精選版 日本国語大辞典 「気質」の意味・読み・例文・類語
き‐しつ【気質】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
翻訳|temperament
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報
人間ひとりひとりの特有な心理的特徴は,一般に性格と呼ばれるが,この性格が環境からの影響をうけて後天的に形成されるものであるのに対し,その基礎にあって生物学的に規定されていると考えられる生来性の特質が気質である。気質を表す英語temperamentなどの西欧語は語源的に〈ほどよく混ぜ合わせる〉という意味のラテン語temperareに由来しているが,これは,ヒッポクラテス以来,人間の性格類型を血液・胆汁・黒胆汁・粘液という4種の体液の混合のぐあいから考えたためである。このうち,血液が優勢ならば,陽気で快活な〈多血質sanguine〉が,胆汁が優勢ならば,短気で興奮しやすい〈胆汁質choleric〉が,黒胆汁が優勢ならば,陰気で憂うつな〈黒胆汁質melancholic〉が,また粘液が優勢なら,鈍感で冷血な〈粘液質phlegmatic〉がそれぞれ生ずると信じられた。このいわゆる四性論(四体液説)は,こんにちの目からみれば,科学的根拠を欠く空想の産物にすぎないが,体液病理学を医学の基本とみなした古代ギリシア・ローマ期に広く行きわたったばかりか,ルネサンス期を経て,近代医学の成立する19世紀まで受け継がれ,下記のクレッチマーの気質論にも多少の影響をおよぼした節がある。ちなみに,さきの4気質のうち〈黒胆汁質(メランコリック)〉は,こんにちの医学その他の分野でよく使われる〈メランコリー〉(憂うつ,うつ病)という言葉のなかになお生きつづけている。
こんにち最もすぐれた気質類型論として通用しているのは,やはりドイツの精神医学者クレッチマーのそれ(1921)であろう。彼は,内因精神病である統合失調症(精神分裂病)と躁うつ病をもとにして,正常者の気質を引き出し,これを〈分裂気質〉(統合失調気質),〈循環気質〉と名づけたが,のちに,てんかんについても同様の分析を行って,これと親和的な〈粘着気質〉を見いだし,こうして三つの基本類型を同じ水準で並列させた。その根拠になったのは,統合失調症者や躁うつ病者の病前には特別の気質がある程度まで共通にみとめられること,この同じ気質は彼らの家系のうちにも見いだせること,統合失調症や躁うつ病の示す心理的特質はこれらの気質を拡大し誇張したものと考えられることなどで,こうした知見はてんかん病者の場合にも当てはまるという。クレッチマーの功績は,以上の3種の気質型を発見し記載した点だけでなく,さらに,これらをそれぞれ対応する体格型と結びつけたところにある。
すなわち,分裂気質には,横の発達よりも縦の発達のほうがよい〈やせ型〉が,循環気質には,逆に,ずんぐりとして肥満した〈ふとり型〉が,そして粘着気質には,筋骨のよく発達した〈闘士型〉が親和性をもつとされる。上記の組合せには統計的にも有意の相関が確かめられているが,例外もまた数多い。さて,3種の気質についてその特徴を理解しようとするなら,双極性の構造を頭に入れるのがよい。たとえば,分裂気質では〈敏感〉と〈鈍感〉という両極をもつ感受性の割合(正確には精神感受性比率)として表現され,したがって,小心で内気な過敏型,中間型,無頓着で冷たい鈍感型に細分される。循環気質では〈快活〉と〈憂うつ〉という両極をもつ気質の割合(正確には気分状態性比率)として表現され,陽気で活発な軽躁型,中間の同調型,憂うつで不活発な陰うつ型に細分される。分裂気質と循環気質のちがいは生活態度全体のなかで際立ち,分裂気質は非社交的,自閉的,利己的,冷淡であるのに対して,循環気質は開放的,社交的,世話好きで,情に厚い。前者には皮肉としんらつさがあり,後者にはユーモアがある。前者は空想的,理想的,観念的で,環境と対立するが,後者は実際的,現実的,世俗的で,環境に融和する。前者には哲学者,数理科学者,悲劇作家,狂信者などが多く,後者には実業家,医師,外交官,写実作家などが多い。分裂気質や循環気質にくらべると,粘着気質の場合は〈遅鈍〉と〈爆発性〉を両極にもつが,前者ほど明確ではない。全体にねばりづよく,執拗で,しばしば細部にこだわり,そのため,ややもすれば杓子定規で,融通がきかない。規則やしきたりは忠実によく守り,信仰心もつよい。このように,平生は安定して変化のない鈍重な生活態度ながら,ささいなきっかけで激しく爆発して情動を発散させるのも粘着気質の特徴で,これはちょうどてんかん発作の場合と似ているともいえる。このように,気質とそれぞれの精神病との間に移行関係をみとめたのもクレッチマーの気質論の特徴である。すなわち,分裂気質,循環気質,粘着気質はその程度が病的に近いほど強まってくると,それぞれ分裂病質(統合失調病質),循環病質,てんかん病質と呼ばれ,これがさらに発展すれば,統合失調症,躁うつ病,てんかんになるという。しかしこの関係はクレッチマーが最初に考えたほど単純なものではなく,これに批判的な学者も少なくない。
