江談抄(読み)ごうだんしょう

精選版 日本国語大辞典 「江談抄」の意味・読み・例文・類語

ごうだんしょう ガウダンセウ【江談抄】

平安後期の説話文学。六巻。大江匡房(おおえのまさふさ)談話藤原実兼などが筆録したもの。書名は江家の言談の抄出の意。天永二年(一一一一)ごろの成立。公事、摂関事、仏神事、雑事漢詩文関係の故事や文学論、説話などを分類してのせる。漢詩文や漢学関係の記事が多い。「古事談」などの後続の貴族説話集に影響を与えた。水言抄。

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デジタル大辞泉 「江談抄」の意味・読み・例文・類語

ごうだんしょう〔ガウダンセウ〕【江談抄】

平安後期の説話集。6巻。大江匡房おおえのまさふさの談話を藤原実兼ふじわらのさねかねが筆録したと伝えられる。長治・嘉承年間(1104~1108)ごろの成立か。公事・摂関家事などの有職故実・故事・説話などを収める。水言抄。江談。

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改訂新版 世界大百科事典 「江談抄」の意味・わかりやすい解説

江談抄 (ごうだんしょう)

平安末期の説話集。大江匡房(まさふさ)の談話を藤原実兼(さねかね)が筆録したもの。ただし間接的な聞書,また実兼以外の人物による筆録をも含んでいる。匡房の晩年における談話が中心になっているが,かなり早い時期の言談,あるいは匡房の没後のまた聞きの筆録も加わっており,12世紀の初頭,匡房の没後あまりへだたらないころの成立と考えられる。《江談》《水言鈔(すいげんしよう)》ともいわれ,おもに漢文で記されている。古本系と類聚本系の2系統があり,古本系は雑纂形態で,談話体,問答体の形をもち,言談の筆録という本来の姿をよく残している。類聚本はこれを分類,配列し直したもので,巻一に公事・摂関家事・仏神事,巻二・巻三に雑事(公卿の逸話,楽器をめぐる話柄など),巻四に漢詩に関する逸事,巻五に詩事,巻六に長句事(詩序・願文等に関する逸話)を収める。公事・雑事と詩事・長句事との二つに大別されるが,前者については有職故実書《江家次第(ごうけしだい)》との関連が考えられる。この書の編纂を通してたくわえられた豊富な故事についての知識が基盤をなしていよう。また詩文にまつわる話柄については,その大きな原拠一つとして《和漢朗詠集》の詩句に加えられた匡房の注,いわゆる〈朗詠江注〉がある。このように,全体を通して匡房の学問が間接的あるいは直接的な形で大きくかかわっているが,それが多岐にわたり雑多に示されているところに本書の特徴があり,統一ある世界を成す説話集とは異なる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「江談抄」の意味・わかりやすい解説

江談抄
ごうだんしょう

平安時代後期の故実書,説話集。大江匡房 (まさふさ) の談話を蔵人藤原実兼らが筆録したもの。6巻。匡房の死 (1111) の前後の成立か。流布本は公事,摂関家事,仏神事,雑事,詩事,長句事などに分類されているが,平安時代の古写本は雑纂。院政の初期,政治の中枢に参画し,漢文学,有職故実などに関する多くの著述を残した当代の大学者匡房の姿をうかがうに足る資料。藤原忠実の談話筆記『中外抄』『富家 (ふけ) 語』はこれに続くものであるが,さらに鎌倉時代の『古事談』『古今著聞集』などの貴族説話集の系譜の先駆をなす作品として重要で,『今昔物語集』などへの影響も見逃せない。しかし古くは故実書あるいは漢文学書として扱われ,口頭で伝えられた説話の直接の筆録という観点から,史料として重視されるにいたったのは,比較的最近のことである。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「江談抄」の意味・わかりやすい解説

江談抄
ごうだんしょう

平安後期の説話集。大江匡房(おおえのまさふさ)(1041―1111)晩年の談話を、藤原実兼(さねかね)(1085―1112)が筆録したもの。一部に実兼以外の筆録も混じっている。匡房の談話は、有職故実(ゆうそくこじつ)、漢詩文、楽器などに関する知識、廷臣・詩人たちの逸話など多岐にわたる。教授された知識の忘備を目的としているため、表現は簡略でしばしば不完全であり、体系をもたない。しかし、正統な学問や歴史の外縁にある秘事異伝をも積極的に取り上げており、院政期知識人の関心の向け方や、説話が口語りされる実態をうかがうことができる。平安・鎌倉時代の古写本は、問答の体をとどめて原本の姿を伝えるが、一部分しか伝存していない。『群書類従』所収本は記事を部類改編したもの。

[森 正人]

『江談抄研究会編『古本系江談抄注解』(1978・武蔵野書院)』

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百科事典マイペディア 「江談抄」の意味・わかりやすい解説

江談抄【ごうだんしょう】

《水言抄》とも。大江匡房(まさふさ)の談話を筆記した書。6巻。12世紀初頭の成立。公事(くじ)・摂関家・神仏や世間の雑事,および漢詩について記しており,公事等については匡房の有職故実書《江家次第》との関連が注目される。説話文学に影響を与えている。
→関連項目言談古今著聞集百鬼夜行

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旺文社日本史事典 三訂版 「江談抄」の解説

江談抄
ごうだんしょう

平安末期の説話集
1106〜08年ころ成立。6巻。大江匡房 (まさふさ) の談話を藤原実兼 (さねかね) (通憲 (みちのり) の父)が筆記したもので,説話文学の先駆をなす。公事 (くじ) ・雑事・詩事などに分かれ,記録体の漢文にところどころ仮名をまじえている。平安中期の重要史料の一つ。

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世界大百科事典(旧版)内の江談抄の言及

【大江匡房】より

…神儒仏道にひろく通じ,諸道兼学の啓蒙的百科全書家ともいえよう。わが国の神仙と目される37人の伝を記した《本朝神仙伝》,慶滋保胤(よししげのやすたね)の《日本往生極楽記》のあとを継ぎ,寛和以後の往生人42人の伝を録した《続本朝往生伝》は唱導文学のうえで,また彼の言談を蔵人藤原実兼が筆録したものといわれる《江談(ごうだん)》(《江談抄》)は説話文学のうえで,彼の制作した願文115編を撰録した《江都督納言願文(ごうととくどうげんがんもん)集》とともに院政期文学史の流れの中で注目すべき遺産である。そのほか彼の作品は《朝野群載》《本朝続文粋》などに,自照的な《暮年詩記》,批評文学としての《詩境記》,院政期の庶民生活をつづった《対馬貢銀記》《遊女記》《狐媚記》《傀儡子記(くぐつき)》《筥崎宮記(はこざきぐうき)》《洛陽田楽記》などの特色ある作品が見られる。…

※「江談抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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