義絶(読み)ぎぜつ

精選版 日本国語大辞典 「義絶」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐ぜつ【義絶】

〘名〙 縁を切ること。人と人との因縁義理を断つこと。
① 律で、夫婦の縁を切ること。夫または妻が尊属殴打または殺害した場合、親族兄弟を殺害した場合、夫を害せんとした場合などに離縁する。
※律(718)逸文・戸婚・義絶条「凡犯義絶者、離之。違者杖一百」
② 中世、親子の関係、またそれに準じるものの関係を絶つこと。親子の場合、子は相続権を失い、親は子の犯罪に連座することをまぬがれた。不孝(ふきょう)。勘当。
吾妻鏡‐文治二年(1186)六月一五日「義絶事。右、背父命者非子道」 〔日葡辞書(1603‐04)〕
③ 近世、親族の関係を絶つこと。久離(きゅうり)、勘当(かんどう)がともに目上の者が目下の者との関係を絶つものであったのに対して、義絶は同等の親族間において行なわれた。しかし、近世後期には、久離、勘当と混同して用いられた。
随筆戴恩記(1644頃)下「紹巴義絶の後も」
舞踏(1950)〈庄野潤三〉「夫の方は事情あって肉親と義絶の状態にある」
[語誌]中国では古く、肉親の関係は「天合」すなわち自然的な結合であり、夫婦は「義合」すなわち人為的な結合と考えられており、その「義」の結合を絶つところから「義絶」といった。①はこれを継承したもの。

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デジタル大辞泉 「義絶」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐ぜつ【義絶】

[名](スル)
親子・兄弟など、肉親との関係を絶つこと。
「(親ヤ親類ノ)みんなに―されたって構わない積りでいるんですから」〈谷崎蓼喰ふ虫

㋐律令制下で、夫婦の縁を切ること。
㋑中世で、親子の縁を切ること。不孝ふきょう勘当かんどう
㋒近世で、親族の縁を切ること。
[類語]離縁絶縁勘当離れる離反離背決別おさらば絶交断交決裂物別れ離間乖離手を切る生木を裂く仲を裂くたもとを分かつ

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改訂新版 世界大百科事典 「義絶」の意味・わかりやすい解説

義絶 (ぎぜつ)

元来は律令の法律用語で,夫妻の義を絶つこと,すなわち離縁・離婚意味した。しかし中世ではおもに父母と子の関係(縁)を断絶する法律行為を意味した。すなわち律令法の淵源である中国では,夫妻は〈人合〉,親子は〈天合〉と観念され,前者に義絶は成立しても,後者はいかようにも分断できない人間関係とみなされた。日本でも律令法の延長上にある公家法では,中国の考え方が採用されている(《法曹至要抄》)が,現実には10世紀から親子関係の断絶に義絶の語が使用されている。義絶によって子は親の家から放出され,その法律効果として親は子の罪による縁坐を免れ,子は財産相続権を喪失した。義絶には義絶状の作成・公示が要件となっていた。義絶の原因はおもに子の親に対する不孝とされたために,義絶することを〈不孝(ふきよう)する〉〈勘当(かんどう)する〉ともいった。日本中世における親権のあり方を示すとともに,日本と中国の家族関係・秩序の差異を示すものとして注意される。
勘当 →不孝
執筆者:

江戸時代には勘当・久離とともに,親族関係断絶行為をあらわす語として用いられ,とくに従兄弟間などのように同等の親族間の断絶行為を意味した。ただしそれは享和年間(1801-04)以降のことで,それ以前には勘当・久離を含めた意味で使われたこともあり,目下の親族から目上の親族への絶縁を意味した時期や,百姓町人における久離を武士の場合義絶と称した時期もあった。義絶は久離と同様,後難を避ける目的でなされたが,親族の調和を乱すものに対する親族一同からの制裁行為,ないしは親族間の不和による絶交としての性格をもつ場合もあった。後期になると,幕府はなるべく義絶を制限しようとし,とくに本家への義絶は禁止された。
執筆者:

