糸巻(読み)いとまき

精選版 日本国語大辞典 「糸巻」の意味・読み・例文・類語

いと‐まき【糸巻】

〘名〙
① 糸を巻き納めること。また、そのための小さな薄板や、厚紙の小片。糸がはずれないように四隅に角(つの)のあるものが多い。カタン糸などを巻く木製の円筒形のものもある。
※仮名草子・犬枕(1606頃)「ぬめる物 鰻(うなぎ)糸巻、蛞蝓(なめくじり)
※北野社家日記‐明応二年(1493)正月二〇日「於広庭之。糸巻一振遣之」
⑤ 釣り糸を巻き収める具。
※銀の匙(1913‐15)〈中勘助〉後「円形の泛子、糸巻、釣竿など」
茶道の蓋置(ふたおき)の一つ。糸枠(いとわく)から考案された。
琵琶三味線バイオリン等の弦楽器の棹(さお)上部にあって、弦を巻いて弦の張り、すなわち音の高さを調節するネジ。古くは、転軫(てんじん)、転手(てんじゅ)といった。
※洒落本・通言総籬(1787)序「京伝を愛(あいす)の一曲(ふし)を唱て、糸巻をちとひねること爾(しかり)
⑧ 江戸末期の女の髪の結い方の一つ。丈長紙や縮緬を幅五分くらいにたたんで背の方から中差の両端をくぐって前で結ぶ形が①に似ているのでいう。舞子遊芸師匠などの間で流行した。
随筆・嬉遊笑覧(1830)一下「糸巻〈是も形によりての名なり〉」
紋所の名。①にかたどったもの。いとまき、ちがいわくいとまき、かげのいとまき、かさねいとまき、など種々ある。

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デジタル大辞泉 「糸巻」の意味・読み・例文・類語

いと‐まき【糸巻(き)】

糸を巻いておくこと。また、そのための道具。
釣り糸を巻き収める道具。
三味線などの弦楽器のさおの上部にある、糸を巻きつけるねじ転手てんじゅ
江戸時代、女性の髪の結い方の一。髪をくしなどに巻いてとめる。多く舞子・遊芸の師匠などが結った。
紋所の名。1をかたどったもの。
糸巻の太刀」の略。
糸枠いとわくの形をとった茶道具総称。糸巻き棚・糸巻き煙草盆・糸巻きふた置きなど。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「糸巻」の意味・わかりやすい解説

糸巻
いとまき

裁縫用具の一つで、縫い糸を巻いておくもの。かつては、和裁用の縫い糸は綛(かせ)巻きしたものを購入し、各家庭で糸巻に巻き取って使用した。しかし今日では、木綿縫い糸としつけ糸の一部を除いたもの、絹糸、合繊縫い糸などは、糸巻に巻いて市販されている。糸巻は幅5センチメートル、長さ7センチメートル、厚さ0.2センチメートルぐらいのボール紙(カード)を分銅(ふんどう)形に、左右をくびれた形に切ったもので、糸端を引っかけて始末できるように、端に切り目がついている。大正時代ごろまでは木製が使われたが、昭和になってセルロイド製も多くつくられた。ミシン糸は木製またはプラスチック製の管巻(くだまき)に巻かれていて、中央にあいた穴をミシンにさして用いる。外国でも裁縫用の糸巻は古くから用いられており、中国漢代の金属性の針筒兼用のもの、朝鮮高麗(こうらい)の彫金製のもの、李(り)朝の木彫製、牛角製のものなど装飾的なものがある。

[岡野和子]

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