(読み)ウジ

デジタル大辞泉 「氏」の意味・読み・例文・類語

うじ〔うぢ〕【氏】

[名]
その家に代々引き継がれる、家の名。家系の名称。姓。
家柄。家系。
古代社会における同族集団。氏のかみ氏人を主な構成要員とし、部民べみん奴婢ぬひを隷属させる場合が多い。氏の名は朝廷での職掌や居住地の名により、多くは地位に応じてかばねを有した。
[接尾]名字に付けて敬意を表す。現在は一般に「し(氏)」を用いる。「吉田
[類語](1名前人名氏名姓名姓氏せい名字ファーストネームフルネーム芳名尊名高名こうめい貴名/(2家門一門一族血族家系家筋いえすじ血筋血脈血統筋目毛並み

し【氏】[漢字項目]

[音](漢) [訓]うじ
学習漢字]4年
〈シ〉
血統を同じくする集団。うじ。「氏族氏名姓氏平氏李氏りし
姓名に添えて敬意を表す語。「某氏山田氏
敬意をもって人を指す語。「各氏諸氏両氏
〈うじ〉「氏神氏名うじな
[名のり]え
[難読]杜氏とうじ

し【氏】

[名]
同一血族の系統。うじ。
話し手・相手以外の第三者。代名詞的に用いる。「は静養中」
[接尾]
氏名に付けて敬意を表す。主として男子に用いる。「佐藤は欠席」
氏族の姓氏に付けて、その氏族の出身であることを表す。「藤原
助数詞。敬意をこめて人数を表すのに用いる。「三の御執筆」
[類語](2同氏・同君・両氏/(1さん殿

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精選版 日本国語大辞典 「氏」の意味・読み・例文・類語

うじ うぢ【氏】

[1] 〘名〙
① 古代において、血縁あるいは擬制的血縁集団の成員が大王への貢納奉仕を前提に他と区別するために唱える名称。
※万葉(8C後)二〇・四四六五「大伴の 宇治(ウヂ)と名に負へる ますらをの伴」
② 家の名称。姓。名字。
※史記抄(1477)一一「いた処を氏にしたぞ。日本に、なに殿か殿と、いた処の在名を云と同也」
③ 家柄。家系。
※宇津保(970‐999頃)あて宮「かどをもひろげ、うぢをもつへきしも」
※十訓抄(1252)一〇「芸をろかにして氏をつがぬ類あり」
[2] 〘接尾〙 名字に添えて敬意を表わす。
※歌舞伎・東海道四谷怪談(1825)三幕「ヤア、民谷氏(ウヂ)。爰にござったか」
[語誌](1)(一)①が元来の「うじ」で、氏の上(かみ)は氏神を奉祀する祭司者であり、氏人を統率し氏を代表して朝政に参与し、その地位により姓(かばね)を与えられた。
(2)大化の改新以降の社会制度の変化により、その勢力は次第に衰えて形骸化し、中世には地名を称する②が登場する。中世以降は③のような意を表わすようになり、また(二)の用法も現われる。
(3)特に、近世においては武士階級が同輩以下の相手あるいは第三者を呼ぶのに姓・姓名の後に「うじ」を添えることもあった。
(4)近代になり、「氏」を音読した「し」にも同様の接尾用法が登場したため、次第に接尾語の「うじ」は用いられなくなっていった。→氏(し)

し【氏】

[1] 〘名〙 血統が同じであることを表わす名。姓。また、一族。うじ。
※史記抄(1477)三「姓と云は酬所居ぞ。氏と云は其下から出たものぞ」
[2] 〘代名〙 他称。話し手、相手以外の第三者をさし示す。主として男子に用いる。
※夏木立(1888)〈石橋忍月〉「氏の文は外より応ずるより寧ろ内より発する者多きが如し」
[3] 〘接尾〙
① 人の姓に付けて、尊敬の意を表わす。
※航西日乗(1881‐84)〈成島柳北〉一一月四日「此日池田氏に誘はれ」
② 数詞に付け、敬意をこめて人数を表わすのに用いる。
※航西日乗(1881‐84)〈成島柳北〉三月二三日「中山譲治、三輪甫一両氏トリエストより来たり」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「氏」の意味・わかりやすい解説


