細胞壁(読み)さいぼうへき

精選版 日本国語大辞典 「細胞壁」の意味・読み・例文・類語

さいぼう‐へき サイバウ‥【細胞壁】

〘名〙 植物細胞の最外層をおおう多糖質の膜。細胞を保護し、その形を保たせる役割を持つ。古くは細胞膜と呼ばれた。

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デジタル大辞泉 「細胞壁」の意味・読み・例文・類語

さいぼう‐へき〔サイバウ‐〕【細胞壁】

植物菌類細菌の細胞の最も外側の、主にセルロースペクチンからなる丈夫な膜。後形質からなり、成長する組織では長く伸びる。
[類語]細胞細胞膜細胞質原形質単細胞核酸リボ核酸デオキシリボ核酸遺伝子染色体性染色体ミトコンドリア組織胚珠胚乳胚芽

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「細胞壁」の意味・わかりやすい解説

細胞壁
さいぼうへき

生物の種類、細胞の種類を問わず、細胞はすべてその最外表面に糖が結合しており、この種の層を細胞外被とよぶ。糖は単糖、少糖の場合もあるが、多糖質となっている場合もある。とくに細菌類、粘菌類を除く大部分の菌類、藻類、および陸上植物(コケ植物シダ植物種子植物の総称)では、数種類の多糖質が形成されて、よく発達した細胞外被の層となっている。このように多糖質を主成分としてよく発達している細胞外被をとくに細胞壁とよぶ。細胞壁は、古くは細胞膜とよばれていたが、現在では、細胞外被の発達の程度にかかわらず、すべての細胞の細胞外被のすぐ内側に、厚さ10ナノメートルのごく薄い膜のあることがわかったため、これを細胞膜とよび、細胞壁とは区別するようになった。人為的に原形質分離をおこさせたり、酵素で細胞壁を溶解して取り除いたりすると、細胞壁の内側に、それとは独立に細胞膜のあることが確かめられる。

 細胞壁はいろいろの多糖質からできているが、大きく分けると、酸性の多糖質と中性の多糖質とになる。酸性多糖質は、陸上植物と緑藻植物ではペクチン(ポリガラクトウロン酸)、褐藻植物ではアルギン酸、紅藻植物ではキシランマンナンガラクタン硫酸エステルなどであり、菌類ではマンナンのリン酸エステルが知られている。細菌類ではムラミン酸が代表的な酸性多糖質である。なお、酸性多糖質は、細胞外被が細胞壁として発達していない動物細胞の細胞外被にもかならず含まれているため、一般に細胞外被の本質的な物質であるということができる。細胞壁ではこれらの酸性多糖質のほかに、セルロース、キチンのような比較的単純な組成の多糖質、一括してヘミセルロースと総称されるさまざまの六炭糖、五炭糖からなる混成多糖質、およびタンパク質が付加されている(いずれも中性多糖質)。

 多糖質はすべて枝分れの少ない鎖状の高分子であるが、細胞壁の中ではセルロース以外はすべて互いに結合しあって大型の籠(かご)状の超高分子の状態になっている。なお、タンパク質も糖タンパク質であり、これには酵素も含まれている。

 以上は一次壁の性質であるが、維管束の道管、仮道管、厚膜細胞などでは、さらにリグニンスベリン、クチンなどが沈着して二次壁となっている。これらはきわめて安定な高分子化合物である。リグニンの沈着は植物組織のいわゆる木化の原因となっている。

