(読み)イビツ

デジタル大辞泉 「歪」の意味・読み・例文・類語

い‐びつ【×歪/×櫃】

[名・形動]《「いいびつ(飯櫃)」の音変化》
《飯櫃が楕円形であったところから》
㋐物の形がゆがんでいること。また、そのさま。「箱が―になる」
㋑物事の状態が正常でないこと。また、そのさま。「―な社会」「人間関係が―になる」

㋐「飯櫃いいびつ」に同じ。〈日葡
㋑楕円形。小判形。いびつなり。
「―なる面桶めんつにはさむ火打ち鎌/惟然」〈続猿蓑
㋒金貨・銀貨などの小判。いびつなり。
「五三桐九分づつ―六十目」〈洒・知恵鑑〉

わい【歪】[漢字項目]

[音]ワイ(漢) [訓]ゆがむ ひずむ いびつ
曲がって正しくない。ゆがむ。「歪曲歪力

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精選版 日本国語大辞典 「歪」の意味・読み・例文・類語

いが・む【歪】

[1] 〘自マ五(四)〙 (「ゆがむ(歪)」の変化した語)
① 正常な形がくずれて曲がったり、正常な位置、状態から傾いたりする。
※土井本周易抄(1477)五「石の広ていがうだやうな石ぞ」
※滑稽本・客者評判記(1811)上「兎角、荷鞍がいがんであぶない」
② 行ないや心が正しくなくなる。邪悪になる。ひねくれる。
※仮名草子・悔草(1647)下「温公(おんこう)も六悔(りっくい)有。ましてや愚蒙の我らなど、くゆる事やめがたしといがむ」
③ 病気になる、わずらうことをいう、大工、寄席芸人の間の隠語。
※新ぱん普請方おどけ替詞(1818‐30頃か)「わずろうを、いがむ」
[2] 〘他マ四〙 盗む。いがめる。
歌舞伎・傾城青陽𪆐(1794)五「其いがんで戻った金を、又おれが方へいがめて」
[3] 〘他マ下二〙 ⇒いがめる(歪)
[語誌]室町時代の抄物あたりから見えはじめるが、当時の辞書などにはこの語形は見いだしにくく、口語的な場で使われていたものと思われる。

ひずみ ひづみ【歪】

〘名〙 (動詞「ひずむ(歪)」の連用形名詞化)
① 形がねじれたり、ゆがんだりしていびつになること。また、そうなることによってできた他の物とのずれやゆがみなど。
※御飾記(1523)「絵の掛梯之事。〈略〉ひずみよくよく見て、軸を直し退き候」
② 心のゆがみ。ねじけ。
浮世草子・男色十寸鏡(1687)上「さすが其ひすみをとがめんも、兄分のためおもてぶせなり」
③ 物事の進みぐあいや、状況、関係などが順調にいかないで、本来の姿、あるいはあってほしい姿から外れること。また、その影響。
人情本・英対暖語(1838)四「身上(しんしゃう)にひづみが見へたからといって」
④ 物体が外から力を受けたり、温度変化などによって生じる形や体積の変形。また、その割合。〔物理学術語和英仏独対訳字書(1888)〕
茶の湯の評語で、左右対称的な正統の形態に対して、形が少し崩れ、ひねってゆがんだものの美しさをいう。
※石州三百ケ条(1665)一「何ぞ珍しき事をも致し、客に手をとらせんとおもふやうなるはひすみなり」

ゆが・む【歪】

[1] 〘自マ五(四)〙
① 整った形がねじれ曲がる。まっすぐでなくなる。曲がる。よじれる。ひずむ。いがむ。
霊異記(810‐824)上「是に即坐(ゐながら)に沙彌の口喎斜(ユガミ)て、薬もて治療せしむるに、終に直ら不。〈興福寺本訓釈 喎斜 二合由加三天〉」
② 心や行ないなどが正しくなくなる。公平でない。よこしまになる。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「事違ひて心うごき、かならずその報い見え、ゆがめる事なん、いにしへだに多かりける」
③ 本来の姿、望ましい方向からそれる。はずれる。
狭衣物語(1069‐77頃か)三「琵琶もなほせと、上ののたまはせつれど、中々ゆがみぬべく侍りけるとのたまひければ」
④ 言葉がなまる。
※源氏(1001‐14頃)東屋「若うより、さる東方の、遙なる世界に埋もれて、年経ければにや、声など、ほとほとうちゆがみぬべく」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒ゆがめる(歪)

いが・める【歪】

〘他マ下一〙 いが・む 〘他マ下二〙 (「ゆがめる(歪)」の変化した語)
① 整った形、状態を曲げる。いびつにする。ゆがめる。
※大学垂加先生講義(1679)「我いがめる心を推なれば恕の正には非」
② ひどい目にあわせる。いためつける。やりこめる。
浄瑠璃・聖徳太子絵伝記(1717)一「此婆(ばば)がいがめてやる」
③ 盗む。ちょろまかす。ゆすり取る。
※歌舞伎・傾城倭荘子(1784)三「オオ、覚えもない和尚様に、三百目いがめる企みぢゃな」
④ 女を自分のものにする。
※浮世草子・新色五巻書(1698)五「法師の念力、きゃつをいがめずにはおくまいと」