なお,気質と体型との関連についてはフランスのC.シゴーやアメリカのシェルドンの研究も有名で,とくにシェルドンのそれ(1940-42)は,正常者の検討から出発しながら,結果的にクレッチマーの気質類型論と共通する点が少なくないため,成書でもしばしば引用される。シェルドンによると,社交的で生活をたのしむ〈内臓(緊張)型〉,積極的で大胆な〈身体(緊張)型〉,非社交的で生理的に過敏な〈頭脳(緊張)型〉という3種の気質がみとめられ,これらはそれぞれ,消化器官のよく発達した〈内胚葉型〉,筋骨のよく発達した〈中胚葉型〉,皮膚と神経系のよく発達した〈外胚葉型〉という3種の体型に対応しているという。このシェルドンやクレッチマーの見解に照らしても,人間の気質は遺伝的・体質的基底に深く根ざしており,したがって生涯をつうじて恒常的で変わることがないと考えられる。
→性格
執筆者:宮本 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
個人の精神的資質には性格、知能以外に情動反応の特徴も含まれるが、この情動反応の背景にある生来の感受性、反応強度・速度、テンポ、気分素質を総称して気質とよんでいる。気質を性格の下部構造とみる立場と、性格を意志の特徴とし、気質を感情の特徴とみる立場とがある。いずれの立場をとるにしても、気質は生物学的過程と密接に関連している。
もっともよく知られているのは、ドイツのクレッチマーが分類した内閉性気質、循環性気質、粘着性気質である。内閉性気質の特徴は、敏感と鈍感の共存性である。循環性気質の特徴は、躁(そう)性とゆううつの共存、同調性、および活発と緩慢の波動性である。粘着性気質の特徴は、環境に対する柔軟性の欠如、および粘着性と爆発性の共存である。この3気質は体型と親和性があり、内閉性気質はやせ型(細長型)、循環性気質は太り型(肥満型)、粘着性気質は筋骨型(闘士型)と対応している。
[山崎勝男]
字通「気」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…心理学において両者を同義に用いる場合もあるが,区別して用いる場合には,人格(パーソナリティ)が知・情・意の全体的な統一性をあらわすのに対して,性格(キャラクター)は,そのうちの情意的な側面をさすのが普通である。 また,性格に似た語として気質temperamentがあるが,それは一般に性格の下部構造をなし,個人の情動的反応の特質を規定する遺伝的・生物学的な特性(神経系のタイプなど)をさしている。古代ギリシア以来,有名な〈多血質〉〈胆汁質〉〈黒胆汁質〉〈粘液質〉という気質の4類型があるが,そこには体液の混合の割合がその人の気質を決定するというヒッポクラテスに始まる古代ギリシア医学の考え方があった。…
…その始まりはひじょうに古く,古代ギリシアにさかのぼり,伝統の一方は16世紀のフランスのモラリストたちに継承され,モンテーニュ,パスカル,ラ・ブリュイエールなどの随想録,箴言集などには深い理解と洞察が見られ,文学作品の中にも興味深く描かれている。他方,科学的にはやはりギリシアで2世紀にガレノスが体液を4種類(血液,胆汁,黒胆汁,粘液)に分け,それに従って4気質(多血質,胆汁質,憂鬱(ゆううつ)質,粘液質)の分類を行っている。その後生理学の進歩とともに体液と気質との関連づけは否定されるようになったが,気質の4類型は長く用いられた。…
…個人が先天的に持っている機能の身体的ないし精神的反応傾向のこと。このうち身体的反応傾向を体質と呼び,精神的反応傾向を気質と呼ぶ。一般的に素質は環境の対立概念として用いられてきた。…
※「気質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...
4/12 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
4/12 デジタル大辞泉を更新
4/12 デジタル大辞泉プラスを更新
3/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
2/13 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新