うち‐い・ず ‥いづ【打出】
① 物かげなどからひょいと出る。うちず。
(イ) 見通しのきく所へ出る。
※万葉(8C後)三・三一八「田児の浦ゆ打出(うちいで)て見れば真白にそ不尽(ふじ)の高嶺に雪は降りける」
(ロ) 姿を現わす。現われる。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「うちいでてずんじ給ふこゑ、いとおもしろし」
② さっと出る。ぱっと立つ。うちず。
※
古今(905‐914)春上・一二「谷風にとくる氷のひまごとに打出
(うちいづる)なみや春のはつ花〈源当純〉」
③ 勢いよく出発する。特に、
軍勢が進み出る。うちず。
※発心集(1216頃か)五「すずろに馬にうちのりて打出にけり」
※平家(13C前)一〇「平太入道定次を大将として〈略〉近江国へうち出たりければ」
④ 敵の中へ勢いよく進み入る。うって出る。うちず。
※
太平記(14C後)七「すはや城の中より打出たるは。是こそ敵の運の尽くる処の死狂
(しにくるひ)よ」
[2] 〘他ダ下二〙
[一] たたいて音や火などを出す。
※源氏(1001‐14頃)篝火「弁少将、拍子うちいでて」
[二] (「うち」は接頭語)
① ひょいと出す。特に、出衣
(いだしぎぬ)をする。うちいだす。→
出衣。
※宇津保(970‐999頃)国譲中「黒つるばみの御こうちぎうちいでて、見せ奉り給へり」
② ひょいと口に出す。また、声をあげて唱える。うちいだす。
※竹取(9C末‐10C初)「さきざきも申さんと思ひしかども〈略〉さのみやはとて、打いで侍りぬるぞ」
③ 文字や模様に表わす。
※
紫式部日記(1010頃か)寛弘五年九月一九日「白銀の
御衣筥、海浦
(かいふ)をうちいでて」
うち‐だ・す【打出】
〘他サ五(四)〙
① 打って物を出す。また、撃って弾丸などを飛び出させる。
※虎明本狂言・
夷大黒(室町末‐近世初)「たからを打出すうちでの
こづちも汝にとらせ」
※趣味の遺伝(1906)〈
夏目漱石〉二「覘
(ねらひ)を定めて打ち出す機関砲は」
② 打ち始める。
※俳諧・星会集(1709)「草むらに寐所かゆる
行脚僧〈丈草〉 明石の城の太鼓うち出す〈
去来〉」
※
洒落本・深川手習草紙(1785)序「打出す太皷に数万の
見物」
④ 金具などを裏から打って、模様を表面に浮き出させる。また、色ガラスで模様を浮き出させる。
※三四郎(1908)〈夏目漱石〉一二「表に模様が打ち出してあったり」
⑤ 検地をして地積を増す。
※
日葡辞書(1603‐04)「アノ ヒトワ バクチデ タカラヲ vchidaita
(ウチダイタ)」
⑦ (「うち」は接頭語) 勢いよく出す。外側に突き出す。
※天草本平家(1592)四「シャウゾンワ タダイマ モノマイリト マウシテ vchidasu(ウチダス)」
⑧ (「うち」は接頭語) ひょいと口に出す。また、はっきりと主張などを示す。
※実悟旧記(16C)「わが
心中をば同行の中へうち出してをくべし」
うち‐いだ・す【打出】
〘他サ四〙
① (「うち」は接頭語) ひょいと出す。何かを出す。
② (「うち」は接頭語) 特に、出衣(いだしぎぬ)をする。うちいず。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「『これが心見解(みと)き給ふ人ありや』とてうちいだし給へば」
③ (「うち」は接頭語) ひょいと口に出す。また、声をあげて唱える。うちいず。
※宇津保(970‐999頃)国譲上「すずろなるこゑをうち出し給へば」
④ (「うち」は接頭語) 軍勢を進撃させる。
※日葡辞書(1603‐04)「ニンジュヲ vchijdasu(ウチイダス)〈訳〉戦闘のために兵を繰り出す」
⑤ (「うち」は「打つ」意) 鍛えたり、うちつけたりして作り上げる。
※太平記(14C後)一三「雌雄の二剣を打出せり」
⑥ (「うち」は「打つ」意) 打つような動作をして物を出す。
