石塚龍麿(読み)いしづかたつまろ

精選版 日本国語大辞典 「石塚龍麿」の意味・読み・例文・類語

いしづか‐たつまろ【石塚龍麿】

江戸後期の国学者、国語学者。遠江静岡県)の人。本居宣長に学び、特に万葉仮名遣いを研究。著に「仮名遣奥山路」「古言清濁考」など。明和元~文政六年(一七六四‐一八二三

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「石塚龍麿」の意味・わかりやすい解説

石塚龍麿
いしづかたつまろ
(1764―1823)

江戸後期の国学者。本名は矩慶(のりよし)、通称は安右衛門。歌合(うたあわせ)では於富耶麻登(おおやまと)、大倭(おおやまと)を名のり、家号は槇屋(まきのや)。遠江(とおとうみ)国(静岡県)の生まれ。23歳で内山真龍(うちやままたつ)(1740―1821)の門に入り、26歳で本居宣長(もとおりのりなが)の門に入る。龍麿の名号は最初の師内山真龍の前名を受けたもの。とくに国語学に秀で、宣長に篤学者として早くから認められ、『古言清濁考(こげんせいだくこう)』(1795完稿、1801刊)は宣長の推賞を受けた。本書上代文献万葉仮名について調査し、後世と異なるものがあることを明らかにしたものである。続く『仮字用格奥能山路(かなづかいおくのやまじ)』(1796年ころ成稿。『仮名遣奥山路(かなづかいおくのやまみち)』とも表記される)は、広く上代文献を精査して、エ、キ、ケ、コ、ソ、ト、ヌ、ヒ、ヘ、ミ、メ、ヨ、ロの13の万葉仮名が2群に分かれて通用していて、両者の間では混用されないことをみいだしたものである。後年、本書は橋本進吉によってその真価が紹介され、いわゆる上代特殊仮名遣い研究の先駆として古代国語の研究に大きく寄与している。

[石塚晴通 2018年10月19日]

『橋本進吉著『古代国語の音韻に就いて』(1942・明世堂)』『小山正著『石塚龍麿の研究』(1956・小山正後援会)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「石塚龍麿」の意味・わかりやすい解説

石塚龍麿
いしづかたつまろ

[生]明和1(1764).遠江
[没]文政6(1823).6.13.
国学者。本居宣長の門下生。宣長の『古事記伝』巻一のかなづかいの説に基づき,『古事記』のみならず,『日本書紀』『万葉集』など広く奈良朝の文献を精査し,上代の万葉がなには,のちのイロハのかなのエ,キ,ケ,コ,ソ,ト,ヌ,ヒ,ヘ,ミ,メ,ヨ,ロにあたる 13のかな (『古事記』ではさらにチ,モが加わる) が各2類に分れ,単語によってそのどちらかに定まっていて混用されることがないという事実を発見し発表した。それが『仮名遣奥山路』 (3巻) である。宣長は特定の単語のかなの決りに注目していただけであったのに対し,龍麿は網羅的に調べ,かなづかい全体の決りを見つけた点,画期的なものであった。しかしこの本の価値は長らく認められず,橋本進吉上代特殊仮名遣の発見によって再評価されるようになった。ただし,龍麿は『万葉集』巻十四「東歌 (あずまうた) 」,巻二十「防人歌 (さきもりのうた) 」の東国方言 (あずま言葉 ) も同一のレベルで分析していること,それに文献批判の不備から出てくる例外も,これを網羅的に追究することなくそのまま放置していたことなどの欠点を有し,そのかなづかいが当時の発音の区別に基づくものであることを十分に把握していたかどうか疑わしい点がある。これらの点の解明,修正は橋本によって初めてなされた。チとヌについてものちに修正された。その他『古言清濁考 (こげんせいだくこう) 』 (3巻,1801) などの著がある。

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