(読み)どう(英語表記)trunk
body

精選版 日本国語大辞典 「胴」の意味・読み・例文・類語

どう【胴】

〘名〙
① 脊椎動物の頭・頸・尾・四肢を除いた体部の総称。動物体の中心となる、内臓諸器官が納められている部分。また、無脊椎動物の体の中心になる部分を一般的にいう。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※虎明本狂言・鬼の継子(室町末‐近世初)「あたまからくわふ、どうからくはふ」
② 鎧(よろい)の胸と腹部をおおう部分。前後の立挙(たてあげ)と衡胴(かぶきどう)からなる。
※平家(13C前)一一「鎧の草摺かなぐりすて、どうばかりきて」
剣道防具で、胸と腹部をおおう部分。また、その部分に打ち込んだときのきまり手の技。あるいは、そこへ打ち込むときの掛声。
※日本教育史資料(1890‐92)四「常々甲冑代り面胴相用候はば」
④ 物の腹部にあたり、中が空になっている部分。
(イ) =どう(筒)
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「三みせんの胴(ドウ)へまくらがみをあてがふ」
(ロ) 牛車の車箱。
※落窪(10C後)二「とうかきすゑよとおこなひ出でたるに」
(ハ) 和船の船体中央部。腰当、筒関の位置に相当する。「胴の間」 〔和漢船用集(1766)〕
(ニ) やかん、鉄びん、火鉢などの本体。
多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「鉄瓶の胴を挲(さす)りながら」
額仕立の着物や夜着で、額の部分をのぞいた表地の部分。
洒落本傾城買四十八手(1790)しっぽりとした手「ひちりめんのどうにて、紫じゅすに、金糸と銀糸であら礒をぬひつめたへりをとりし、額むくを着」
⑥ 筒挟み・車立・さしあまなど帆柱の受材上部にあって帆柱の起倒を容易にし、また、倒したときの受け木となる「ころ」。車ともいう。〔和漢船用集(1766)〕
⑦ きもたま。こころ。性根。度胸。→どう(胴)が据わるどう(胴)を据える

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デジタル大辞泉 「胴」の意味・読み・例文・類語

どう【胴】

身体の頭と手足とを除いた部分。胴体。
腹部のあたり。「まわり」
よろいまたは剣道の防具で、胸部と腹部とを覆う部分。
相手の胴3の部分へ打ち込む剣道の技。
太鼓・三味線などで、皮を張った中空の部分。どう
肝っ玉。心。
「坂東者の―強く」〈浄・油地獄
[類語](1胴体/(3めん面ぽお小手

どう【胴】[漢字項目]

常用漢字] [音]ドウ(慣)
身体の、頭と手足を除いた筒形の部分。また、それに似たもの。「胴衣胴体胴乱響胴

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改訂新版 世界大百科事典 「胴」の意味・わかりやすい解説

胴 (どう)
trunk
body

胴体,軀幹(くかん),体幹ともいう。頭,尾,付属肢,触角などの突出部を除く動物体の中心的な部分。普通は大きい塊をなし,内部に体腔をもち,そこにほとんどの内臓諸器官をおさめている。無脊椎動物では,胴といえる部分を識別できるのは節足動物だけであるが,胴の構成は分類群によって多少異なる。大半のグループでは胴は明りょうに分節した胸部と腹部からなるが,クモ類やカニ類では頭部と胸部が一体となって頭胸部をなし,それと腹部とが胴に相当する。

 脊椎動物では,体が一般に頭部,頸部,胴,尾部,および外肢(ひれ,四肢)に区分される。頸部をもたない魚類では,常識的には鰓孔(えらあな)から尾びれの付け根までを胴とみてよいが,動物学的には鰓孔の後端から総排出腔の外口(肛門)の位置までを胴,それより尾びれの根もとまでを尾部とする。両生類にも頸部がなく,頭部と胸部の境界がないが,学術的には口の前端から耳の鼓膜の後端までを頭部,それより総排出腔外口までを胴とする。頸部の分化した爬虫類,鳥類,哺乳類では,頸部の後端から尾の前端つまり肛門付近までが胴で,胸部と腹部からなる(ただしヘビ類やクジラ類では頸部が識別できない)。しかし,頸部,胸部,腹部の外面的境界は明確に設けることができない。体の各部の長さを計測する際には便宜的に頭胴長(頭の前端から肛門までの長さ)や座高などが設定されるけれど,胴だけの長さの計測は行われない。
執筆者:

