性格心理学(読み)せいかくしんりがく(英語表記)personality psychology

最新 心理学事典 「性格心理学」の解説

せいかくしんりがく
性格心理学
personality psychology

本項では,personalityの訳語に性格を当てたが,伝統的には,性格はcharacterの訳語として早くから定着し,後から導入されたpersonalityには人格の訳語を当てざるをえなかった。そこで,personalityをパーソナリティとカタカナ表記する一方,人格は「人格者」ということばのような価値的側面は含まないとするなど,訳語に関するその後の混乱を招いてきた。また,類似概念として,気質temperamentも使われているが,これは性格の生得的・感情的側面を指すことが多い。性格心理学は,人の全体的・統合的理解と時や場所を超えた一貫性や独自性,したがって個性といわれるような個人差individual differenceについて研究する心理学の一分野である。その成果は人の行動や認知,感情などの理解と予測,さらには精神病理の解明や治療などに役立てられてきた。反面,性格諸理論間の矛盾も認められ,また実験心理学を主流とする心理学史の中で,つねに異端としての役割を果たしてきた。

【性格心理学の問題領域】 パービンPervin,L.A.は,性格研究が取り扱っている問題領域として,①人間に共通する普遍性とは何か,②個人差に関するカテゴリーや次元は何か,③他者とは違う独自な人としての個人の独自性は何か,という三つの課題があるという。マクアダムスMcAdams,D.P.は,性格心理学者に共通する特徴として,①人びとが相互に異なる一貫した個人差,②人間の行動や経験の内的なエンジンとしての動機づけmotivation,③一個人の複雑な生活全般が扱え,統合的な概念としての全体論holismがあり,これらを問題にするとしている。また,ライクラックRychlak,J.F.は,性格心理学の説明に使われる原因論は,アリストテレスAristotelesの四原因説にさかのぼることができるとしている。これら四原因とは,質料因,作用(動力)因,形相因,目的因を指す。

【性格心理学の諸理論】 性格研究の諸理論について,オルポートAllport,G.W.は『パーソナリティ――心理学的解釈』(1937)において,広く多くの研究者の業績を引用しながら,パーソナリティの異なる49の定義を挙げ,それらの長所を吸収する自らの立場を折衷主義eclecticismと称している。彼の定義は,心理・物理的psychophysical体系としての個人のうちにある力動的体制dynamic organizationであって,その人に特有な行動と思考とを規定するものとしている。また,オルポートは心理学がもしも自然科学に全面的に追随するならば,心理学に固有な課題の半分を見落とすことになるとして,心理学には一般的・普遍的な法則を求める法則定立的な研究と,個人を理解し,独自性をとらえる個性記述的な課題が共存するとしている。ミッシェルMischel,W.,正田祐一,アイダックAyduk,O.は,性格理論と分析レベルには,①一貫した個人差ないしタイプを特徴づける特性・性質レベル,②生物的存在としての人間の特徴と適応にかかわる生物学・生理レベル,③情動や恐れと葛藤や無意識にかかわる精神力動的・動機づけレベル,④個人を特徴づける行動パターンの形成や変化にかかわる行動・条件づけレベル,⑤自己理解や主観的経験にかかわる現象学的・人間性レベル,⑥個人の特徴的な考え方や情報処理の仕方にかかわる社会認知的レベルの六つから構成されていると考え,各レベルを学ぶことによってパーソナリティの豊かさと複雑さを理解できるとした。また,前述したマクアダムスらは,性格を表わす多くの構成概念は三つのレベルないし領域domainsに分類できるという。これらは,①ビッグ・ファイブBig Five(性格の5大因子)やキャッテルCattell,R.B.のパーソナリティの15特性などの傾性的特性dispositional traits,②動機,目標や計画,価値と信念など特定の状況や社会的役割にかかわる特有な適応characteristic adaptations,③過去を再構成し,将来を想像することによって,生活に意味や統一性と目的を提供する統合的生活物語integrative life storiesがあり,大部分の性格にかかわる構成概念はこれら三つの領域ないしレベルに分けられるという。クロンバックCronbach,L.J.とミールMeehl,P.E.は,研究発見の法則的ネットワークnomological networkにこれらの諸概念を相互に位置づけることで,性格概念の全体的な有用性と妥当性が広がりと豊かさをもつようになると言う。

 ジンバルドーZimbardo,P.G.とゲーリックGerrig,R.J.は,性格研究とその理論が人の個人差と多様性にかかわることから,心理学のすべての理論が性格研究とかかわり,理論に個人差変数を組み込んでいるといってよく,これらには生物学的・精神力動的・行動科学的・人間学的・認知的・進化論的・文化的な諸理論があり,そこでは人間性の見方なり多様性が扱われているとしている。以下に,性格の主な理論に限って,諸理論の性格のとらえ方について説明する。

 類型学typology 類型学ないし性格タイプpersonality typeは人をなんらかの理論ないし基準によって分類し,いくつかの典型例によって,性格を理解し説明しようとする考え方。歴史的には,古代ギリシアにおけるヒポクラテスHippocratesの四体液説やガレノスGalēnosの四気質説,テオフラストスTheophrastosの『人さまざま』が示した性格の洞察と類型にまでさかのぼることができる。また,性格についての心理学の類型的研究は精神医学から多くを学んでいる。類型学の代表としては,クレッチマーKretschmer,E.,シェルドンSheldon,W.H.,ユングJung,C.G.,フロムFromm,E.,ホーナイHorney,K.,シュプランガーSpranger,E.,さらにディルタイDilthey,W.などが挙げられる。注意すべきは,気質類型学はおとなの病理モデルが中心であったが,新生児・乳幼児を対象とした気質研究からは,気質は性格の初期値と考えられ,気質は変わるとの結果が導かれていることである。また,類型学といえば各類型の典型例に目が行きがちであるが,分類の次元に焦点を当てるべきだとの主張がなされている。