うじ

家系を表す名称で、姓、苗字(みょうじ)をさす。また、「山田氏(うじ)」などと苗字につけて敬意を表すこともある。日本の古代社会においては、支配階級の父系血縁集団の呼称。

[黛 弘道]

古代社会の氏

古代社会の父系血縁集団は、実際の血縁以外の者をも包含する擬制的氏族集団のそれであり、また被支配階級である一般民衆の血縁集団を氏とはよばなかったことなどに、その特色があった。「うじ」の語源については「内(うち)」「生筋(うみすじ)」「生路(うみじ)」「生血(うみち)」などの諸説があり、漢字の「氏」の朝鮮音に「う」という接頭音がついたものという説もあった。しかし今日では、氏は朝鮮語のul(族)と同根で、奈良時代にはudiと発音されたとも説かれる。朝鮮語lと日本語dとは対応するから、こう考えられないことはない。なお朝鮮語に近い蒙古(もうこ)(モンゴル)語、トルコ語、ツングース語ブリヤート語などで親戚(しんせき)・息子ないし子孫を表す語がいずれも同根であり、父系・男系にのみ用いられ、母系・女系には用いられないことも指摘されている。「うじ」は父系の血縁を示す語で、男系・女系いずれとも限定せずに用いられる古語「うがら」「やから」ともその点で明瞭(めいりょう)に相違する。日本古代社会における氏は支配集団の称呼であり、未開社会やギリシア・ローマの古代社会の氏族クランclanと同一視できない。

 氏は家父長制的家族の集合体であり、そのうちの族長的家族の家父長が、その氏の代表者、統率者となった。これを氏上(うじのかみ)(氏宗)とよんだが、氏により氏上の地位の継承法には相違があった。氏上はその氏の代表者として大和(やまと)朝廷におけるその氏固有の地位、職掌を保有し、一定の政治的発言権を行使した。また氏族内部に対しては、その統率者として氏神(うじがみ)の祭祀(さいし)権を握って宗教的権威を保ち、氏内の争訟を裁断し、刑を執行するなどの権力を行使した。このような氏の代表者、統率者としての氏上に対して、その他の氏の一般成員を氏人(うじびと)という。彼らは氏上と血縁関係のある者ももちろん多いが、往々にして直接血縁関係がなく、ただ互いに観念的に血縁者と自認しているにすぎない場合も少なくなかった。たとえば、中央の佐伯(さえき)氏(連(むらじ)姓)と地方の佐伯氏(直(あたい)姓など)との関係などがこれである。このような場合、事実上は上級の姓(かばね)を有する者が下級の姓の者を支配しているわけである。そしてこれら有姓者の下にはそれぞれ部(べ)姓の農民とか技術者の集団が分属しており、さらに、それとは別に奴隷も存在した。かくして氏は、大和朝廷における官職、あるいは祭祀、居住地などを通じて結合した政治団体にほかならず、非血縁者を多く含みながら、彼ら自身血縁的紐帯(ちゅうたい)によって結ばれていると観念したところの擬制的血縁集団であった。氏を構成する多数の家族は独立の経済的基盤をもち、氏上の統制は経済面には及ばなかったようなので、これを先の点とあわせ考えて、氏を原始社会の共産的氏族と同一視することも誤りである。

