潤滑油(読み)じゅんかつゆ(英語表記)lubricating oil

精選版 日本国語大辞典 「潤滑油」の意味・読み・例文・類語

じゅんかつ‐ゆ ジュンクヮツ‥【潤滑油】

〘名〙
① 機械の接触部に生じる摩擦力摩擦熱を減らし、摩耗を防ぐために用いる油。主として石油系鉱物油が使われる。液体または半固体で、用途によってスピンドル油マシン油モービル油などに分かれる。
② (比喩的に) 物事が円滑に運ばれる仲立ちとなる事柄
※鉛筆ぐらし(1951)〈扇谷正造〉ギャグ・メーカー告知板「編集局における彼等は、いわば、潤滑油みたいなものである」

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デジタル大辞泉 「潤滑油」の意味・読み・例文・類語

じゅんかつ‐ゆ〔ジユンクワツ‐〕【潤滑油】

機械の接触部の摩擦を少なくするために用いる油。
物事が円滑に運ばれる仲立ちとなるもののたとえ。「労使間の潤滑油となる」
[類語]潤滑剤減摩剤

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「潤滑油」の意味・わかりやすい解説

潤滑油
じゅんかつゆ
lubricating oil

潤滑剤のなかで液状のものをいう。二つの物体が互いに接触して運動するとき、その運動を妨げようとする抵抗が摩擦である。この摩擦の力を減少させ、摩擦により発生する熱を除去する目的で用いるのが潤滑油で、単にオイルとよばれることもある。潤滑油は減摩、冷却の作用以外に、応力の分散、密封、防食、防塵(ぼうじん)の作用がある。

[難波征太郎]

種類

石油系鉱油を基油とする場合がもっとも多いが、合成油、動植物油、さらにこれらと鉱油との配合油を基油とすることもある。潤滑油の種類は非常に多く、それぞれについてJIS(ジス)(日本工業規格)で規格が定められているが、多くは潤滑油製造業者が独自の商品名をつけて市販している。潤滑油を必要とする機械類は多岐にわたるうえ、機械類の作動条件も千差万別であることから種類が多くなっている。基本的に必要な性質は、(1)使用温度において適当な粘度を有する、(2)粘度指数が大きい(温度による粘度変化が小さい)、(3)境界潤滑の状態でも油膜が安定している、(4)熱や酸化に対して安定なこと、などである。1990年代以降は、より高性能の潤滑油の要求に対応して多くのオイルメーカーから合成潤滑油が販売されるようになった。航空ジェットエンジン用の二塩基酸ジエステルは代表的な例である。

[難波征太郎]

製造法

石油系潤滑油の主原料は、原油の常圧蒸留の残油である。多くの潤滑油はこの残油を減圧蒸留して得られる沸点300℃以上の油を精製して基油としている。ナフテン基原油が出発原料であるときの精製は、一般に硫酸洗浄、白土処理(あるいは水素化処理)である。この操作により、硫黄(いおう)、窒素、酸素化合物、多環芳香族、樹脂分、アスファルト質(これらの物質は熱安定性、酸化安定性を低下させる)が除去される。パラフィン基原油が出発原料であるときは、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化処理(または白土処理)による精製を行い、前述の熱安定性、酸化安定性を低下させる物質およびろう分(流動点を高く、粘度指数を小さくさせる)を除去する。パラフィン基原油から製造される潤滑油は高粘度指数の基油であり、これから高級潤滑油(エンジン油、タービン油などが代表的なものである。これに対し、マシン油は並級潤滑油に分けられる)が製造される。高粘度(水飴(みずあめ)より粘稠(ねんちゅう))潤滑油は減圧蒸留残油を精製(溶剤抽出によりアスファルト分、重金属化合物を除去)したものが基油となる。

[難波征太郎]

添加剤

通常、潤滑油は、前述の基油(多くの場合は粘度の異なる基油を配合して粘度を調節している)そのもの、または必要に応じて基油に添加剤を加えたものである。添加剤としては酸化防止剤、腐食防止剤、清浄分散剤、極圧剤(高温での焼付き、摩耗を防止する)、さび止め剤、粘度指数向上剤流動点降下剤消泡剤などがある。

[難波征太郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「潤滑油」の意味・わかりやすい解説

潤滑油 (じゅんかつゆ)
lubricating oil

機械の互いにすべり合う部分の抵抗を少なくする目的で用いられる液状の潤滑剤をいう。おもに石油系の鉱油を原料としてつくられるが,ほかに動植物油系の製品や合成化学的製品もある。

