親方(読み)おやかた

精選版 日本国語大辞典 「親方」の意味・読み・例文・類語

おや‐かた【親方】

〘名〙
① (平安時代の物語類では慣習的に「おやがた」とよむ) 親の代わりとなるような人。また、親のように尊敬すべき人。
※宇津保(970‐999頃)国譲下「さも侍らねど、兵衛のおやかたにて、つねに申さすれば」
② 年上の者。おもに一族の中でいう。
※史記抄(1477)一三「従兄 いとこどしぞ。兄といふは、ちっとをやかたぞ」
③ 家を継ぐ者としての長兄。また、単に兄をいう。
※御伽草子・十本扇(古典文庫所収)(室町末)「兄はおや方なればおやをふぢ申さんといふ、弟は次男なればとて」
④ 親のこと。おもに養親をいう。
※禁令考‐後集・第二・巻二〇・文政三年(1820)「非分も無之実子養子を殺候親、短慮に而与風殺候はば、遠島、但、親方之もの利得を以殺候はば、死罪」
⑤ 同族集団のかしら。一族の代表とされる者。
※明徳記(1392‐93頃か)上「さるにても修理大夫は一家の親方にて」
⑥ 職人、人夫、奉公人などが仕えるべき主人。かしら。親分。〔日葡辞書(1603‐04)〕
(イ) 商家の丁稚(でっち)、番頭など使用人がその主人を呼ぶ称。
※浮世草子・世間胸算用(1692)三「扨また召つかひの若ひ者、よくよく親かた大事に思ひ」
(ロ) 職人、徒弟に職業上の技能を教えこみ、その生活をも監督する者。
※天理本狂言・塗附(室町末‐近世初)「いつものごとくおやかた達へお礼におりゃるまひかと云」
(ハ) 遊女屋の主人。抱え主。くつわ。
※咄本・鹿の巻筆(1686)三「吉原の上臈、おもひおもひにおやかたの娘の節句なりとて」
(ニ) 人足、土方などの頭。
※都繁昌記(1837)乞食「各部多銭翁有、此を乞頭と為、或は親方と称し、或は小屋頭と称す」
(ホ) 江戸時代、与力や同心などがその頭、支配人を呼ぶ称。
※御触書寛保集成‐一八・寛保元年(1741)五月「与力、同心共忰又は親類之内、番代相願、勤させ候時、番代之者方よりは其親方之者共え、合力之儀何分にも宜敷可仕事勿論に候」
(ヘ) 差配役や責任者と目される人物に呼びかける語。また、客引きが客に呼びかける称。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下「親方親方、こっちへお出なんし」
⑦ 歌舞伎の役柄、親仁形(おやじがた)略称
※俳諧・両吟一日千句(1679)第四「月の烏さては子かたか親方か〈友雪〉 数は十六むさし野の色〈西鶴〉」
⑧ 役者の敬称。太夫元(たゆうもと)以外の俳優に対して明治初年までいった。
※歌舞伎・暫(1714)「もし親方、お前まあ、この寒いに、よふ御出なさんした」
⑨ 村の旧家、大家。村名主。また多くの抱え百姓をもつ地主。⇔子方(こかた)
俳句の世界(1954)〈山本健吉〉二「親方・子方の関係にあるものとかが、もっと狭い、緊密な関係にある交際であって」
⑩ 仮の親子関係における親。取り上げ親、拾い親、烏帽子親、鉄漿(かね)親、仲人親など。
⑪ 相撲で年寄の敬称。
⑫ 頼母子講(たのもしこう)発起人。親。
※法隆寺文書‐八・(年月日欠)頼支規式「仍親方於可得分者、偏可為御報恩会之要脚、聊も不可用余事」
⑬ 琉球の位階の一つ。按司(あんず)と親雲上(おやくもい)の間に位し、冠の色によって紫冠ともいう。この階級の者は、三司官進貢(しんこう)正使など、内政外交の要職についた。
読本椿説弓張月(1807‐11)続「龍宮城正殿(まんどころ)に利勇等以下の親方(オヤカタ)按司を集合(つどへ)民の訟を聞きて坐(おは)せしに」

おや‐がた【親方】

〘名〙 =おやかた(親方)