 氏の名には大別して、居住地の地名に由来するものと、大和朝廷における職業名に由来するものとがあった。前者のおもなものは葛城(かずらき)、平群(へぐり)、蘇我(そが)、巨勢(こせ)、和邇(わに)(以上大和)、紀(き)、吉備(きび)、出雲(いずも)などであり、後者の有力なものは大伴(おおとも)、物部(もののべ)、中臣(なかとみ)、忌部(いんべ)、土師(はじ)などであった。古代の氏の名はこの2種のいずれかであり、また後者が起源においてより古く、数においてはるかに多かった。前者は私有民(部曲(かきべ))をもつ土豪的氏族、後者は職務上の配下である品部(しなべ)を統率する官僚的氏族であり、その性格を異にした。前者の有力なものは臣(おみ)の姓を称し、後者では連(むらじ)を称した。臣姓豪族は皇別すなわち天皇の後裔(こうえい)と称するのが一般であり、連姓豪族は神別すなわち神代の昔から皇祖の神々に奉仕した神の後裔と称しているが、これは江戸時代における外様(とざま)大名と譜代(ふだい)大名との違いにも比せられる。すなわち、臣姓豪族は天皇家と連合して大和政権を構成した有力豪族、連姓豪族は大和政権の盟主としての天皇家の地位、実力の向上に伴って頭角を現した家政機関のおもだった役人あがりであり、その家政機関が拡大改組されて大和政権の中枢機関となったのである。徳川幕府が「庄屋(しょうや)仕立て」つまり庄屋の村落支配機構をそのまま拡大して成立したといわれるのと似ている。これによって考えれば、氏は大和朝廷の支配体制によって生み出された特権的血縁集団であり、政権の発展に伴って地方の有力豪族も氏に組織される形で取り込まれていったのであろう。

 このようにして生まれた氏には臣、連のほか、その家柄や身分に応じてさまざまな姓が与えられた。したがって、姓は氏の性格・系統・家柄の表示として創出され、天皇が氏々を支配する手段ともされた。姓の間に尊卑、上下の序列、格差が設けられ、賞罰としての姓の昇降が天皇の手によって行われた。したがって、古代社会では支配階級は氏の名に姓を添えて名のる必要があったのであり、氏の名だけでは特権の保証とはならなかったものと思われる。氏はこのように政治的、経済的な特権団体であるが、大化改新後もその特権は政治的には新しい律令(りつりょう)的官職により、また経済的にはそれに伴う俸給、給与により、形を変えながらも引き続き保証された。

[黛 弘道]

法律上の氏

戸籍ごとの個人の姓をいう。従来は氏は家名であったが、1947年(昭和22)の民法の改正により、家の制度が廃止された結果、単なる個人の呼称となった。現行民法では、夫婦と未婚の子は同じ氏を称することを原則として、種々の規定が置かれている。夫婦は婚姻の際に定めるところにより、夫または妻の氏を称する(民法750条)。ただし、婚姻に際して、夫婦がそれぞれ従来の氏をもち続けるいわゆる夫婦別姓制度を選択的に認めるかどうかが議論され、民法750条についてさまざまな改正案が提示されている(夫婦別姓問題)。氏を改めた者が以前の氏に復することを復氏といい、民法では以下のような場合に復氏を認めている。夫婦が離婚した場合、氏を改めた者が婚姻前の氏に復する(同767条・771条)。夫婦の一方が死亡した場合には、氏を改めた生存配偶者は婚姻前の氏に戻ることができる。ただし、本人が望めば離婚前の氏を称することもできる(同751条)。嫡出子は父母の氏を称する。嫡出でない子は母の氏を称する(同790条)。また、子が父または母と氏を異にする場合には、どのような原因によるかを問わず、子は家庭裁判所の許可を受けて、その父または母の氏を称することができる(たとえば、父が嫡出でない子を認知すれば、家庭裁判所の許可を受けて、父の氏に変更することができる)。養子については、養子は養親の氏を称し、離縁した場合には縁組み前の氏に戻る(同816条)。以上、いずれの場合にも同一の氏を称する者は、同一の戸籍に記載される。なお、同じ戸籍に載っていて、同じ氏を称しているかどうかは、親族法、相続法上の取扱い上なんの関係もない。たとえば、子であれば氏が同じでも違っていても親権、扶養、相続などに関して、同じ扱いを受ける。氏の変更(改氏)については、家庭裁判所の許可を要する(戸籍法107条)。

[高橋康之・野澤正充]

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改訂新版 世界大百科事典 「氏」の意味・わかりやすい解説

氏 (うじ)

