(読み)ころも

精選版 日本国語大辞典 「衣」の意味・読み・例文・類語

ころも【衣】

〘名〙
① 人のからだ、特に胴体をおおう物の総称。衣服。着物。きぬ。
書紀(720)仁徳二二年春正月・歌謡「虚呂望(コロモ)こそ 二重も良き さ夜床を 並べむ君は 畏きろかも」
※万葉(8C後)一・二八「春過ぎて夏来るらししろたへの衣(ころも)乾したり天の香具山」
② 僧や尼が袈裟(けさ)の下につける衣服。僧尼の法衣。僧衣。
※枕(10C終)二七八「僧都の君、赤色の薄物の御ころも、むらさきの御袈裟、いと薄き薄色の御衣(ぞ)ども、指貫など着給ひて」
③ 昆虫の外皮。小動物の皮膚、羽毛など、からだをおおっているもの。
※書紀(720)仁徳二二年春正月・歌謡「夏蚕(なつむし)の 蝱(ひむし)の虚呂望(コロモ) 二重著て 囲み宿りは 豈良くもあらず」
④ 菓子や揚物などの外皮。てんぷら、フライなどの外側を包んでいるものや、きんとん、こんぺいとう、豆などの外側にまぶしてあるものの類。
※養鷹秘抄(15C前か)「人じん、かんざう〈略〉黒やき、右是をよくし合て、わらびの花をねりて、此葉を丸じ、上にきんぱくを衣にかくる」

きぬ【衣】

〘名〙
① 衣服。着物。特に、上半身からおおって着るものを総称していう。また、衵(あこめ)、かずきなどもいう。→きぬ(衣)着す
※万葉(8C後)一四・三四五三「風の音の遠き我妹子が着せし伎奴(キヌ)たもとのくだりまよひきにけり」
動植物の肉をおおっているもの。動物の羽毛、皮、また植物の外皮、特に芋の子の皮など。
※枕(10C終)一五一「にはとりのひなの、足高に、しろうをかしげに、きぬみじかなるさまして」
③ なにもついていない肉体のはだ。地はだ。
※枕(10C終)三「舎人の顔のきぬにあらはれ、まことにくろきに」
[語誌](1)上代では日常の普段着。旅行着や外出着は「ころも」といった。そのため「きぬ」は歌ことばとはならなかったようで、複合して「ぬれぎぬ」以外は三代集以降姿を消す。
(2)院政期以降は衣服の総称でなくなり、「絹」の意の例が見えはじめ、軍記物語では上層階級や女性の着衣の意味で用いられている。下層階級の衣服は「いしゃう」であった。

そ【衣】

〘名〙 ころも。きぬ。着物。衣装。多く「おんぞ(御衣)」「みそ(御衣)」の形で用いられる。
古事記(712)下「軽大郎女、亦の名は衣通(そとほし)郎女〈御名を衣通王と負はせる所以は、其の身の光、衣より通り出づればなり〉」 〔色葉字類抄(1177‐81)〕

い【衣】

〘名〙 身にまとうもの。きもの。ころも。きぬ。
日本開化小史(1877‐82)〈田口卯吉〉一一「生を保ち死を避けんと欲するには衣なかるべからず」 〔書経伝‐武成〕

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デジタル大辞泉 「衣」の意味・読み・例文・類語

ころも【衣】

人のからだに覆いつけるものの総称。衣服。きもの。きぬ。
僧尼が袈裟けさの下に着る衣服。法衣ほうえ。僧衣。「墨染めの
揚げ物や菓子などの外面をくるんだり、まぶしつけたりするもの。「てんぷらの
動物の皮膚、羽毛などをたとえていう。
「夏虫のひむしの―」〈仁徳紀・歌謡〉
[類語](1洋服和服衣料品衣料衣服衣類着物着衣被服装束お召物衣装ドレス洋品アパレル略服ふだん着略装軽装着流しカジュアルよそゆき一張羅街着礼服式服フォーマルウエア礼装正装既製服レディーメード既製出来合い吊るしプレタポルテ注文服オーダーメード私服官服制服ユニホーム学生服軍服燕尾服喪服セーラー服水兵服背広スーツ/(2法衣袈裟

い【衣】[漢字項目]

