(読み)あと

精選版 日本国語大辞典 「跡」の意味・読み・例文・類語

あと【跡】

〘名〙
① 足。また、足もと。足のあたり。⇔
書紀(720)継体七年九月・歌謡「阿都(アト)取り 端(つま)取りして 〈略〉 妹(いも)が手を 我に枕(ま)かしめ」
万葉(8C後)五・八九二「父母(ちちはは)は 枕の方に 妻子(めこ)どもは 足(あと)の方に」
② 特に、獣のうしろ足。
※大友記(17C前)豊州勢高城を責事「馬は足のとどかざる処にては竿立に立ってあとばかりにて渡る」
③ 足を下ろした所に残る形。足跡(そくせき)
(イ) あしがた。あしあと。
※仏足石歌(753頃)「丈夫の進み先立ち踏める阿止(アト)を見つつ偲はむ直に逢ふまでに正に逢ふまでに」
(ロ) 人が行き来した足あと。歩いた形跡。往来
源氏(1001‐14頃)手習「黒谷とかいふ方よりありく法師のあとのみ、まれまれは見ゆるを」
④ 去って行った道や方向。行方。
古今(905‐914)離別・三九一「きみがゆくこしのしら山しらねども雪のまにまにあとはたづねん〈藤原兼輔〉」
⑤ 過ぎてしまった現象や、事件、事物のことがうかがわれるしるし。痕跡(こんせき)。遺跡。
※万葉(8C後)三・三五一「世の中を河に譬へむ朝びらき漕ぎいにし舟の跡(あと)なきごとし」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)平泉「夏草や兵(つはもの)どもが夢の跡」
⑥ 手本とすべき過去の事柄先例。故実。ためし。しきたり
※書紀(720)雄略二三年四月(前田本訓)「是歳、百済の調賦(みつきもの)、常の例(アト)に益れり」
⑦ 筆跡。筆のあと。
※源氏(1001‐14頃)絵合「今の浅はかなるも、昔のあとに恥なく賑ははしく」
⑧ 家の名跡。また、家の名跡をつぐ者。家督。遺産。遺領。遺産相続人。跡式(あとしき)
※書紀(720)欽明二年七月(寛文版訓)「人の後(つき)を為す者は、能く先(おや)の軌(アト)を負荷(にな)ひ」
※浮世草子・日本永代蔵(1688)一「此親仁〈略〉頓死の枕に残る男子一人して、此の跡(アト)を丸どりにして」
⑨ 取引所で売買取引の終わったあと。引け跡。
[補注]ア(足)ト(処)が原義上代には、足の方、足を踏んだ所、広がって、過ぎ去ったものの痕跡をいう。

せき【跡】

〘名〙
正投影法で、直線画面との交点、また平面と画面との交線。水平跡・直立跡・側跡の三つがある。
② 数学で、正方行列における主対角線上の要素の和。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「跡」の意味・読み・例文・類語

あと【跡/痕/×迹/×址】

《「」の意》
何かが通っていったしるし。「靴の―」「船の通った―」「ほおを伝う涙の―」「犯人の―を追う」
(傷には多く「痕」と書く)以前に何かが行われたしるし。痕跡。形跡。「消しゴムで消した―」「手術の―」「苦心の―が見受けられる」「水茎みずくきの―」
(建築物には多く「址」と書く)以前に何かが存在したしるし。「太古の海の―」「寺院の―」
家の跡目。家督。「父の―を継ぐ」
先人の手本。先例。「古人の―にならう」
足のあたり。足もと。
「太神宮の御方を、御―にせさせ給ふこと、いかが」〈徒然・一三三〉
[下接語]足跡雨跡家跡かま・刈り跡・傷痕靴跡城跡り跡爪痕つめあと鳥の跡波跡み跡人跡筆の跡ふな水茎の跡焼け跡
[類語]痕跡形跡跡形/(4跡目跡式家督

せき【跡】[漢字項目]

常用漢字] [音]セキ(漢) シャク(呉) [訓]あと
〈セキ〉
足あと。「人跡足跡追跡
物事の行われたあとかた。「遺跡奇跡軌跡旧跡行跡形跡痕跡こんせき史跡事跡手跡証跡戦跡筆跡墨跡
あとめ。「名跡みょうせき門跡もんぜき
[補説]「」「」と通用。
〈あと〉「跡形跡地足跡疵跡

と【跡】

あと。足あと。「跡とだえる」「跡見とみ」など、複合語の形で用いられる。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【義太夫節】より

…なお,初段の口は大序と称し,18世紀半ばまでは紋下の役場であったが,以後は初心者の修業の場と変じた。また,切場のあとに短い独立場面の落合(おちあい)(跡(あと))がつくこともある。以上の各場は作曲,演奏の上でやはり区別される。…

※「跡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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