〈うじ〉の語源として,〈うち〉(内)の意であるとする説,朝鮮語の〈ウルul〉(親族),蒙古語の〈ウルクuruk(urug)〉(親戚)に由来するとみる説などがある。要するに,氏とは祖先をおなじくし,同族系譜によってむすばれた血縁集団で,さらにその外周に,このような同族意識の拡大によって生じた擬制的同族集団をふくむといえる。ただし,日本の氏は,モーガンやエンゲルスのいうアメリカ・インディアンのイロコイ族における〈クラン〉,ギリシアの〈ゲノス〉,ローマの〈ゲンス〉など,共産制,族外婚,共同防衛制などの属性をもつ,原始的な氏族共同体とは段階を異にする(〈氏族(しぞく)〉の項目参照)。まず第1に,日本古代の氏は父系の血縁集団には限定されず,母系をも加えた双系的集団で,それだけ氏の範囲が明確でないといわれる。したがって第2に,氏がこのような自然的社会的集団でないとすれば,それは大和朝廷のもとで組織された二次的な政治体制として成立したものといえる。つまり,日本古代の氏は,5~6世紀ごろから,朝廷を構成する中央豪族が,官職の独占的世襲と,それを支える土地・人民の領有を実現する体制として形成されたものである。したがって,朝廷の官職を氏の名とする大伴・物部・中臣(なかとみ)・忌部(いんべ)・膳(かしわで)や,朝廷で上位を占め,大和の地名を氏の名とする葛城(かつらぎ)・巨勢(こせ)・平群(へぐり)・蘇我などがあり,そのもとに伴造(とものみやつこ)・百八十部(ももあまりやそのとも)といわれるより下級の朝廷での細分化された職掌をもつ多くの氏が形成された。さらに,地方豪族としての国造(くにのみやつこ)などにも氏の組織はおよんだ。このようにして,氏の名とカバネ()が,朝廷から与えられることになった。

 氏の組織は,大化改新によって変革された。氏の官職の世襲と,私的領有制は廃止され,氏上(うじのかみ)以下の個人を対象とする官位・官職と,それにもとづく俸禄制にきりかえられた。しかし,全体としてみれば,氏族制は,官位を媒介にして官僚制に編成がえされた。氏上には,氏中の官位の高いものが任ぜられ,直系・傍系の族員をひきい,氏を代表して朝政に参加し,その政治的地位に応じて氏(うじ)・姓(かばね)をあたえられた。そして,一定範囲の族員もおなじ氏姓を称することをみとめられ,いわゆる蔭位(おんい)の制度によって,氏の政治的特権は維持されたのである。
氏族(うじぞく) →氏姓(しせい)制度
執筆者:

各個人がもつ姓名・氏名のうち,姓・苗字にあたる呼称をいう。法律上はもっぱら〈氏(うじ)〉の語が用いられ,民法,戸籍法ほか,恩給法などに氏に関する規定がある。これらについては〈氏名〉の項目を参照されたい。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「氏」の意味・わかりやすい解説

氏【うじ】

(1)日本古代の社会的・政治的集団。古くは血縁関係にある家々の集団で,いわゆる氏族clanと同じものであったかもしれないが,大和朝廷時代にはすでに支配階級のなかで祖先を同じくすると主張する家々の集団として一種の政治組織になっており,統率者である氏上(うじのかみ)が氏人(うじびと)を率いて朝廷に奉仕し,経済的基盤としては部民(べみん)を所有していた。律令時代には官僚制度の発達によって氏の政治的機能は弱まったが,祭祀(さいし)や伝統的行事に際してはなお氏長者による氏人の統制が認められていた。〈新撰姓氏録〉は畿内の氏をその出自によって皇別・神別・諸蕃(しょばん)の3者に分けている。中世においても地名に由来する名字(みょうじ)の一族(名字族)とは別に,いわゆる藤・橘・源・平に代表されるような古代の氏族(うじぞく)の系統をひく族縁呼称が用いられた。(2)各個人の呼称。姓,苗字(みょうじ)。旧民法下の氏は家の名称であったが,新民法で家の制度が廃止されるとこの考え方も変更を受けた。民法は夫婦と未婚の子は同じ氏を称することを原則とする。夫婦は婚姻の際に定めるところにより,夫または妻の氏を称する。離婚すれば氏を改めた者は婚姻前の氏に復する。ただし離婚の日から3ヵ月以内に婚氏の称氏届を出せば,離婚の際に称していた氏を称することもできる。養子は養親の氏を称し,離縁したときは原則として縁組前の氏に復する。嫡出子は父母の氏を称し,嫡出でない子は母の氏を称する。原因のいかんを問わず,子が父または母と氏を異にする場合は,子は家庭裁判所の許可を受けて,父または母の氏を称することができる。
→関連項目氏長者戸籍戸籍筆頭者婚姻氏姓制度夫婦夫婦別姓離縁離婚

