精選版 日本国語大辞典 「矛盾」の意味・読み・例文・類語
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中国のつぎの故事に由来する語。〈楚の国に矛(ほこ)と盾(たて)を売る商人がいて,“この矛はどんな盾をも貫き,この盾はどんな矛も通さない”といったが,“では,その矛でその盾を突いたならば,どうなるか”と問われて返答に窮した〉(《韓非子》)。それゆえ,元来,つじつまのあわぬこと,筋の通らぬこと,あるいは物事が齟齬(そご)・対立することの意味に用いられてきたが,多くは論理的な意味で,あることを同時に肯定し,かつ否定することとして用いられる。一般に,命題pに対して〈pかつpでない〉という形で表現されるが,これは明らかに論理的に不可能であり,端的に不合理を表現しているといえる。したがって,矛盾を生ずるとは,論理的にあってはならぬことであり,矛盾のおこりえぬこと,すなわち〈pかつpでないということはない〉を無矛盾律または矛盾律law of contradictionと呼び,論理的原理の一つとみなされている。話を論理的に展開するとき,矛盾をきたさないようにすることは基本的な条件なのである。
執筆者:大出 晁
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矛盾ということばは、いかなる盾(たて)をも突き通す矛(ほこ)と、いかなる矛をも防ぐことができる盾が同時に存在することはありえない、という中国の故事から発している。このように、同時に成り立つことができない二つの命題は互いに矛盾しているといわれる。また、命題「A」と命題「Aでない」が同時に導かれる場合に、矛盾がおきたということもある。
矛盾は二律背反という形で古代から知られていた論理学上の現象であったが、19世紀末以来発展してきた近代論理学と、それに基づく数学基礎論の出現によって、矛盾という問題は重大化してきた。すなわち、「それ自身をメンバーとして含まない集合の集合」はそれ自身に含まれると同時に含まれない、というラッセルの二律背反の発見によって、数学とくに集合論が本当に矛盾するかどうか、矛盾するとするならば、いかにそれを回避できるかということが、数学基礎論の直面する基本的問題として提起されるに至った。そして、算術、集合論といった公理系が矛盾しない、つまりその無矛盾性の証明が企てられるようになった。
しかしながら、矛盾は数学その他の証明において絶えず用いられていることを忘れてはならない。たとえば、ある命題から矛盾が導かれるならば、その命題は否定されるという背理法がその例である。
[石本 新]
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