[音](漢) エ(呉) [訓]ころも きぬ
学習漢字]4年
〈イ〉
身にまとうもの。着物。「衣装衣食衣鉢いはつ衣服衣料衣類御衣ぎょい更衣脱衣暖衣着衣胴衣白衣弊衣
外側にかぶせるもの。「糖衣
〈エ〉着物。特に、僧の衣。「衣鉢えはつ・えはち衣紋浄衣白衣びゃくえ法衣
〈ころも(ごろも)〉「薄墨衣夏衣羽衣
[名のり]そ・みそ
[難読]上衣うわぎ胞衣えな御衣おんぞ・みぞ被衣かずき紙衣かみこ黒衣くろご衣魚しみ寝衣ねまき直衣のうし単衣ひとえ母衣ほろ浴衣ゆかた

きぬ【衣】

衣服。着物。ころも。「歯に着せずものを言う」
古代、上半身を包むものの総称。平安時代の装束では、上着と肌着との間に着た衣服。うちきあこめなど。
皮膚、動物の羽毛や皮、里芋の子の皮などを、衣服にたとえていう語。
「鶏のひなの…―短げなるさまして」〈能因本枕・一五五〉

え【衣/依】[漢字項目]

〈衣〉⇒
〈依〉⇒

そ【衣】

きぬ。ころも。着物。多く「おんぞ(御衣)」「みそ・みぞ(御衣)」の形で用いる。
神―みそ織りつつ」〈神代紀・上〉

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改訂新版 世界大百科事典 「衣」の意味・わかりやすい解説

衣 (きぬ)

衣服一般の名称のほか,とくに直衣(のうし)や狩衣(かりぎぬ)の下着をいう場合がある。古来,絹を〈きぬ〉とよみ,また衣をも〈きぬ〉と称したが,衣服の場合,その地質の名称や加工の過程が衣の名称になることは後世にもその例が多い。たとえば長絹(ちようけん),水干(すいかん)などがそれである。したがって上古の日本には衣服をあらわす言葉に〈きぬ〉と〈ころも〉との二つがあり,〈きぬ〉のほうが〈ころも〉より後にできたものと考えられ,形・質ともにより高級服飾品をいう感じがあった。たとえば〈かりごろも(狩衣)〉から〈かりぎぬ〉に発展したのなどがその例である。このような観念は平安時代まで受け継がれて,一般的に上級の衣服の総称となって〈うえのきぬ(袍)〉〈あこめきぬ(衵)〉などのように称された。しかるに,いつかこの一般的な〈きぬ〉という名称が平安時代からは袍(ほう)や唐衣(からぎぬ)の下に着る実用的な衣服をさすこととなって,(うちき)や(あこめ)をただ〈きぬ〉とのみいうようにもなった。たとえば,五つの重袿(かさねうちき)のことを五衣(いつつぎぬ)というのがそれである。一方,平安末期から束帯の構成が形式化してしまうと,束帯の下着の衵に対して,直衣や狩衣の下着を衣(きぬ)と称することとなり,その衣の形式が袿や衵と同じであるために,さらに転じて小袖に対して広袖の衣を〈きぬ〉と称するようになった。〈きぬはかま〉と〈こそではかま〉〈きぬかずき〉と〈こそでかずき〉などは厳密な意味で区別されている。このように平安末期ころから直衣や狩衣の下着を〈きぬ〉といってきたが,その色には束帯の衵のように紅だけとは限らず,薄色,萌黄(もえぎ),蘇芳(すおう),紅梅,女郎花(おみなえし)などがあり,白は老年者や平生衣に用いられ,地質も綾,浮織物唐織物などいろいろなものが用いられた。

 なお直衣のときには,この衣を指貫(さしぬき)の上に着て,その褄(つま)を直衣下から出す着方があり,これを出衣(いだしぎぬ)といった。この方法はまた衣冠のときにも行われ,出袿(いだしうちぎ),出衵(いだしあこめ)ともいった。直衣の場合の出衣は,直衣布袴(のうしほうこ)につぐ正式のときに行われたもので,後世では直衣始(のうしはじめ)のときに着用された。この方法は指貫の上に衣を着て帯をしめ,衣の後ろを直衣とおなじ高さにつき上げて,衣の前褄を直衣の下から出すのである。このようにして平安中期より直衣の色が冬は白となってしまった単調さを,この衣の色によって補うことができたのである。また狩衣の場合には女房の重(かさね)のように,狩衣と下の衣との配色により美しい服飾効果が発揮された。
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日本文化いろは事典 「衣」の解説