[佐藤七郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「細胞壁」の意味・わかりやすい解説

細胞壁 (さいぼうへき)
cell wall

植物細胞の原形質膜(細胞膜)の外側を囲む被膜で,この構造をコルク組織の中に見いだしたR.フック(1665)は,はじめて生物学的な意味で細胞cellの語を用いた。細胞壁は植物細胞および組織の形態上重要な役割を果たし,また個体の支持強度を高めている。組織を構成する場合,その構造は組織分化の初期には隣接する細胞間の中層とセルロースを主成分とする一次細胞壁からなるが,成熟するにしたがって,その内側に他の成分が加わった二次細胞壁,さらに,ある組織ではセルロースよりもキシラン(キシロースを主体とする多糖の総称)が多い三次細胞壁が形成される。これら細胞壁の構造は,その化学組成や染色反応の違いとともに植物の系統分類の基準にもなっている。高等植物にみられる一次細胞壁の構成成分はセルロース(25~60%),ヘミセルロース(30~70%),ペクチン(5~25%)と少量のグリコペプチドである。セルロース細繊維(直径約25nm)の配列様式は細胞の種類や成熟段階によってさまざまで,細繊維構造の間を埋める他の成分を含む親水性ゲルとともに,細胞壁の力学的性質を決めている。また,セルロース細繊維構造の配列様式によって組織の生長のしかたが決まってくる。

 細胞分裂に際して,娘細胞間を仕切る新しい細胞壁は,ゴルジ装置によってつくられ,分離してくるゴルジ小胞が,細胞を仕切る線上に配列し,融合してゴルジ小胞の内容(セルロースその他成分)を細胞間の隔壁とする新しい細胞壁を形成する。
細胞
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百科事典マイペディア 「細胞壁」の意味・わかりやすい解説

細胞壁【さいぼうへき】

植物,菌類,細菌細胞の外側をとりまく被膜。動物にはない。主成分は高等植物の場合,セルロース,ヘミセルロース,ペクチンなど。老化するとリグニンも含む。菌類ではキチン質が主。細菌ではペプチドグリカン,リポ多糖を主成分とするが,グラム陽性菌と陰性菌とで構造が異なる。→細胞膜
→関連項目ファイトプラズマ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「細胞壁」の意味・わかりやすい解説

細胞壁
さいぼうへき
cell wall

植物細胞の最外側に生じた壁。炭水化物を主成分とする後形質である。植物細胞の形を決定し,骨格的な役割をもつ。植物細胞でも変形菌類の変形体,鞭毛藻植物のあるもの,および運動性の生殖細胞には,これを欠く。また動物細胞には一般に存在しない。細菌は細胞壁をもつが,独自のアミノ糖化合物であるムレインにより強固になっている。植物細胞の細胞壁は,普通ごく薄い中葉 (隣接する細胞間を接着する部で,細胞の最外部) と一次膜 (内方部) との2層からできている。前者は細胞分裂の際生じる細胞板に由来し,おもにペクチン質より成り,後者は付加されたもので,おもにセルロースからできている。道管,仮道管,繊維,石細胞などでは,さらに内側に厚い二次膜が添加され,セルロースのほかにリグニンなどの物質を含む。細胞壁にはところどころ膜孔があり,そこが原形質連絡路になっている。

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栄養・生化学辞典 「細胞壁」の解説

細胞壁

 植物細胞にみられる原形質膜の外側の構造で,セルロース,ヘミセルロースなどが主成分.細菌にもあり,ペプチドグリカンが主成分.また真菌の細胞壁の主成分はキチン.

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世界大百科事典(旧版)内の細胞壁の言及

【形態形成】より


[動物における形態形成]
 動物の形態形成は植物のそれと基本的に異なるといってよい。植物細胞のようなじょうぶで厚い細胞壁cell wallのない動物細胞は,容易に形を変えたり運動して位置を変えたりすることができるからである。胚葉形成は動物個体の発生過程で最初におとずれる動的変化である。…

【形態形成】より


[動物における形態形成]
 動物の形態形成は植物のそれと基本的に異なるといってよい。植物細胞のようなじょうぶで厚い細胞壁cell wallのない動物細胞は,容易に形を変えたり運動して位置を変えたりすることができるからである。胚葉形成は動物個体の発生過程で最初におとずれる動的変化である。…

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