古代~近世社会において親子・親族の関係を絶つことを目的として作られる証文。中世では子孫の教令違反は不孝といわれたので,義絶状はまた不孝状ともいわれた。義絶状には一族あるいは在地近隣の人々の証判を必要とした。また公共機関に提出される場合もあった。義絶状の初見史料は,陽明文庫所蔵《兵範記》仁安2年夏巻紙背の1164年(長寛2)6月主計允惟宗忠行義絶状である。また義絶あるいは義絶状の意味を具体的に知る史料として《今昔物語集》巻二十九,〈幼児盗瓜蒙父不孝語〉がある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「義絶」の意味・わかりやすい解説

義絶
ぎぜつ

一般には親子、縁者などとの縁を切る意味に用いられるが、法制史上その内容は異なる。上代(古代)の令(りょう)制では、夫が妻の祖父母や父母を殴打したような場合、夫婦は互いに離婚すべきものと定められており、この種の離婚を義絶とよんだ。中世には、親がその心底にかなわない子との親子関係を断絶する行為を称した。この意味では勘当(かんどう)と同義である。江戸幕府法上は、義絶は従弟(いとこ)または又徒弟との親族関係を断絶する行為を意味したが、広義には、縁者または由緒ある者との断絶の行為をも含んだ。

[石井良助]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「義絶」の解説

義絶
ぎぜつ

「ぎぜち」とも。親族関係・婚姻関係を断つことをさす法制用語。律令では配偶者の父母・祖父母を殴ったり,外祖父母・伯叔父母・兄弟姉妹を殺したり,妻が夫を殺そうとした場合などに婚姻関係を解消することをさした。中世,鎌倉幕府法では親が子に対して親子関係を断つことをさし,義絶をうけた子は相続権などの権利を失った。一般には不孝(ふきょう)ともいい,師弟間でも行われた。義絶を行うときには義絶状が作成され,親族等による承認・告知が行われることもあった。近世では武家において親族関係を断絶することをさした。久離(きゅうり)が目上の者から目下や,本家から分家に対して関係を断つことをいうのに対して,義絶は対等の親族関係においても成立した。

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普及版 字通 「義絶」の読み・字形・画数・意味

【義絶】ぎぜつ

縁切り。

字通「義」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の義絶の言及

【勘当】より

…そのことは,家族生活をめぐる諸事象については各地でそれを表現する独自の民俗語彙(ごい)があるのに対し,勘当にはそれに相当する民俗語彙がなく,全国的に法制上の用語である勘当が使用されていることで裏付けられる。【福田 アジオ】 平安時代から中世にかけて,天皇や主君の勘気をこうむること,および親が子との関係を断絶すること(この意味では不孝(ふきよう),義絶ともいう)を勘当と称した。江戸時代になると,勘当の語は主として親子関係を断絶する行為を意味したが,ほかに師匠が弟子との師弟関係を断つ場合にも用いられた。…

【久離】より

…旧離とも書き,江戸時代に伯父・兄など目上の親族から,甥・弟など目下の親族に対して申し渡す親族関係断絶行為を意味した語。ただし勘当義絶などと混同されたことも少なくない。子に対しては,出奔した子に対する場合のみを久離(武士の場合は義絶とも称する)とし,在宅の子を追い出して絶縁する場合は勘当と呼ぶことが,すでに安永(1772‐81)ころから行われていたが,やがて勘当も,追出久離と呼ばれて久離の一種として扱われるようになった。…

【不孝】より

…不孝された者は,家から追放され,嫡子に立って家を継ぐ身分も,祖父母,父母の財産の分与にあずかる資格もともに奪われ,すでに与えられた財産も取り上げられた。 なお中世法には,不孝と類似の法律行為に義絶と勘当がある。義絶は中世では不孝と同じく祖父母,父母の子孫に対する親子・祖孫関係の断絶を意味したが,不孝が純然たる同族内の行為にとどまるのに対して,義絶には,親子・祖孫関係の断絶という行為に加えて,その事実を族外世間に公示して,承認を得る手続(義絶状の作成公表)が求められた。…

※「義絶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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