藤岡市助(読み)ふじおかいちすけ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「藤岡市助」の意味・わかりやすい解説

藤岡市助
ふじおかいちすけ
(1857―1918)

電気工学者。周防(すおう)国(山口県)生まれ。1881年(明治14)工部大学校電信科卒業。在学中エアトンに学び、日本初のアーク灯点灯(1878)に参加。1884年母校の教授となり物理学・電信学を講義。この間アーク灯用・白熱灯用の各発電機を設計・製作(1883)。1886年帝国大学工科大学助教授になるが、同年辞職し東京電燈(でんとう)株式会社(現、東京電力)技師長。以後、民間で電灯事業に取り組み、1890年白熱舎創設。白熱舎は後に東京電気となり、さらに1939年(昭和14)に芝浦製作所と合併、東京芝浦電気(現在の東芝)となった。日本電気協会会長、東京電気社長、岩国電気鉄道社長など要職歴任。日本初の白熱電球製造を手がけたほか、1884年フィラデルフィア万国電気博覧会ではエジソン交歓、後の東京電気とゼネラル・エレクトリックGE)社との技術提携の基礎をつくった。

[井原 聰]

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朝日日本歴史人物事典 「藤岡市助」の解説

藤岡市助

没年:大正7.3.5(1918)
生年:安政4.3.14(1857.4.8)
明治時代の電気工学者,電力工業の推進者。周防国岩国藩(岩国市)の下級藩士の子として生まれた。藩の語学所で英語を学び,明治7(1874)年に東京遊学を命じられた。工部省工学寮に入学し,14年工部大学校(東大)電信科を卒業。同期生に中野初子がいた。在学中に『電信初歩』(『電信小誌』とも伝えられる)を著し,これはわが国最初の電気技術書といわれる。卒業後の14年に工部大学校教授補となり,のち同教授となった。電灯会社の設立を提唱し,15年に銀座大倉組内の東京電灯会社仮事務所前に2000燭光のアーク灯を点じた。翌年には,同郷の三吉正一を勧誘して三吉工場(のち三吉電機工場)を創設させた。藤岡の設計,三吉の製造による直流発電機(1885年完成)は現在,東大工学部電気工学科に保存されている。17年には,フィラデルフィア国際電気博覧会を見学。この博覧会は米国電気学会の設立のきっかけとなった重要なイベントであり,興隆する電灯・電力工業に強い印象を受けたと思われる。19年には,東京電灯の技術長に専任すべく工部大学校の教職から退いた。23年,白熱電球国産化のために三吉らと白熱舎を設立。これはのちに東京白熱電燈球製造会社から東京電気会社となり,今日の東芝のルーツのひとつになっている。白熱電球の製造は困難をきわめたと伝えられるが,実際にこれを担当したのは工部大学校での教え子三宅順祐 と思われる。同年,上野の勧業博覧会でわが国初の電車を走らせ,また浅草凌雲閣にエレベーターをとりつけたりもした。その活躍ぶりから「日本のエジソン」と形容することもできよう。藤岡・三吉のコンビの存在により,山口県からは重宗芳水,小田荘吉らの電気技術者が輩出した。<参考文献>瀬川秀雄編『工学博士藤岡市助伝』

(高橋雄造)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「藤岡市助」の解説

藤岡市助 ふじおか-いちすけ

1857-1918 明治時代の電気工学者,実業家。
安政4年3月14日生まれ。明治17年母校工部大学校の教授。19年帝国大学助教授となったが,同年実業界に転じ,東京電灯技師長となる。のち東京電気(東芝の前身)社長。白熱灯用発電機,タングステン電球の製造など,電気事業の発展につくした。大正7年3月5日死去。62歳。周防(すおう)(山口県)出身。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の藤岡市助の言及

【電灯】より

… 電気利用の第2のあかりは,79年10月21日,アメリカのT.A.エジソンによる木綿糸を炭化した実用炭素電球の発明であるが,効率は約1ルーメン毎ワット,寿命は13時間半にすぎなかった。日本では89年8月12日,藤岡市助が東京電灯株式会社の電球試験室で,マダケを炭化した国産炭素電球12個を製作したのが最初である。短寿命の克服は1908年,アメリカのW.クーリッジによる引線タングステン電球の発明があり,09年,アメリカのI.ラングミュアによる窒素ガス入り電球の発明でタングステンの蒸発が抑えられ,21年の三浦順一による二重コイル電球の発明は効率を2割近く高めることができ,さらに25年不破橘三およびアメリカのピプキンMarvin Pipkinがそれぞれ別個に内面つや消し電球を発明して,グレアの防止に役だった。…

※「藤岡市助」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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