潤滑油に要求される機能は,次のとおりである。(1)減摩作用 摩擦力および摩耗を少なくする。(2)冷却作用 摩擦によって生ずる熱を除去し,摩擦面の温度を下げて焼付きを防ぐ。(3)応力分散効果 局部に集中しやすい荷重をくまなく周辺に分散する。(4)さび止め作用 互いにすべり合う面を油膜でおおうことにより,水や腐食性のガスの侵入を防ぐ。(5)密封作用 たとえばエンジンのピストンシリンダーの間を密封し,ガスの吹抜けを防ぐ。これらの潤滑油の作用によって機械の円滑な運転が確保され,また動力の浪費を防ぎ,機械の効率が向上する。JISでは,潤滑油は対象とする機械および環境条件により表のように分類されている。これらの潤滑油がその用途に応じ,期待される諸機能を発揮するためには,適正な粘度をもち,温度による粘度の変化が少なく,高荷重に耐え油膜切れが生ずることがなく,酸化的雰囲気や高温条件のもとでも安定性がよく,長時間にわたって使用できること,などが大切である。

石油系の潤滑油の製造工程の概要は図に示すとおりである。原油を常圧蒸留して得られる残油を減圧蒸留して潤滑油原料を得る。減圧蒸留の残油は溶剤を用いてアスファルト分を除き,潤滑油原料とする。これらの潤滑油原料は,必要に応じて,溶剤精製法によって芳香族分を除き,水素化精製法によって硫黄分その他の不純物を除去し,また溶剤脱蠟法によって高分子量のパラフィンワックスを分離したのち,粘度を調整し,各種の添加剤を加えて最終製品とする。すなわち石油系の基油(ベース・オイル)は適切な粘度(分子量)をもつパラフィン系炭化水素またはナフテン(シクロパラフィン系炭化水素)を主成分とするが,その性能の向上をはかるために清浄分散剤,粘度指数向上剤,酸化防止剤,流動点降下剤,さび止め剤,消泡剤,極圧添加剤などを配合する。清浄分散剤は,潤滑油の酸化生成物やエンジン燃料の不完全燃焼物の固型化,凝集を防ぎ,エンジン内を清浄に保つ目的で添加される。粘度指数向上剤は,潤滑油の粘度が高温条件下で大きく低下することを防ぐ役目をする。酸化防止剤は,潤滑油が使用条件下でしだいに酸化され,スラッジ,ワニス,腐食性物質(有機酸)などを生じ,また粘度が高くなるなどの劣化速度をおくらせるために加える。極圧添加剤は,摩擦条件がきびしい高荷重のかかる歯車,軸受,研削加工などにおいて,油膜の切断による焼付き現象を予防する目的で加えられる。
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百科事典マイペディア 「潤滑油」の意味・わかりやすい解説

潤滑油【じゅんかつゆ】

液体の潤滑剤。特殊な用途にはシリコーン油などの合成潤滑油や脂肪油なども使われるが,大部分は石油系鉱物油が用いられる。石油を常圧蒸留,真空蒸留,脱アスファルト,脱蝋,溶剤精製などの手段により処理し,流動点降下剤,粘度指数向上剤,極圧添加剤,酸化防止剤,防錆(ぼうせい)剤などの各種添加剤を加えて適切な性能をもたせる。用途によりスピンドル油,マシン油(機械油),ギヤオイル,エンジンオイルタービン油などの名称があり,他に潤滑作用はしないが切削油絶縁油さび止め油なども含まれる。→潤滑
→関連項目グリースすべり軸受石油

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化学辞典 第2版 「潤滑油」の解説

潤滑油
ジュンカツユ
lubricating oil

液体状の潤滑剤のうち,化学製品として市販されているものの総称.通常は石油留分を基油としたものと,合成された有機化合物を基油としたものとに大別される.石油系潤滑油はもっとも広く用いられており,一般には粘度による分類によって区別される.合成油を基油とした合成潤滑油は,炭化水素系,エステル系,ポリグリコール系,ポリフェニルエーテル系,シリコーン系,ハロカーボン系などに大別される.高温安定性,難燃性,低温流動性など,それぞれの化合物の性質の特徴を生かした用途に用いる.最近では自動車エンジン油や冷凍機油のように,品質・性能のレベルに応じて同種の潤滑油でも基油が石油系,合成油系またはその混合物にまたがって選択されるようになった.潤滑油は,一般に基油のなかに数種類の添加剤が加えられ,用途に応じた性能が付与されている.潤滑油添加剤のなかには,酸化防止剤,清浄剤,粘度指数向上剤,流動点降下剤,油性向上剤極圧添加剤泡消し剤さび止め剤などがある.油圧作動油や切削油のように,難燃性または冷却性を付与するために,エマルション(乳濁液)として用いる潤滑油もある.また,絶縁油やさび止め油のように,とくに潤滑性能をもたないが,実際には潤滑のために用いられるものも潤滑油のなかに含められている.

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