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「氏」の意味・わかりやすい解説


うじ

戸籍に表示された個人の姓。個人の同一性を示す呼称。戸籍は,夫婦およびこれと氏を同じくする子ごとに編成される (戸籍法6) 。民法は氏について詳細な規定をおいている。夫婦は婚姻の際に定めるところにより夫または妻の氏を称し,嫡出子は父母の氏を称し,嫡出でない子は母の氏を称する。しかし,子が父または母と氏を異にする場合には,子は家庭裁判所の許可を得て父または母の氏に変更することができる。また,父または母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には,子は父母の婚姻中に限り戸籍法に従って届け出ることにより父母の氏を称することができる。養子は,養親の氏を称する。逆に離婚または離縁の場合には,前に氏を改めた者が前の氏に復する (→復氏 ) 。ただし,離婚によって婚姻前の氏に復した者は,離婚の日から3ヵ月以内に戸籍法に従って届け出ることにより,婚姻中の氏を称し続けることもできる。養子縁組の日から7年を経過したのちに離縁をして復氏した場合も同様である。


うじ

血縁的関係にある同族集団。大化前代では社会組織の基礎をなし政治的団体をさした。有力豪族の長 (氏上) に率いられた直系,傍系の血縁,もしくは非血縁の家族で構成される集団。氏の長は,氏神の祭祀権,氏人の裁判権をもち,氏は部民,田荘 (たどころ) を所有した。有力豪族の氏は皇室の氏を中心に大和連合政権を形成し,政治的地位と職掌とを世襲した。この氏を基調とする政治組織は (かばね) の制度によって秩序づけられ整備されていった。大化改新後,世襲的な職掌と私的支配権は否定され,有力な氏は経済的特典の大きい官人となった。しかし,古代社会の崩壊とともに,このような氏の機能も失われた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「氏」の解説


うじ

親族集団およびその集団名。万葉仮名では宇治(うぢ)。朝鮮語のウルulなど,父系親族をさす語に由来するとされるが,氏はそもそもは非父系の集団であったらしい。5世紀後半から形成され,地名や職掌などにちなむ氏名(うじな)をもち,姓(かばね)で秩序づけられる。原始氏族とは異なり,一般民衆は含まれない。古代の氏は,非血縁をも含む氏人(うじびと)が族長の氏上(うじのかみ)に率いられ,奴婢を所有し,部民を統轄して朝廷に仕える,支配層だけの政治的組織である。7世紀後半の八色の姓(やくさのかばね),甲子の宣(かっしのせん)などの一連の氏族政策により再編され,以後は父系血縁集団としての性格を固める。律令制により旧来の政治組織としての性格は否定されたが,氏による奉仕の伝統は平安時代まで続いた。中世以降,社会集団としての実質を失ったあとも,天皇から賜る氏名の観念は存続し,家々が称する苗字とあわせて,授位・任官などの場では氏名が必要だった(明治初年まで)。現在の法律用語としての氏は,苗字=ファミリーネームをさす。

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旺文社日本史事典 三訂版 「氏」の解説


うじ

古代社会の同族血縁を主とする支配層の集団
血縁関係の有無にかかわらず同じ祖先から出たと信じる多くの家族が,社会的・政治的に最も有力な家を中心として集合。同族団の首長が氏上 (うじのかみ) ,一般の成員が氏人 (うじびと) ,これに部民 (べのたみ) ・奴婢 (ぬひ) が隷属した。氏は大王を中心に大和政権を形成し,地位に応じて姓 (かばね) を有し,政治的地位と職掌とを世襲した。大化の改新(645)で世襲の職掌と私的支配権の廃止が企てられたが,氏の実質は,7〜8世紀を通じて残存した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「氏」の解説


