精選版 日本国語大辞典 「泉」の意味・読み・例文・類語
いず‐み いづ‥【泉】
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翻訳|spring
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地下水が自然に地表へ湧出したもので,湧泉ともいう。湧出形態によって次の三つに分類できる。(1)逬出(へいしゆつ)泉 岩の裂け目や崖からほとばしり出るもので,日本ではこれを走井(はしりい)と称した。山岳地帯に多く,場所によっては瀑布を懸ける。富士山麓白糸の滝が代表。(2)池状泉 釜,壺,湧壺とも称した。盆状のくぼんだ底から湧出し,水をたたえるもので,富士山麓の山中湖北西にある忍野八海(おしのはつかい)が有名。(3)湿地泉 どことなく水がしみ出し湿地状をなすもので,扇状地などの長い斜面の基底部で地下水面が地表に達したところにみられる。
泉の湧出量は地下水が涵養される地域の大きさ,雨量,帯水層の透水性などに関係する。湧出量の大きな泉はカルスト地域の溶食洞,火山山麓,溶岩台地の末端部やその中へ刻まれた谷中にみられる。南フランスのボークルーズ泉はカルスト泉karst springで,湧出量は豪雨後には120m3/sに達するが,乾期には6m3/sになり,平均は18m3/sであるという。火山地帯の大湧泉は透水性の火山角レキ岩や溶岩に覆われた砂れき層から湧出するものが多く,アメリカ合衆国アイダホ州のスネーク川に沿う75km区間の総湧出量は142m3/sに達する。東洋一と称せられる静岡県田方郡の柿田川湧水は15m3/sである。日本では湧水を利用したマス類やアユ類の大規模養殖が,岩手山麓,那須山系,アルプス山系,富士山麓,伊吹山麓,阿蘇山麓,霧島山系などで行われている。間欠的に湧出する間欠泉は,広島県帝釈峡の一杯水のようなサイフォン型と,洞穴からあふれ出すオーバーフロー型の2種がある。間欠沸騰泉は沸騰温度の熱水と水蒸気の混合物を周期的に噴出し,アイスランド,アメリカ合衆国のイェローストーン国立公園,ニュージーランド北島のものが有名である。日本にもかつて宮城県の鬼首(おにこうべ)に吹上間欠泉が存在した。砂漠地帯の泉はオアシスと呼ばれ,深井戸が掘られるまでは唯一の生活空間であった。ユーゴスラビアのカルスト地域には連続した河川系がなく,泉が唯一の水源になっている。なお,泉水の化学成分は通過地中の状態で変化し,溶解成分が1g/l以上の場合に鉱泉,水温が25℃以上の場合に温泉と呼んでいる。
執筆者:榧根 勇
《播磨国風土記》の,国占めの標示のために杖を立てたところ泉が湧き出たという記事が語り示すように,集落や田畑を作るうえで,泉をはじめ井戸,川,池などの給水源の確保は不可欠な要件であった。集落の草分けの家の立地をみると,水量の多い泉や川,池,井戸が近くに控えていることが多く,他の家々はその水を分けてもらうために従属的立場におかれるということさえもしばしばみられた。奄美地方では,集落から遠く離れた暗河(くらごう)と呼ぶ鍾乳洞内の地下水を,厳しい規則を設けて利用した。水場は神の支配地であり,水神や井の神などと呼んでこれを祭り,新年の若水も古くからの水場から迎えるところが多い。各地に伝わる,弘法大師などの宗教者が水が不足する土地の者のためにその杖を地に突き刺して水を出してやったといういわゆる弘法清水伝説も,いかに人びとが水に苦しんでいたかを語っている。水場はまた,人びとの日常的交流の場でもあり,とくに温泉は古代から宴の場として利用されてきた。
執筆者:小松 和彦
《礼記(らいき)》月令篇には,泉が活動を開始する仲冬,すなわち冬11月,天子は百官に命じて井泉を祭らせるとある。また唐叔虞(とうしゆくぐ)を祭る太原の晋祠など,泉のそばに神祠の設けられることが多く,《太平経》は後漢の于吉が泉のほとりで授かったという神書に由来する。このように中国人はこんこんと湧き出る泉に不思議な生命力をみとめ,神秘視した。大宛を攻めた李広利が佩刀(はいとう)で山をつき,疎勒(そろく)を攻めた耿恭(こうきよう)が涸(か)れ井戸にむかって祈り,仏図澄(ぶつとちよう)が呪文をとなえ,慧遠(えおん)が杖で土を掘ったところ,いずれも泉が湧き出したと伝えられる。あるいはまた孔子が断じて飲もうとはしなかったという〈盗泉〉,廉潔の士をも貪欲ならしめるという広州石門の〈貪泉〉などは,人間と感応し,人間の性格を変える力があると信ぜられたのである。飲茶の風習がおこると,各地に名泉がもとめられ,たとえば陸羽の《茶経》には廬山の〈水簾飛泉〉が天下第一と称せられている。
執筆者:吉川 忠夫