日本の代表的な民族衣装である「着物」。着物の歴史をさかのぼると、縄文時代の貫頭衣〔かんとうい〕にまで辿り着きます。飛鳥時代の唐文化の影響、平安時代の鮮やかな十二単。日本の歴史のなかで、着物文化は私達と切り離す事ができません。現在一般的に「きもの」と呼ばれているものは、和服の中の「長着〔ながぎ〕」にあたります。長着の仕立てには、裏の付いた袷〔あわせ〕仕立てと裏の付いてない単〔ひとえ〕仕立てに大別され、季節やTPOによって着分けます。日本の民族衣装である着物ですが、洋服の一般化によって着用する機会が減少していました。しかし最近ではアンティーク着物や和柄の流行により、若い世代に も人気です。これからの新たなきもの文化に昔ながらの伝統的な作法を織り交ぜ、今後も日本の美しいきもの文化は発展していく事でしょう。着 物の種類は「織り」と「染め」の2種類に分けられます。織りの着物とは初めに糸を染めておき、後から織り上げた着物のことをいいます。染めの着物とは、白 い生地を織り上げ、後から布地に模様を手描きしたり、色で染めたりする着物のことをいいます。絣や紬などは織りの着物に分類され、振袖や訪問着などは染め の着物に分けられます。織りの着物は、表と裏地が同じ繊維なので、表の色が薄れてきても、裏返しにするとまた新しい着物のように着ることができます。染め の着物の場合も、再び染め直すことで、また新しい着物として生まれ変わります。古くなってもすぐには捨てず、また新しく生まれ変わらせる。着物からは日本 人の物を大切にする心が伝わってきます。日本文化いろは事典では、着物を 「い」特徴、「ろ」歴史・由来、「は」方法・形式(作法)という内容でご紹介しています。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「衣」の意味・わかりやすい解説


きぬ

袖口の広い広袖の和服をいう。男性の場合,束帯のいちばん上に着る衣を上の衣または (ほう) といい,上着と肌着との間に着る衣を間籠 (あいこめ) の衣または (あこめ) という。女性の場合は表着の下に着る衣を (うちき) といい,内衣とも書く。


ころも

仏具。僧尼の衣服。もともとインドでは僧尼は九条,七条,五条の袈裟を着たが,中国,日本では風土的変遷を経て,袈裟はいちばん上に掛けるものとなり,その下に着る衣服が主となって,それを袈裟と区別して「衣」というようになった。一般にはからだに着ける衣服をいい,転じててんぷらや菓子などの外側にまぶすものをもさす。

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デジタル大辞泉プラス 「衣」の解説

錦鯉の品種のグループ。紅白の緋盤(赤い模様)の中に、藍色がかった墨が網目状または刷いたようにのるもの。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「衣」の解説

衣 (エ)

植物。荏胡麻の古名

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【服制】より

…衣服に関する制度,規制をいう。
【中国】
 中国では,広義には服装全般にわたる規定をいうが,ひと口に服装といっても,腰から上の着物である〈衣〉,腰から下の〈裳(しよう)〉(男女共用のスカート状のもの,したばかま)のみならず,〈冕(べん)〉(かんむり),帯,履物,装飾品など,要するに身につけるいっさいのものにおよぶ。…

【衣】より

…衣服一般の名称のほか,とくに直衣(のうし)や狩衣(かりぎぬ)の下着をいう場合がある。古来,絹を〈きぬ〉とよみ,また衣をも〈きぬ〉と称したが,衣服の場合,その地質の名称や加工の過程が衣の名称になることは後世にもその例が多い。…

【法衣】より

…僧尼の着用する衣服。袈裟(けさ)も広義には法衣に属するが,狭義には袈裟の下に着る衣服を法衣とか衣(ころも)といい,その種類や着衣の様式,材質,色合いは多種多様である。…

【沖縄[県]】より

…一方で,日本の古語,古俗を残すと思われる民俗が見いだされ,沖縄は〈古代日本の鏡〉ともいわれている。
[衣食住]
 琉球に木綿が伝来したのは17世紀初めで急速に普及したが,それまでは今日夏だけに用いられる芭蕉布が一般住民の通年の衣料であった。身分的服装規定が16世紀にはじまり明治中期ころまで残存しており,一般には紅型,藍型(えーがた)はじみなものが礼装に許されるのみで,平織に限られていた。…

【束帯】より

…この名称は《論語》の公冶長篇の〈束帯立於朝〉より出たとされている。〈衣服令〉に規定された礼服(らいふく)は平安時代になると即位式にのみ用いられ,朝服が,参朝のときのほか,礼服に代わって儀式に用いられ束帯と呼ばれるようになった。さらに服装の長大化,和様化にしたがって優雅典麗な形式に発展した。…

※「衣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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