して岩国市となった。中心集落は広瀬。大部分を山林が占め,錦川林業地の核心で,スギ,ヒノキの美林が多い。錦川と宇佐川沿いには狭い水田地帯が開けるが,高冷地のため単作。ワサビコンニャクを産する。県下最高峰の寂地山 (1337m) のほか羅漢山 (1109m) ,平家岳などがそびえ,寂地峡,木谷峡,双津峡などの渓谷美に恵まれている。北東部の寂地峡一帯は西中国山地国定公園に,羅漢山周辺は羅漢山県立自然公園に属する。


にしき

厚手絹織物の総称。通常,地を斜文織,繻子 (しゅす) 織組織とし,これに数種類の色糸を経または緯に織り込んで文様をつくる。中国では漢代から遺例があり,日本でも5世紀前半頃の遺品がある。飛鳥~奈良時代には蜀江錦,繧繝 (うんげん) 錦など高級錦が生産され,平安時代の織部司 (おりべのつかさ) に技術が引継がれた。鎌倉時代以降も中国の影響を受けつつ各種の錦が織られたが,室町時代末期に技法が絶え,江戸時代以降は絵緯 (えぬき) で繍取った簡便な手法の大和錦が主として生産されている。用途は帯,能衣装,表具,室内装飾地など。


にしき

三重県中南部,大紀町の漁業地区。旧町名。熊野灘に臨むリアス湾入の一つ錦湾の奥に位置し,ブリ大敷網,マグロ,サバの遠洋漁業基地として知られたが,近年ハマチ養殖が行なわれる。長い間陸上交通に恵まれず,陸の孤島的存在であったが,1978年国道 260号線が通じた。

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百科事典マイペディア 「錦」の意味・わかりやすい解説

錦【にしき】

多数の色糸や金銀糸を用いて模様を表した絹織物。総じて豪華な織物を称する。中国では漢代にすぐれた錦が織られた。正倉院や法隆寺にも種々の遺品がある。現在は糸錦,唐錦,綴(つづれ)錦などがあり,毛,麻製もある。装飾用布,袋物,表具地,帯,法衣,舞台衣装などにする。→蜀江錦
→関連項目織物絹織物金箔古代裂空引機紋織物

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「錦」の解説

にしき【錦】

大阪の日本酒。蔵元の「辻林酒造」は明治元年(1868)創業。現在は廃業。蔵は和泉市和田町にあった。

出典 講談社[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクションについて 情報

デジタル大辞泉プラス 「錦」の解説

熊本県球磨郡錦町にある道の駅。国道219号に沿う。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【織物】より

…これは一方に大きな車を取りつけ,他方に錘を装置し,それをベルトで連結し,車を回すことによって錘をはやく回転させるように作った道具で,糸はこの回転している錘に,撚りがかかりながら巻き取られるのである。糸車の発明がいつかは明らかでないが,漢代の錦のきれいにそろった撚糸をみると,当然その存在が予知され,また多量にはやく紡績できるという点で,織物生産の増加と発達に関連するところが大きいから,紀元前後にはその使用が始まっていたと考えられる。紡績
【織機】
 織物と編物との違いは織機使用の有無にあるが,織機の機構としては,経糸をまっすぐ平行に並べることと,1本1本経糸をすくって緯糸を通すのではなく,並べられた経糸の偶数糸,奇数糸を交互にいっせいに持ち上げて緯糸を通す道を作る綜絖(そうこう)装置が最も重要である(図1)。…

【絹織物】より

…〈練織物〉は先染(さきぞめ),先練(さきねり)の織物で,無地織,縞,格子,絣,各種紋織物など製織の過程で色や柄が織り出されるものをいう。甲斐絹(海気)(かいき),琥珀(こはく),博多織,仙台平(せんだいひら),御召,銘仙,緞子(どんす),絹ビロード,錦などがその代表的なものである。
【中国】

[歴史]
 蚕を飼って絹糸をとり織物にすることは,中国で創始され,その歴史はきわめて古い。…

【名物裂】より

…この書には166裂が収録されるが,同名数点を含むものもあるので種類としては106種である。これらは数の上では多くはないが,その後に発刊された《和漢錦繡一覧》その他の底本となるものとしてきわめて重要とされる。また名物裂が珍重されるようになると,日本で模作品も製作されるようになり,このため江戸時代以来名物裂の研究は,もっぱらその〈本歌〉(オリジナル)と〈写し〉(模作品)とを識別することが重視された。…

【有職織物】より

…この織物にさらに縫取(ぬいとり)織の技法を加えて異なった文様を一定の配置で織り出したものを二倍(ふたえ)織物と呼んだ。は2色以上の緯糸で文様を織り表したものをいう。平織地浮文錦,地と文が異なる斜文組織のものや,文が浮織となった唐錦(からにしき)といわれるもの,地と文が同じ斜文組織で,緯糸で地色と文様を表した大和(倭)錦と呼ばれるもの,などがある。…

※「錦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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