ひず・む ひづむ【歪】

[1] 〘自マ四〙
① 形がゆがむ。いびつになる。ねじれる。
※名語記(1275)八「ゆかめる物をひつむといへる如何 はし、つる、めるの反、はり、つる、めりの反」
※俳諧・江鮭子(1690)「御持鎗さや蝙蝠の打落す〈忠清〉 花の嵐にひづむ仮小屋〈光延〉」
② 茶器などの形がゆがんで、正統な、あるいは規格的な形とは別の新しいおもしろさとなる。
宗湛日記‐慶長四年(1599)二月二八日「うす茶の時は、せと茶椀、ひつみ候也、へうけもの也」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒ひずめる(歪)

いがみ【歪】

〘名〙 (動詞「いがむ(歪)」の連用形の名詞化)
① 正常な形がくずれ、曲がったり、傾くこと。ゆがみ。
※日本書紀兼倶抄(1481)上「亀をやくに上は穴、下は水、左は木、右は金、中は土で、このいかみすぢりすくなについて、一万余の字ができたぞ」
② 行ないや心が正しくないこと。また、その者。盗人。悪漢。
※絅斎先生敬斎箴講義(17C末‐18C初)「心の根本が怠惰邪僻に沈んで有れば、する程いがみが強なる」
※浄瑠璃・釜淵双級巴(1737)上「こなたも啀(イガ)みの性根をあらはし」

ゆがみ【歪】

〘名〙 (動詞「ゆがむ(歪)」の連用形の名詞化)
① ゆがむこと。ゆがんでいる状態・様子。ひずみ。
※枕(10C終)一〇九「ようせずは、ほほゆがみもしぬべし」
※浮世草子・好色二代男(1684)四「藤は松につれても、ゆがみは直らず」
② 心や行ないなどが正しくないこと。よこしまなこと。
※浄瑠璃・津国女夫池(1721)二「引く縄筋のゆがみなき、代々の掟て」
③ ひしゃくをいう女房詞。〔日葡辞書(1603‐04)〕

ひず・める ひづめる【歪】

〘他マ下一〙 ひづ・む 〘他マ下二〙
① 曲げる。ゆがめる。いびつにする。
※玉塵抄(1563)四一「弓のそったををしあてて、ためつひつめつする木あり、檠と云ふ」
② 小さくかがめる。
※浮世草子・男色十寸鏡(1687)上「若細道辻小路なれば身をひつめてそれをとをして、其後ぞゆく也」
③ 責める。さいなむ。苦しめる。〔観智院本名義抄(1241)〕
※史記抄(1477)一一「秦をせめひづむるぞ」

ゆが・める【歪】

〘他マ下一〙 ゆが・む 〘他マ下二〙
① ゆがませる。整った形をくずして、曲げたり、よじったりする。曲げる。いがめる。
※観智院本三宝絵(984)中「沙彌是をききてかろみわらひそしる。ことさらに口をゆがめ、音をなまらかしてまねみ読」
② 心や行ないなどを正しくなくする。公平でないようにする。道理や真実などにはずれさせる。〔名語記(1275)〕
※浮世草子・新可笑記(1688)五「すぐなる心を今はゆがめて」

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改訂新版 世界大百科事典 「歪」の意味・わかりやすい解説

歪 (ひずみ)
strain

物体の変形の状態を表現する幾何学量で,材料力学において応力と並んで用いられる重要な基本量である。ひずみは基本寸法に対する変形量の比で定義される無次元量であるが,ひずみであることをとくに明示するときにはm/mなどの単位を併記することがある。また数値を100倍し百分率を付して表示する方法もしばしば慣用される。

物体に外力が作用して変形が生ずるとき,その形態には次の2種類がある。すなわち長さの変化と角度の変化である。これに対応してひずみにも垂直ひずみとせん(剪)断ひずみの2種類がある。図1に示す長さl0,直径d0の丸棒に軸方向の力(軸力)を加えて変形させ,長さがl,直径がdになったとする。このとき,ε=(ll0)/l0縦ひずみという。軸力が引張力であるとき棒は伸び,ひずみは正の値となる。圧縮力が作用するときは負である。それぞれ引張りひずみ,圧縮ひずみと呼ぶ。棒の長さの変化に伴い直径もd0からdに変化する。(dd0)/d0を,このときの横ひずみという。縦ひずみ-横ひずみを垂直ひずみnormal strainと総称し,横ひずみε1と縦ひずみεの比はポアソン比と呼ぶ。

