精選版 日本国語大辞典 「惑」の意味・読み・例文・類語
まど・う まどふ【惑】
〘自ワ五(ハ四)〙 (古くは「まとう」)
① どの道を進んだらよいかわからなくなる。道に迷う。あちこちする。
※万葉(8C後)四・六七一「月読(つくよみ)の光は清く照らせれど惑(まとへ)る心思ひあへなくに」
③ どうするという考えもないうちに、まごつきながら行動する。あわてる。狼狽する。
④ あれこれ難儀する。苦労する。苦しむ。なやむ。
※落窪(10C後)二「その胸をやみ給ひし夜は、いみじうまどひて」
⑤ 髪などが乱れる。ほつれる。
※狭衣物語(1069‐77頃か)二「御髪の久しう梳(けづ)りなどもせさせ給はねど、まどへる筋なくゆらゆらとして」
※伊勢物語(10C前)一〇七「案を書きて、かかせてやりけり、めでまどひにけり」
まどわ・す まどはす【惑】
〘他サ五(四)〙 (古くは「まとわす」)
① まぎれて、わからなくする。見失う。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「入りぬれば影も残らぬ山の端に宿まどはしてなげく旅人」
② 正常な思惟が働かないようにさせる。分別できないようにさせる。考えを乱す。途方に暮れさせる。
③ 困惑させる。難儀させる。苦しめる。
※万葉(8C後)二・一九九「渡会(わたらひ)の 斎の宮ゆ 神風に い吹き或之(まとはシ)」
④ だます。欺く。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「亦た是れ聖上を誣(マトハシ)かけつ」
まどい まどひ【惑】
〘名〙 (動詞「まどう(惑)」の連用形の名詞化。古くは「まとい」) まどうこと。まよい。また、その人。
※万葉(8C後)六・一〇一九「石の上 布留の命は たわやめの 或(まとひ)によりて」
※土井本周易抄(1477)四「此間民のまどいが久しい程に漸々に正せぞ」
わく【惑】
〘名〙 仏語。煩悩のこと。迷いのもととなるもの。修行してさとりを開くのにさまたげとなるもの。
※勝鬘経義疏(611)歎仏真実功徳章「金剛心起断レ惑斯尽」 〔倶舎論‐九〕
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