精選版 日本国語大辞典 「校正」の意味・読み・例文・類語
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字義としては,比べあわせて訂正すること。したがって古典について〈契沖校正本〉〈村田春海校正本〉などの用例は,校合,校訂と同意である。しかし現今,普通に校正といえば,主として活版印刷や写真植字の工程において,植字されたものを適正にするために,その仮刷りと原稿とを照合し,伏字,誤植,脱落,組誤り,さらに体裁上の不備,また明らかな原稿の誤りなどを直し改めることをはじめ,活字組版以外,各版式による図版類についても,その試焼きまたは仮刷りを検討して正すことをいう。すなわち,印刷に先だち,正誤の任を果たすとともに体裁上の整備をも行う重要な作業の一つである。校正の順序としては,原稿そのものについて整理をかねてする原稿校正もあるが,活字組版の場合,一般には印刷所内で植字工が組み上げると,これを仮刷りし(この仮刷りを校正刷り,または植字用の組盆をゲラ(英語のgalleyをなまったもの)と称する関係からゲラ刷りともいう),それを他の係が原稿と照合してひととおりの校正をするところから始まる。これをうち校正または単に内校と呼ぶ。内校によって組版はまず修正される(この作業を差換えという)。ついで対外的意味での最初の校正刷りが作られ,印刷所から印刷物の依頼者(出版社,著作者,編集者など)に届けられる。これを初校という。第1回目の校正,すなわち初校がすむと,その校正刷りには〈要再校〉と記して印刷所に返され,第2回目を再校,第3回目を三校と呼び,必要に応じて回数が重ねられる。かくて校正が完了した場合,これを校了といい,校了にするにあたり,とくに一部分に残存する訂正個所を念のために見る校正を念校,印刷所に差換えの責任を負わせて校了にするものを責任校了,略して責了と呼ぶ。なお,校正刷りへの書入れは,赤インキまたは赤系統の色でなされるので,それを俗に赤字という。また,写真製版印刷では,図版の寸法や位置の校正とか,色刷りならば色彩の調子や効果の校正(色校正)を,製版フィルムの段階で行う。
校正には,名刺やビラの校正から書籍,雑誌,新聞など各種の校正があるが,文字校正のやり方は,1人で原稿と校正刷りとを引き合わせてする〈引合せ校正〉のほか,新聞や雑誌の場合に行われることがあるように,迅速にやるため1人が原稿により,他の1人が校正刷りによって読み合わせつつする〈読合せ校正〉,原稿を離れて校正刷りだけに注意してする〈素読み校正〉がある。また初校と再校など,各校の間で赤字だけを照合して点検する〈赤字引合せ〉がある。いずれによるにせよ,校正は周到綿密を要し,訂正個所は差換えが迷うことなく運ばれるように簡明に指示されなければならない。このために一定の様式と校正記号とが用いられる。外国で行われている様式には,訂正個所に斜線を記し,欄外に訂正字または記号を記入するブック・システムbook system(欄外式)と,訂正個所から欄外に線を引いて訂正字を記入するパスライン・システムpath line system(引出し式)とがある。日本では多く引出し式が採られ,校正記号については,活版印刷を創業した本木昌造が1870年(明治3)に外国の方式を勘案して和文向きに作成したものが初めであるが,今日では,1934年に日本印刷学会校正記号委員会が定め,その後65年に工業技術院がそれをさらに取捨整理して日本工業規格(JISZ8208)として制定した記号が普及している。
校正は,著作者がする場合ばかりでなく,新聞社や出版社では,熟達した専門の係,すなわち校正者が担当する。その校正者の任務は,あくまで原稿に忠実であることが基本であり,誤植,組誤りその他,組版上のあらゆる誤りを発見してこれを正すと同時に,行間,字間,図版,ルビ(振り仮名),その他,体裁上の調整をなすことが原則であるが,さらに進んでは,原稿の書違い,文字,仮名づかい,送り仮名などの誤りや不統一を指摘することも加えられる。ただし書籍のような公刊著作物にあっては,その内容に付帯して校正の責任も著作者に帰せられるのが普通であり,したがっておよそ原稿の改変に及ぶものは著作者以外の校正者の気ままや独断によってなされるべきではない。もとより校正は公刊に先だち著作表現の万全を決する仕事でもあり,校正者の助力によって著作の誤りや不備が除去されることも多く,校正者の役割はきわめて重大である。一方なんぴとがなすにせよ,校正の不十分が全く思いがけない結果を生んだ例は古くから東西にわたりけっして少なくない。その著名な一例は,1631年ロンドンで印行のいわゆる《邪悪聖書Wicked Bible》であって,これはまた《姦淫聖書Adulterous Bible》とも呼ばれ,《出エジプト記》のモーセの十誡(かい)中,第七誡〈なんじ,姦淫するなかれ〉のなかれnotが脱字し,〈なんじ,姦淫せよ〉となり,印刷者は罰せられ,その聖書は全部焼捨てを命ぜられたという。誤植の絶無は期しても事実は容易でなく,とくに日本のように漢字,仮名づかいが複雑であり,多様な状況にあってはいっそう困難である。福地桜痴が《懐往事談》(1894)において,論語の〈後生畏(おそ)るべし〉をもじって記した〈校正畏るべし〉は,校正がいかにたいせつであり,1字の誤植がどんなに大事をひき起こすかを戒めた語として有名である。
執筆者:布川 角左衛門
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(今井秀孝 独立行政法人産業技術総合研究所研究顧問 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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