 次に図2に示すように,高さh0の直方体を互いに平行な2面がずれるように変形(せん断変形)させたとき,そのずれの角(せん断角)をγ(単位はrad)とすると,このγをせん断ひずみshear strainという(ひずみは単位寸法あたりの変形量であるから,本来,せん断ひずみは図2においてλ/h0=tanγで定義されるが,変形が微小であればtanγ=γとおくことができ,角度の変化として与えられる)。ここに述べたひずみは基本寸法として原寸法を用いており公称ひずみnominal strainsと呼ぶ。公称ひずみは変形が小さい(微小変形)場合に用いられる。またせん断角によって表されるせん断ひずみをとくに工学せん断ひずみと呼び,ひずみテンソルと区別する。なお,物体の変形に伴ってその体積Vが⊿Vだけ増加したとき,⊿V/Vを体積ひずみと呼ぶ。

公称ひずみは,原寸法に対し変形量が小さいとはいえない有限変形の状態では近似が悪くなる。垂直ひずみにおいては,加重の増加とともに基準寸法を与える2点間の距離も変化するため,単に元の長さからの変形量を元の長さで除したものが,各荷重における真のひずみを表すとはいいがたいからである。そこで,これに代えて対数ひずみlogarithmic strainsが定義される。図1に示す棒の縦ひずみにおいて,ある瞬時の棒の長さをl,そのときの長さの変化分をdlとすると,そのときの縦ひずみの増加分はdl/lである。これを変形の初めから終りまで総和したが対数ひずみである。公称ひずみをeと書くと,対数ひずみはε=log(1+e)と書け,つねにε≦eである。だいたいの目安として0.01~0.05(1~5%)以下のひずみは公称ひずみを用いてさしつかえないが,これより大きいひずみには対数ひずみを用いる必要がある。

変形した物体中のある点のひずみ状態は,その点の近傍に基本寸法をとって定めたひずみにより記述される。図3の物体中の点Pの位置ベクトルをxi,変位ベクトルをuiとし,P点の近傍に2点Q,Rをとる。このとき,Q,RをPに接近させた極限において得られる線分PRPQの長さの変化の割合はP点のQ,R方向の垂直ひずみを,またPRPQの交角の変化はせん断ひずみを表す。三次元空間では3個の垂直成分と3個のせん断成分からなる6個の独立な成分によって1点のひずみが表される。直交座標系では空間座標(ラグランジュ座標)を用いた場合,

によって6個の成分が与えられる。これをグリーンのひずみテンソルという。また物体座標(オイラー座標)を用いると,6個の成分は,と書ける。これをアルマンシーのひずみテンソルという。それぞれの式の右辺の二次項は微小変形の場合一次項に比べ十分小さくなるので,これを省略すると両者は一致し,微小ひずみ,となる。以上の3式でijの場合垂直成分を,ijの場合せん断成分を表す。ひずみテンソルのせん断成分は工学せん断ひずみの1/2となっている。

材料に応力が作用すればひずみが生じ,ひずみが加われば応力が生ずる。このときの応力とひずみの関係は材料の機械的性質を代表する重要な量であり,その表示式は応力ひずみ関係式,あるいは構成方程式と呼ばれ,材料力学の基礎方程式の一つである。線形弾性体におけるフックの法則もその一つである。

 ひずみは発生する物理的機構の相違によりいくつかの成分に分けられる。一般に材料は応力が小さい間はほとんど完全な弾性を示し,応力とひずみは比例し(フックの法則),応力を除去すればひずみもほとんど0になる。図4は,応力とひずみが比例する限度A′(比例限度という)を超えて応力を加え,材料をA点まで変形させた場合で,応力を除去しても,ひずみはabだけは回復するが,非回復の残留成分Obが現れる。力を取り除いた後も残るこのひずみを永久ひずみ,または残留ひずみという。また回復成分は,弾性成分acと非弾性成分bcに分けられる。acを弾性ひずみといい,bcを擬弾性ひずみと呼ぶことがある。永久ひずみと擬弾性ひずみの和Ocを非弾性ひずみといい,弾性ひずみと非弾性ひずみの和を全ひずみということがある。通常,擬弾性ひずみは小さいのでこれを省略する。弾性ひずみは材料を構成する原子の間隔の変化により生じ,非弾性ひずみは結晶内のすべり,あるいは結晶粒界のすべりによって生ずる。時間非依存の非弾性ひずみを塑性ひずみといい,時間に依存する場合はクリープひずみという。非弾性ひずみは材料の破壊に関与する重要な量である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

岩石学辞典 「歪」の解説

物体に外力を加えたときに現れる形状や体積の変化または物体の粒子の相対的位置の変化.変形ともいう.形状の変化を捩れ(distortion)といい,体積変化をdilationという.dilationはdilatationと同じで,dilatationは膨張,拡張の意味であるが,この場合に正の体積変化を膨張(expansion)といい,負の体積変化を収縮(contraction)というので,dilation, dilatationのいずれも体積変化とした方がよい.

出典 朝倉書店岩石学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【弾性】より

…ふつう液体や気体では一般の変形に対しては弾性を示さないが,静水圧による体積の変化に対しては弾性を示す。
[ひずみと応力]
 弾性変形は,外から加えた力により,原子の配置が安定な構造からわずかに変化することによるもので,この変形をひずみと呼ぶ。ひずみには,伸びを表すひずみとずれを表すひずみがある。…

※「歪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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