文庫(読み)ぶんこ(英語表記)(1)(3)library (2)bunko

精選版 日本国語大辞典 「文庫」の意味・読み・例文・類語

ぶん‐こ【文庫】

[1] 〘名〙 (「文庫(ふみぐら)」の音読み)
① 書籍・古文書を入れておくくら。書庫。ふみぐら。
※兵範記‐仁平三年(1153)四月一五日「京方有火、〈略〉樋口町尻江家文庫、不開闔、万巻都書、片時為灰了」
鎌倉幕府で、裁判の終了した訴陳状や証拠文書などを保管した所。ふどの。
※沙汰未練書(14C初)「文庫とは引付評定事切文書等置所也」
③ 書冊・雑品などを入れておく手箱。文庫箱。
※仮名草子・都風俗鑑(1681)四「それよりへあがりて、ぶんこを請とりなんどし」
④ 江戸深川の遊里で、遊女が着替えなどを入れた箱。仕掛文庫。
※洒落本・仕懸文庫(1791)二「しかけぶんこといふは子どものきがへを入てもたせて来るぶんこ也」
⑤ あるまとまった蔵書。「明治新聞雑誌文庫」「漱石文庫」
⑥ 同じ種類などでまとめられた出版物に付ける名。叢書。「花嫁文庫」
⑦ 廉価普及を目的とした小型本。同一の書店から継続して同一の型・装丁で発行される。
※読書子に寄す(1927)〈岩波茂雄〉「この文庫は予約出版の方法を排したる」
⑧ 女子の帯の結び方の一つ。一般には文庫結びをいうが、上方ではだらりの帯の垂れの短いものをいう。
※落語・高野違ひ(1895)〈四代目橘家円喬〉「お文庫に帯を締めて居たから」
[2] 文芸雑誌。明治二八年(一八九五)九月から同四三年八月まで刊行。投書雑誌「少年文庫」を前身とし、文学青年に発表の場を提供。特に詩欄は河井酔茗が指導し、伊良子清白横瀬夜雨らが拠って文庫派を形成。

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デジタル大辞泉 「文庫」の意味・読み・例文・類語

ぶん‐こ【文庫】

《「ふみぐら」を音読みにした語》
書物や古文書などを入れておく倉庫。ふみぐら。書庫。
収集されてまとまった蔵書。また、ある目的で集められたひとまとまりの蔵書。「学級文庫
書籍や紙筆など手回り品を入れておく小箱。文匣ぶんこう手文庫
叢書シリーズなどにつける名。「学習文庫
文庫本」の略。
[類語](1物置納屋納戸倉庫土蔵穴蔵金蔵米蔵穀倉書庫/(4叢書シリーズライブラリー

ぶんこ【文庫】[書名]

文芸雑誌。明治28年(1895)8月創刊、明治43年(1910)8月廃刊。山県悌三郎主宰の投書雑誌「少年文庫」を前身とし、河井酔茗伊良子清白横瀬夜雨ら文庫派とよばれる多くの詩人を育成。

ふみ‐ぐら【文庫】

《「ふみくら」とも》書物を納めておく蔵。書庫。文殿ふどの。ぶんこ。

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図書館情報学用語辞典 第5版 「文庫」の解説

文庫

(1)和語の「ふみくら」に漢字をあてた語.本来は,文献,文書,記録類を保存した書庫.転じて,まとまった蔵書や図書館を指す.北条家の金沢文庫徳川幕府の紅葉山文庫,加賀前田家の尊経閣文庫,近代では,静嘉堂文庫,東洋文庫などが著名.(2)出版形態を指す語として,叢書や全集の類の総称として明治期に用いられた(例:帝国文庫,日本文庫).現在では,小型で携帯に便利な廉価な普及本の総称として用いられている(例:岩波文庫).(3)巡回文庫,自動車文庫,学級文庫など図書館活動の形態やそのコレクションを指したり,あるいは,家庭文庫,地域文庫およびその総称としての子ども文庫を指すこともある.

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改訂新版 世界大百科事典 「文庫」の意味・わかりやすい解説

文庫 (ぶんこ)