※御伽草子・一寸法師(室町末)「まづ打出の小槌を濫妨し〈略〉まづまづ飯をうちいだし」
⑦ (「うち」は「打つ」意) 打ちたたいて追い出す。
※説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)一三「もったる、は
うきで、うちいたす」
⑧ (「うち」は「撃つ」意) 銃砲などを撃って弾丸を飛び出させる。
※近世紀聞(1875‐81)〈
染崎延房〉五「大砲数発打出
(ウチイダ)して」
うち‐だし【打出】
〘名〙
① うちだすこと。
④ 模様など裏から打って表面へ浮き出させるのに用いる型。打出し
細工。また、そのような細工を施したもの。
※アリア人の孤独(1926)〈
松永延造〉一「天井はエナメル塗りの打ち出しブリキ板で張られ」
⑤ 江戸時代、検地によって地積の増加すること。従来より短い竿を使って検地したときや、隠田の発見などにより生じた。農民はその分の
年貢を増徴されたが、
寺社や給人の場合は増加した土地は没収された。打出し高。出目
(でめ)。竿延
(さおのび)。増分
(ましぶん)。〔地方凡例録(1794)〕
⑥ 一日の興行の終わり。劇場や相撲などで、終演と同時に大太鼓を打ち出すところからいう。はね。転じて、物事を終えること。お開きにすること。
※雑俳・柳多留‐二(1767)「うち出しの頃あわ雪はくずをねり」
※洒落本・青楼五雁金(1788)一「座敷のうち出(ダ)しとしよふ」
うち‐いで【打出】
〘名〙
① 金、銀、銅などをたたいて箔に延ばすこと。
※七十一番職人歌合(1500頃か)三一番「薄(はく)うち。なんりゃうにてうちいでわろき」
② 打出の衣(きぬ)。また、打出の衣をおし出すこと。
※栄花(1028‐92頃)御裳着「大宮の女房、寝殿の南より西までうちいでしたり」
ぶん‐だ・す【打出】
〘他サ四〙 (「ぶん」は接頭語)
① 言い出す・うたい出すを強めていう俗語的表現。
※滑稽本・仁勢物語通補抄(1784)「名ぬしさまいざこととはんみやこ鳥むめわかさんはどこに御座るぞとぶんだしければ」
② 勢いよく出す。うちだす。
※雑兵物語(1683頃)下「鉄炮の鞘の小尻からひっかいた鼻をふんだいたれば」
うち‐で【打出】
〘名〙
① 打ち出すこと。また、作り出されたもの。うちいで。
うち‐・ず ‥づ【打出】
※和泉式部日記(11C前)「うきによりひたやごもりとおもふともあふみの海はうちでてを見よ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「打出」の意味・読み・例文・類語
うち‐で【打(ち)出】
1 打ち出すこと。作り出されたもの。
2 「打ち出での衣」に同じ。
「藤壺の上の御局に、つぶとえもいはぬ―どもわざとなくこぼれ出でて」〈大鏡・師輔〉
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打出
うちだし
検地によって地積、石高(こくだか)を増加させること。出目(でめ)、竿余(さおあまり)ともいう。『地方凡例録(じかたはんれいろく)』によれば、「古検の村新検になれバ、間竿(ケンザオ)の寸尺差(タガ)ふに付、打出しの出歩(デブ)あり」とある。1594年(文禄3)島津領の太閤(たいこう)検地は石高57万石余を確定し、1591年(天正19)の高21万石余に対し6割強の打出をみている。江戸幕府成立期、幕府は従来の間竿6尺3寸を6尺1寸に短縮し、越後(えちご)国(新潟県)頸城(くびき)郡箱井の検地では文禄(ぶんろく)年間(1592~96)の高46石余に対し、その5割にあたる打出を行っている。そのほか、打出は、隠田(おんでん)の摘発や新田開発によっても生じ、これらは農民の年貢増徴をもたらし、百姓一揆(いっき)の原因になる場合もあった。
[北島万次]
『大石慎三郎校訂『地方凡例録』(1969・近藤出版社)』
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例