軍配(読み)グンバイ

デジタル大辞泉 「軍配」の意味・読み・例文・類語

ぐん‐ばい【軍配】

[名](スル)《「ぐんぱい」とも》
軍配団扇うちわ」の略。
軍勢を配置し指揮すること。
「備へなき賊の軍兵、一戦に滅ぶべし。とくとく―し給へ」〈読・弓張月・残四〉
商売上の駆け引きをすること。
「さ、それも商ひの掛け引き。こりゃ、―といふもんぢゃ」〈滑・浮世風呂・四〉

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改訂新版 世界大百科事典 「軍配」の意味・わかりやすい解説

軍配 (ぐんばい)

軍配団扇(ぐんばいうちわ)の略。戦国時代以来自軍に対する武将の指揮用具。軍陣の配置,進退の日時・方角などを占って軍の手配をすることを〈軍配〉といい,その起りはすでに前九年の役(11世紀半ば)のころかららしい。兵法の大事として重視されるようになったのは室町の末期からで,武将の間で部下の指揮をするのに団扇を使うことが流行し,軍陣用のため羽の部分を皮で作り漆を塗り,柄は鉄を入れたものができて,その表面に日月星辰(せいしん)などを箔(はく)置きとして,軍配日取りの記号とすることが多くなって,軍配団扇の名で呼ばれるようになり,ついに軍配といえばこれをさすのが常となった。

 江戸時代にはいってから兵学の流行とともに形式化し,円形の羽は中くぼみとなり,表面中央の円周に月と十二支,外部に天の二十八宿,円内に金剛界大日の梵字,裏に胎蔵界大日の梵字を表したりしたが,18世紀以来,兵学の沈滞とともにしだいに衰えて,相撲の行司の所用や端午の飾りに,そのおもかげを残すにすぎなくなった。
執筆者:

行司が土俵上で,両力士の呼吸を合わせて,公平に立ち合うことを指図するとともに,勝敗の裁決を下す要具。軍配を行司が勝負裁定に用いたのは,江戸中期に勧進相撲制度が整備されてからである。初期のころは扇子唐団扇,一閑張(いつかんばり)などが多く使用され,元禄時代(1688-1704)から,軍配団扇を採用するようになり,これを相撲団扇と称した。これは戦国時代の武将が陣中で相撲技を競ったとき,たまたま軍配で勝負を裁定したという言い伝えと,当時の武者絵に描かれたことから,軍配の形を模した一閑張に始まり,やがてカシ,シタンカリンケヤキなどの堅木の軍配が製作された。縁を金属で巻き,羽の中心に鉄や木の柄をつけ,漆を塗り,〈一味晴風〉などの勝負にちなんだ文字を彫ったり金泥で書いたりした。円形,小判形,ひょうたん形など,形や大きさは一定せず,重さは750gから1kg前後。柄の端に階級を表す長打ち紐をつける。多くは先輩から譲られ,これを〈ゆずりうちわ〉という。アマチュア相撲は,第2次大戦前は職業相撲の行司が裁いたが,現在はアマチュア相撲連盟の審判員が白手袋をはめた右手で裁決するため,団扇を用いなくなった。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軍配」の意味・わかりやすい解説

軍配
ぐんばい

「ぐんぱい」とも読む。広義では軍隊の指揮者または指揮することであるが、一般には、戦場において軍の配置や進退を指図する陣具をさす。軍配団扇(うちわ)、団扇(だんせん)ともいう。甲冑(かっちゅう)の腰に軍配を差した『小笠原(おがさわら)朝経画像』(永正(えいしょう)年間)と『大内義興(よしおき)画像』(永正8年賛)の描写、および『北条五代記』『上杉憲実(のりざね)記』『甲陽軍鑑』などの記述から室町後期に始まるものと推測される。羽は鉄、革、木、網代(あじろ)などでつくり、形は円形とひょうたん形が多く、まれに角形がある。黒漆・朱漆塗り、あるいは金銀箔(はく)押しなどとし、無地のほか、戦勝祈願や日取り・方位の吉凶を占うための、八卦(はっけ)、二十八宿あるいは日月、卍(まんじ)、梵字(ぼんじ)などを描くことが多い。長い柄(え)をつけ、その手元に指溜(ゆびだまり)の窪(くぼ)みをつくり、さらに小孔をうがち腕貫(うでぬき)の緒を設けた。江戸時代には、軍学の諸流派により規定された製法、形状、取り扱い方などが唱えられたため形式化したが、その一方、文様の彫刻や象眼(ぞうがん)を施した華麗な飾り金物を打った工芸的なものもつくられた。

[山岸素夫]

相撲の軍配

軍配が相撲(すもう)行司に伝わったのは、武士が戦陣の余暇に武術の一芸である相撲技を競うとき、軍配をもって勝負の判定をしたことから始まり、のちに江戸時代の勧進(かんじん)相撲に用いられるようになった。初め軍扇、唐団扇、一閑張(いっかんばり)なども使われたが、元禄(げんろく)年間(1688~1704)のころから軍配を主として用いるようになった。形は円形、小判形、ひょうたん形などで、資材はカシ、シタン、カリンなどの堅木を用い、縁を金属で巻き、羽の中央に鉄や木の柄をつけた。重量は750グラムから1キログラム前後である。「天下泰平」「一味晴風」などの文字や紋章を金泥(きんでい)で記し、柄の端に腕貫の穴があって長打ち紐(ひも)をつける。立行司、三役行司などの用いるものは「譲り団扇」といって、古くは江戸時代から代々の行司が譲り受け続けたものである。現在でも軍配は力士の立合いと勝敗の判定に用いられる。

[池田雅雄]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軍配」の意味・わかりやすい解説

軍配
ぐんばい

軍配団扇 (うちわ) の略。単に団扇ともいう。戦国時代の武将が自軍を指揮するのに用いた指揮用具。現在では大相撲で行司力士を立ち合わせ,勝負判定をくだすのに用いる。江戸時代の勧進相撲では,初め唐団扇が用いられていたが,寛政 (1789~1801) の頃から,戦国時代に武将が使った軍配団扇を採用するようになり,今日に及んだもの。

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世界大百科事典(旧版)内の軍配の言及

【うちわ(団扇)】より

…平安時代に扇子が発達して,うちわの使用は減じたようであるが,主殿頭(とのものかみ)というような官吏は,天皇の行幸列のために儀式的なうちわを管理していた。戦国時代以後,武将は陣中で軍配うちわを使用するようになった。このうちわは鉄あるいは皮でつくり,これを漆塗りにし,日,月,九曜星などを描いて鉄の柄をつけ,打紐を通した。…

【軍学】より

…兵学,兵法ともいう。軍学は一般に隊伍・兵器の配合,軍役の数などを論ずる軍法が中心と思われがちだが,その内容は,出陣・凱旋・首実検などの式を定める〈軍礼〉,武器の製法・製式を論ずる〈軍器〉,戦略・謀計を論ずる〈軍略〉,そして〈軍法〉,雲気・日取り・方角の吉凶を占う〈軍配〉に分けられ,その奥義は軍配とされる。中世より軍学は《七書》や〈八陣,遁甲〉など中国軍学の強い影響下に,仏教・道教など雑多な要素をもって形成され,軍配を中心とした《兵法秘術》(1354),《訓閲集》(1417),《兵術軍敗》(1503)などの著述があるが,実戦への影響は分明ではない。…

※「軍配」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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