本来は書庫の意であるが,転じてまとまった蔵書や図書館をさす。なお,出版界では叢書名に〈文庫〉という名を付することが,近代以来の習慣として行われている。

大宝律令には図書寮のほか文殿,校書殿などの名が見られ,寺社では経を収納する経蔵を有していた。上代の個人文庫の始まりは,奈良時代末期に石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が邸内に設けた芸亭(うんてい)で,奈良県天理市に顕彰碑があるほか,遺構とみられるものが発見されている。ほかに菅原道真の紅梅殿大江匡房の千種(ちぐさ)文庫,日野資業の法界寺文庫などがあったが,火災などで今日に伝わっていない。わずかに平安時代末期から京都冷泉(れいぜい)家に伝わった1200件余,約1万点にのぼる古文書類が伝存され,冷泉家時雨亭文庫として公開されている。鎌倉時代に入ると文庫を持つことができるのは武士階級となり,とくに北条実時から3代を費やして収集された金沢文庫,足利氏の創建した足利学校の文庫などが著名である。室町時代には,明との交易により多数の漢籍が輸入され,とくに東福寺の普門院書庫,同じく海蔵院文庫などが充実していた。近世に入ると,文治政策をしいた徳川家康が,駿河文庫および富士見亭文庫を設け,その遺蔵書を継いだ家光は,1640年(寛永17)ごろ,江戸城内に紅葉山(もみじやま)文庫(桐山文庫ともいう)をつくった。これは将軍専用の図書館であったが,江戸末期には約10万冊に達した。現在は内閣文庫として伝わっている。そのほか近世には水戸の彰考館文庫,加賀前田氏の尊経閣文庫,近衛家の陽明文庫など,大名や藩による文庫のほか,篤学者による文庫,たとえば堀河塾の古義堂文庫,屋代弘賢の不忍(しのばず)文庫などもふえた。これらは上層階級向けの閉鎖的なものだったが,医師板坂卜斎の浅草文庫は,庶民に開放されたものとして特筆さるべきである。近代では,南葵(なんき)文庫,蓬左(ほうさ)文庫,松廼舎(まつのや)文庫,静嘉堂文庫,東洋文庫などが著名。
図書館 →文庫本
執筆者:

文庫 (ぶんこ)

明治時代の文芸雑誌。1895年8月~1910年8月,通巻244冊。1888年創刊の《少年園》から分かれた《少年文庫》が前身だが,小説,評論,詩,短歌,俳句などの投稿誌,新人育成の場として勢力をもつようになり,特に詩人や歌人でこの雑誌を登竜門として,のちに一家をなした者の数はおびただしい。文庫派と別称される河井酔茗(すいめい),伊良子清白(いらこすずしろ),横瀬夜雨(よこせやう),有本芳水(ほうすい),塚原山百合(やまゆり)(のちの島木赤彦)らをはじめ,北原白秋,窪田空穂,三木露風,川路柳虹らの大家たちを輩出した。雑誌の雰囲気は新奇というより温和でクラシックな傾向だったが,明治大正の文学史上に果たした役割は無視できない。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「文庫」の意味・わかりやすい解説

文庫
ぶんこ

(1) 元来は和語の「ふみくら」で,現代流にいえば図書館である。代表的なのは足利文庫や金沢文庫,明治新聞雑誌文庫など。また,その文庫に所蔵される書物をも文庫と呼び,蔵書一般をもさすことがある。 (2) 近代的な出版業が興った明治期には,帝国文庫,日本文庫など,叢書や全集の類の総タイトルとして用いたことがある。しかし 1903年冨山房が,芳賀矢一のアイデアでドイツのレクラム文庫をまねて,袖珍名著文庫を出版しはじめた頃から,小型で安い普及本を「文庫本」または「文庫」と呼ぶようになった。 11年に登場した立川文庫がその代表である。 27年岩波書店が,三木清の協力と創意で再びレクラムに範をとって,古典中心の岩波文庫を創刊してから,文庫の判型 (最初は菊半截判,現在は A6判) が定着し,28年の新潮文庫,29年の改造文庫,第2次世界大戦後の角川文庫など次々と創刊された。

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百科事典マイペディア 「文庫」の意味・わかりやすい解説

文庫【ぶんこ】

(1)書物を収蔵する場所。書庫,図書館。金沢文庫など。(2)ある主題または個人の趣味で集められた図書のコレクション。岩崎文庫(岩崎家の集書),東洋文庫などはその例。(3)文庫本の略称。

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世界大百科事典(旧版)内の文庫の言及

【書庫】より

…書物を保存格納しておく倉庫。〈文庫〉ともいい,古くは〈文殿〉〈経蔵〉などとも称した。これに相当するラテン語,英語bibliotheca,ドイツ語Bibliothek,フランス語bibliothèqueなどはいずれもギリシア語bibliothēkēにもとづく。…

【図書館】より

…人類の知的所産である図書をはじめとする記録情報を収集・蓄積し,利用しやすい形に整序あるいは加工して,求めに応じて検索し,利用に供する社会的機関をいう。かつて日本では,〈文庫〉〈書籍館〉の名でも呼ばれたが,近年は情報のデータベースとしての役割も果たすところから〈情報センター〉とも呼ばれる。 〈図書〉という言葉は《易経》繫辞伝に〈河は図を出し,洛は書を出す,聖人これに則る〉とあるように河図洛書(かとらくしよ)を指す。…

【投書】より

…明治30年代前半には,はがき投書が流行した。1枚のはがきに各階層の読者が公憤や私憤をあらわし,《文庫》(1895創刊)に代表される投書雑誌も隆盛であった。しかし投書は新聞の企業化とともに衰退していく。…

※「文庫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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