〈胴〉という漢字の〈同〉は《説文解字》によれば,酒などを入れる器で,ここでは〈筒状のもの〉の意である。胴は食道から直腸までの筒状器官を内蔵している部分の呼称であり,転じて筒状構造(とくにその中心部分)を胴と呼ぶことが多く,弦楽器,航空機,船舶などにも胴がある。賽(さい)を振る筒も胴で,賭博(とばく)の親を〈胴元〉または〈胴親〉という。彫刻でいうトルソは胴とほぼ同義であるが,この語はバッコスディオニュソス)の信者たちが用いた杖(つえ)を表すギリシア語テュルソスthyrsosに由来する。剣道で切りこむ〈胴〉は胸郭下部から骨盤の上までの腹部で,上下に〈一の胴〉〈二の胴〉と分けられる。新刀の試し切りで〈一の胴〉を切ったところ,横行結腸を切ったため水様便をかぶった人の話が杉田玄白《形影夜話》(1803)にあるから,〈一の胴〉の上限は横隔膜あたりといえよう。武士の胴を守った大鎧(おおよろい)も軽装の胴丸も,主として〈一の胴〉〈二の胴〉を覆ったものである。これに対してフェンシングでは,フルーレの突くべき範囲は胸部から下腹部までの胴全体で,サーブルの斬撃と刺突の対象となるのは下腹部を除く胴と上肢だが,エペでは全身どこを突いてもよい。中世の騎士たちの鎧はほぼ全身を包んでいた。

 ウィレンドルフやローセルから出土した女性像は胸から臀部(でんぶ)にかけて胴が太く強調され,性と生殖の豊かさを表している。古代ギリシアの彫像は男女ともに自然のままの太い胴である。スパルタやアテナイの女性が着た衣装のペプロスキトンは胴の形を変えなかったが,その胴を締めたひもが幅広くなって,後に胴布やコルセットになる基となった。キリスト教は女性の性的特徴を包み隠すよう要求したから,胴布の最初の目的は胴全体を細く見せることだった。12~13世紀ころまでは,子どもの胸のように胴布で乳房を圧迫することが公のならわしだった。胴布が押し上げた乳房を露出して見せはじめたのはルネサンス以後のことである。胸と臀部を強調するために腰を細く絞るくふうがその後続けられ,やがてルイ王朝時代のフランス貴族女性の衣装が一つの典型となった。今日のフランス人形のモデルのような細い胴に締め上げるコルセットがその体型をつくったが,このころコルセットの弊害も指摘されている。マリー・アントアネットの時代にすでに,ドイツの医学者ゼンメリングS.T.von Sömmeringは胸郭下部をすぼめて内臓諸器官を圧迫することを警告した(1785)。フランス革命後はコルセットもすたれ,女性の胴は圧迫から免れたが,王制に復帰すると再び流行して,鯨のひげや金属枠の入ったコルセットが大衆化していった。けれどもコルセットは呼吸,消化,血行を障害して貧血,脂肪蓄積,胃炎,肝障害,月経困難その他を引き起こし,皮膚に圧痕を残すほどだったので,きつく絞るコルセットは20世紀に入って徐々に緩やかなものに変わっていった。今日,腰痛や脊柱変形に対して用いられる医療用コルセットは,胴を固定するためで細くする目的はない。日本女性の肝臓にしばしば認められた線条は,胴を緊縛する帯によるといわれたこともあるが,なおつまびらかではない。欧米人が命を縮めても得ようとした蜂腰の胴は,古代インドのヤクシー女神像などにつとに刻まれているが,例えばビルマ(ミャンマー)の女性にはごく普通に,自然のまま引き締まった胴が見られるという(M.フェラーズほか《ビルマ記》)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胴」の意味・わかりやすい解説


どう

頭、頸(くび)、尾、肢(あし)などを除いた、動物の主要な体幹部をさす。躯幹(くかん)ともいう。節足動物以外の無脊椎(むせきつい)動物では、胴ははっきりとは判別しにくい。脊椎動物では、魚類を除き一般に胴は他の部分と明瞭(めいりょう)に区別することができる。ヒトでは、頸部(けいぶ)の後端から肢の付け根および肛門(こうもん)までの部分をいう。胴は胸、腹、背の各部分を含む。胴の内部には体腔(たいこう)があり、内臓諸器官が含まれる。哺乳(ほにゅう)類では、胸には肋骨(ろっこつ)で囲まれた肺と心臓があり、腹には消化管の大部分が収まっている。脊椎動物の胴にある筋肉は筋節を形成している。爬虫(はちゅう)類以上では四肢筋が発達し、筋節は不明瞭になっている。

[高橋純夫]

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