(読み)しず

精選版 日本国語大辞典 「賤」の意味・読み・例文・類語

しず しづ【賤】

[1] 〘名〙 いやしいこと。いやしい者。身分の低い者。
曾丹集(11C初か)「あやめ草しづのさはかまぬれぬれも時にあふとぞ思ふべらなる」
※浮世草子・武道伝来記(1687)二「様々身をもだへ、賤(シヅ)さへ笑ふも恥ずして」
[2] 〘代名〙 ((一)からか) 自称。わたくしめ。しずが。近世幇間や色男などの用いた語。
※仮名草子・薄雪物語(1632)下「見そめしよりしづが心をつくしぶね、こがれしことも今ははや」
[語誌]上代に見られる「しづえ(下枝)」など、下を表わす語「し(下)」に由来する。「づ」が古くから濁音であったかどうかは定かではないが、「日葡辞書」の「Xizzu(シヅ)」により中世末期には濁音であったことがわかる。近世には自称として用いられた。

せん【賤】

〘名〙
① 卑しいこと。身分の卑しいこと。また、その者。
史記抄(1477)一八「貴と云へばうらに賤あり」 〔論語‐里仁〕
令制で、一般の良民よりも身分的に卑しいとされた人民。陵戸(りょうこ)官戸家人(けにん)公奴婢(くぬひ)私奴婢区別があり(五色の賤)、良民との通婚を許されなかった。奴婢は最も卑しく、売買譲渡の対象となった。賤民
※東南院文書‐天平一九年(747)一二月二二日・坂田郡司解「近江国坂田郡上丹郷戸主堅井国足戸口息長真人真野売賤」

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デジタル大辞泉 「賤」の意味・読み・例文・類語

せん【賤】[漢字項目]

[音]セン(漢) [訓]いやしい しず いやしむ
身分が低い。いやしい。「貴賤下賤げせん卑賤貧賤
さげすむ。いやしむ。「賤称
自分をけんそんしていう語。「賤妾せんしょう
難読山賤やまがつ

しず〔しづ〕【×賤】

[名]卑しいこと。身分の低い者。
貴人あてびと、―が身何の変わりたる所あるべき」〈藤村・春〉
[代]一人称人代名詞。拙者。わたし江戸時代幇間ほうかんなどが用いた。
「君さへ合点なさるれば、―が聟になるぢゃげな」〈浄・卯月の紅葉

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「賤」の意味・わかりやすい解説


せん

日本史上,社会から卑賤視され,身分的に最下層におかれた人々。古くは,奴婢と総称された。令制では,人民は良と賤の身分に分けられ,戸令に,陵戸官戸家人,公奴婢,私奴婢を五色の賤といい,結婚にも制限が加えられ,異色の者同士が結婚したときには,その所生の男女の帰属についても,種々の規定が設けられ,良民との通婚は許されなかった。しかし,良と賤との間に生れた男女は,一定の手続を経たうえで良民に帰属させるという解放の道も開かれていた。奈良時代には,賤民解放もときにより行われたが,その全面的解放が行われたのは平安時代の延喜年間 (901~923) のことであった。しかし,平安時代後期からは,餌取 (えとり。タカの餌のために鳥や牛馬の肉をとる者) ,犬神人 (いぬじにん) ,夙の者,河原者,屠児 (とじ) など散所非人と呼ばれる賤民が現れた。江戸時代になると,四民 (→士農工商 ) の下に穢多,非人などの賤民身分が法制的に設けられた。明治4 (1871) 年太政官布告によって,穢多,非人の称号は廃止され,法制的には賤民身分はなくなった。しかし穢多身分の系譜をひく人々は新平民などの賤視的称呼を受け,身分遺制に伴う物心両面の社会的差別をこうむり,第2次世界大戦後にまで及んでいる。 (→部落解放運動 )  

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「賤」の解説


せん

良賤(りょうせん)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「賤」の意味・わかりやすい解説


せん

良賤

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【被差別部落】より

…したがって,いわゆる部落差別が本格化したのは,江戸時代の幕藩体制のもとでのことであった。部落差別は,確かに明治維新以降の近代化による政治・経済・社会のひずみとも密接な関係にあるとはいえ,江戸時代における武士・百姓・町人・賤民の身分格差のなかで最底辺におかれていた賤民身分の人々に対する格別の差別意識に深い根を下ろしており,その意識が,社会的偏見に凝縮されて,交際,婚姻等々の面での苛酷な差別を,現代にいたるまで存続させてきていると考えられるからである。 江戸時代における被差別部落の中核部分をなしたのは〈えた〉であったが,その名で呼ばれる人々の存在は,いちはやく中世,鎌倉時代末期の文献で〈穢多〉という漢字表記とともに確認される。…

※「賤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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