自然に水が湧き出る泉は,井戸を掘る技術が未発達であった時代には特に神聖視された。水が清め,病を治すという考えは古代インドのベーダをはじめ各所に見られる。フランスのグリジーやサン・ソブール,イタリアのフォルリ等の泉は新石器時代・青銅器時代から治療に使われた跡があるとされる。1858年聖母マリアが顕れたとされる南フランスのルルドの泉も,特に8月15日聖母の被昇天祭には病気の平癒を願う巡礼者でにぎわう。ギリシア・ローマ神話では自然の力を表す樹木,川,泉は,ゼウスまたはオケアノスを父とし,母なる大地から生まれたニンフたちが守るとされた。ローマでは,フォルムの端でウェスタ神殿に近い泉を女神ユトゥルナの住家として敬い,1月11日には泉を仕事のうえで使う職種の人々を中心に,ユトゥルナリア祭が祝われた。ユトゥルナはニンフの一人として鍛冶の神ウルカヌスを祝う8月23日のウルカナリア祭にも,穀物を火事から守るように祈願された。古典詩ではユピテルの愛人となって泉の支配権を得たとも,ヤヌスと結ばれてローマの泉の神たるフォンス,またはフォントゥスを生んだともされる。ユトゥルナはまた,女性の安産の神でもあり,雨乞いの際にも祈られた。J.G.フレーザーもネミ女神の聖森に湧くエゲリアの泉が病を治し安産を得させる水の精であったことを挙げている。ケルトの信仰にも泉の崇拝があったことはシャルトル等古く建てられたキリスト教会が泉の跡であったことからも推定される。沐浴による〈みそぎ〉を重視するイスラムでは,モスクは多く泉の上に建てられる。都市や庭園に泉を配する伝統はカルデアにまでさかのぼるが,パウサニアスは前2世紀のコリントスの泉水を描いている。大プリニウスは,アグリッパ帝がローマに700の泉と105の噴水を作らせたと述べている。人工のこうした泉はヨーロッパでは多くの場合区別し,例えば英語ではスプリングに対して,ファウンテンfountainといい分ける。
→井戸 →水
執筆者:松原 秀一
宮城県中部,仙台市の北西部に位置する旧市。1955年七北田(ななきた)村と根白石(ねのしろいし)村が合体して泉村となり,57年町制,71年市制。88年に仙台市に編入され,89年には泉区となった。西部の泉ヶ岳(1175m)より発する七北田川流域を占める。中・上流域は農山村で,中流以下は水田地帯となり,自然堤防上では市街向けの野菜栽培も盛んである。中心集落の七北田は陸羽街道沿いの旧宿場で街村として発達し,現在でも商店が最も密集している。旧泉市が大きな変貌をみせ始めたのは,仙台・泉両市にまたがる丘陵地に大規模住宅団地が造成された1960年代からで,以後も100ha以上の団地が次々と造成された。泉ヶ岳は仙台市民のハイキングコースとして親しまれている。
執筆者:長谷川 典夫
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…スプリング,発条ともいう。ばねは〈跳ね〉に由来。力を加えると弾性変形することによってエネルギーを吸収・蓄積し,力を解放すると吸収したエネルギーを放出して元の形に復元する性質をもつものの総称。狭義には上の性質を利用した機械要素をいう。 獲物を捕らえるために若木の幹を使って作ったわなや弓は,人類の最初のばねの利用の一つと考えられている。中世になると,織機,ろくろ,粉ひき機などには,ばねの復元力を利用して戻りの動きを得ようとするくふうが見られ,この場合も木の棒のばね力を利用していた。…
…冬から夏への漸移期にあたる季節をいう。春の時期は時代や国または地域により異なる。古代中国では立春(太陽の黄経が315゜になる日)から立夏(同45゜)の前日までを春と呼んだ。現在の分け方は西欧流のもので,北半球では春分(同0゜)から夏至(同90゜)の前日までである。慣習上は,北半球では3,4,5月,南半球では9,10,11月が春である。春の気候的特徴は,季節の進行にともなう気温の急上昇である。実際の天候推移に基づいて区分した自然季節の春の期間は地域によりまちまちである。…
…平安時代には作庭技術を記した《作庭記》が,寝殿の前に築く池の位置,規模,築造法などを詳しく述べている。《紫式部日記絵巻》《年中行事絵巻》などによって平安時代寝殿造の大池泉がうかがわれ,そこには多く船遊奏楽が描かれている。鎌倉・室町時代になると,前代に比して池はやや小規模となり,また禅宗寺院の方丈庭には中国宋・元の山水画からの影響もあって,巧緻な枯山水風の池が現れた。…
…中央アジア,西アジア,北アフリカに多く,アラビア語ではワーハwāḥa。最も典型的な例が,地下水の湧出している泉の形態であるため,日本では泉地という訳語がよく用いられるが,しかしその形態は泉とは限らず多様であり,むしろ沃地(肥沃な土地の意)の訳語のほうが適切である。
[地理的概観]
淡水の存在形態に応じて,オアシスには次のような種類がある。…
※「泉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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