父系伝承の血縁団体。最も広い血縁団体である姓の分枝
殷 (いん) 以前の社会単位であった姓が,周代に封建制度の実施にともなって細分化し,氏が実質的血縁団体として治者階級の社会単位となった。宗法によって維持され,支配階級の血族的結合を強化し,封建制度の基礎となった。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【姓氏】より

… 古代の中国では,〈姓〉字は同一の祖先に出自し,同一の祖神を信奉する血縁集団を指しており,ラテン語のgens,英語のclanにほぼ該当する語であった。これに対して〈氏〉の字は〈姓〉を構成する個々の家族,または同一の祖先から分岐した家族を意味していたが,漢代のころから姓と氏とは混用されるようになり,姓=氏と言う傾向が顕著となった。したがって,たとえば陽明学の始祖である王守仁の場合,〈姓は王氏,名は守仁,字は伯安,号は陽明,敬称して陽明先生という〉と記されるのである。…

【氏上】より

…日本古代のの首長。氏長,氏宗ともいわれ,氏を代表して朝政に参与し,その政治的地位によって,氏・姓(かばね)が決定された。…

【氏人】より

…日本古代における氏の構成員。同種のことばに,〈うから,やから〉(族)があるが,これが血縁的社会的な氏族共同体の族員をさすのに対して,〈うじびと〉は,政治制度としての氏の構成員で,氏上(うじのかみ)にひきいられる一定範囲の人々をさし,氏上とおなじ氏姓を称する。…

【氏姓制度】より

…日本古代において,中央貴族,ついで地方豪族が,国家政治上に占める地位,社会における身分の尊卑に応じて,朝廷より(うじ)の名と(かばね)をあたえられ(氏・姓(かばね)をあわせて(せい)ともいう),その特権的地位を世襲した制度。大化改新ののち,律令国家におよぶと,戸籍制によって,氏姓はかつての部民(べみん),つまり一般の公民にまで拡大され,すべての階層の国家身分を表示するものとなり,氏姓を有しないものは,天皇,皇子,諸王と奴婢のみとなった。…

【氏族制度】より

…ここに氏族制度というのは,家族よりも大きく,部族よりも小さい氏族とよばれる血縁的な集団が,多かれ少なかれ独立した経済的・社会的・政治的単位としての機能をいとなんでいる社会すなわち氏族社会の制度をさす。記録された歴史のはじまる古代国家形成のころには,すでに封鎖的・自給的な村落経済は交易経済に変わり,民主的な共同体は階級的な権力による支配のために再編成されつつあったことが,遺跡や文献の上からうかがわれるが,その以前の社会は一般にここにいう氏族を中心とする体制の上に立つものであったという推定が,多くの学者によってなされてきた。…

【氏名】より

…特定個人の同一性を社会的に確定する機能をもった,ひとりひとりに付される呼称で,氏(うじ)と名(な)からなる。〈姓名〉〈名字(苗字)と名前〉〈名前〉などの言い方もある。…

【姓氏】より

… 古代の中国では,〈姓〉字は同一の祖先に出自し,同一の祖神を信奉する血縁集団を指しており,ラテン語のgens,英語のclanにほぼ該当する語であった。これに対して〈氏〉の字は〈姓〉を構成する個々の家族,または同一の祖先から分岐した家族を意味していたが,漢代のころから姓と氏とは混用されるようになり,姓=氏と言う傾向が顕著となった。したがって,たとえば陽明学の始祖である王守仁の場合,〈姓は王氏,名は守仁,字は伯安,号は陽明,敬称して陽明先生という〉と記されるのである。…

【相続】より

…官人層については,継嗣令に明確に嫡系継承が規定されているが,それはもっぱら位階継承(蔭位(おんい))のためであって,中国流の祭祀相続・家長権を伴った実体としての〈〉の継承を意味するものではない。位階継承の背後に存在した現実の集団としては〈〉が想定される。〈家之名〉を継ぐことは〈祖名(おやのな)〉を継ぐことと同義であり,〈氏門(うじかど)〉を継ぐことであった。…

※「氏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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