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デジタル大辞泉 「親方」の意味・読み・例文・類語

おや‐かた【親方】

職人・弟子・奉公人などを指導・保護する立場にある人。「親方のもとで修業をする」⇔子方
一人前の職人を敬ってよぶ語。
相撲の年寄を敬っていう語。
一門・一座の頭に立つ役者を敬っていう語。
《「おやがた」とも》親代わりとして頼る人。
「―になりて聞こえ給ふ」〈・総角〉
兄。年長者。〈日葡
[類語]ちょうおさかしらトップ大将主将闇将軍親分親玉棟梁首領頭目ボスドン

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「親方」の意味・わかりやすい解説

親方
うぇーかた

近世沖縄の位階の一つ。紫冠をいただく正一品から従二品の品級(ひんきゅう)の者で、間切(まぎり)あるいは村を領する地頭(じとう)であることから、領邑(りょうゆう)名を冠して「○○親方」と称するのが通例である。親方の上は按司(あんじ)、その下は親雲上(おやくもい)(ペーチン)であり、按司は国王の一族に限られるので、親方は琉球(りゅうきゅう)王国における一般士族が上りうる最高位の位階であった。語源については「役職にある人」を意味する「オエカ」に複数形の「タ」がついたものだという有力な説がある。

[高良倉吉]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「親方」の解説

親方
おやかた

首里王府の位階名および称号。ウェーカタと発音する。首里王府では王子や按司(あじ)をのぞく一般の士は,親方と平士にわけられた。親方はさらに三司官(さんしかん)の親方,三司官座敷の親方,ただの親方の3種の位にわかれる。いずれも紫冠を戴く位であった。この位の者が親方を称するようになるのは1627年からで,知行を授かり,一つの間切(まぎり)を領所とした。

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旺文社世界史事典 三訂版 「親方」の解説

親方
おやかた
master

中世ヨーロッパの同職ギルド(ツンフト)の正規組合員
独立の手工業者で,初めは組合加入も簡単であったが,のちには徒弟・職人をへ,親方作品(マスター−ピース)を提出したのち,加入を許された。徒弟や職人に対しては絶対的な権威をもっていた。

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世界大百科事典(旧版)内の親方の言及

【親分・子分】より

…親方・子方と同義。今日ではヤクザや政界の派閥など闇の世界のそれに限られたもののように連想されがちであるが,この民俗語は社会学,民俗学,社会人類学では日本社会の構造を解明するうえで重要な術語のひとつになっている。…

【ギルド】より

…このほかに加入金が課されたが,ギルド構成員の子弟の場合は低額であった。これらのほかにギルドに属している教会に蠟などを寄進し,さらに宴会を開いて親方たちに馳走する定めもあった。ときには職業を異にする著名人もギルドに加入を許されたが,この場合も同じ身分か,より高い身分の者の加入しか認められなかった。…

【工房】より

…職人や芸術家(工匠)の仕事場。転じて,そこで親方・師匠に従って制作に従事する人的組織。工房は,金属器のように制作に特別な技能を要する物品の発生と共に諸文明中に登場したと考えられる。…

【地主】より

…ただし,近世の地主は自作部分を内包した地主手作り経営という性格をもっているのが一般的である。 近世の地主は地頭,田主,大屋,親方,親作,地親などと呼ばれた。ところで,地主は小作人から小作料を徴収する小作経営だけでなく,酒屋,油屋,紺屋などの農村工業をはじめ質屋,穀屋,旅籠などの金融・流通業を兼営し,村方の再生産に深く浸透している。…

【職人】より

…ローマのコレギウムは,キリスト教の受容とともに相互扶助を行う兄弟団的結合に変わっていったとみられる。11世紀ごろロンバルディアのコモ地方にみられた石工の団体magistri commaciniは,すでに親方,職人,徒弟を擁するギルド的な組織をもち,教会建築に従事していた。マギステルを長とする石工の組織が修道院の組織を模倣したものといわれるのも,その関係によるとみられる。…

【徒弟制度】より

…ヨーロッパ中世の職業技術訓練に典型的にみられる制度で,親方制度とも呼ばれる。手工業ギルドを中心に同職組合が形成された14世紀ころ,それと結合しつつ確立した。…

※「親方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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