 特性論trait theory 特性論ないし性格特性personality traitにおける特性traitとは行動傾向やそのまとまりを指し,特性を性格の構成単位とみなして性格を記述,説明しようとする。しかし,20世紀に入って新たに特性論を主張したオルポートによれば,特性とは性格の基本となる反応傾向であり,それは直接観察することはできないが,行動から推測的に構成される構成概念であるとした。これには多数の人間に共通する共通特性common traitと,ある個人に独自な特徴を与える個人特性individual traitがあるが,厳密な意味では個人特性のみが真の特性であるとしている。オルポートの考え方を引き継いで,統計的な因子分析の手法を用いて,特性論をより客観的に精緻化したのがキャッテルである。キャッテルの理論では,特性を階層化して性格の構造を示し,16PF(The sixteen personality factor questionnaire)という性格検査を作成している。代表的な特性論者には前記のほかに,アイゼンクEysenck,H.J.やビッグ・ファイブ理論のゴールドバーグGoldberg,L.R.などが含まれる。特性論は類型学と対比的にとらえられることが多いが,特性論が性格をさまざまな特性から構成される量的な違いとして表現するのに対して,類型学は性格を全体としてまとまりをもった普遍的なものとして理解しようとしているといえる。また,後者はヨーロッパの,前者はアメリカの伝統を引き継いでいるとされる。

 力動心理学dynamic psychology 心理学的な力動論は,個人の内面のダイナミックな力関係から人間の傾向性や性格の形成過程を説明するという考えに立つ。この立場の代表としては,フロイトFreud,S.の精神分析(精神力動論),ユングの分析心理学,さらにレビンLewin,K.のパーソナリティの力学説が該当する。いずれも性格の構成要因間の力動的関係で性格が決まると考える特徴がある。フロイトの性格理論は,ヒステリーを主とする患者の治療過程から着想した無意識,抑圧,防衛機制などの心的装置を基に,エス(またはイド),自我,超自我の3者間の力動関係として理論化した。フロイトの力動論は幼児性欲論から発展して,発達期のそれぞれに固着すると特徴的な性格が現われるとした。ユングは,無意識を個人を超えて存在する民族としての集合的無意識に拡大し,民族の神話に共通する潜在的な構造としての元型archetypeを考えた。ユングの力動論は,意識と無意識の相互関係を扱っているといってもよく,意識に対する無意識の補償作用compensationを考慮している。人間には二つの一般的態度があり,関心が内界に重きをおく内向型introvert typeと,外界の事物や人に向けられる外向型extrovert typeを中心とする性格理論を提唱したことから,類型学として位置づけられることも多い。レビンは,人と環境から成る生活空間を緊張体系としてとらえ,行動は平衡状態を回復する方向に向かうと考えた。そこでは,パーソナリティは人と環境構造の分化による発達や後戻り(退行)ととらえ,フラストレーション下では遊びの構造性constructivenessが減少するなどの分析結果から,理論を検証している。フロイトとレビンは,人の性格の内部構造と外界の要因間の力学的関係に焦点を当てたことで共通しているが,フロイトは行動の原動力としてリビドー(本能的衝動)に,レビンはトポロジカルな場の力動論に依拠した点に違いがある。

 役割理論role theory 性格の役割理論とは,性格と性格形成を説明するうえで,社会的役割が重要であると考えることにあるが,役割は性格に限らず,社会構造,文化,人間関係,相互作用などの説明や分析に欠かせない概念でもある。ミードMead,G.H.は役割理論を最初に体系化しているが,そこではシンボル相互作用論symbolic interaction theoryによって,役割が個人の内面にいかに定着していくかについての役割取得メカニズムを自我の形成過程との関連で理論化している。ミードは精神mindも自我selfも社会的産物であり,社会的行為が精神の先行条件であると考え,相互作用の過程から役割や自我を引き出した。サービンSarbin,T.R.はこのような理論的傾向を引き継ぎながら,自我は他者との交流の体験から生じてくる独自性をもった現象的経験であるとし,ある地位におかれていることから遂行しなければならない義務的行動と,その地位にあるがゆえに行ないうる権利的行動とを含む。そこでは地位に伴う役割期待の知覚があり,そして,取得した役割を実際の行動へと実現していく役割取得の過程としてとらえている。この過程で,とくに役割期待を知覚することが,自己・自我の形成に直接結びつくとする。リントンLinton,R.は,最も単純な社会でも,少なくとも五つの地位があり,これらには年齢と性別,職業,威信としての上下関係,家族・氏族または世帯集団,結社集団による地位があり,この役割に基づいてわれわれは多くの行動を取るが,その際の心理的過程または状態を地位パーソナリティと名づけ,同じ地位を占める人間の間には共通したパーソナリティが生まれるとしている。

 現象学的自己理論phenomenological self theory ロジャーズRogers,C.R.の現象学的自己理論とその系譜を引く,性格の社会構成主義social constructionismに基づく自己理論と治療理論が該当する。ロジャーズは,自らの著作『クライエント中心療法Client-centered Therapy』(1951)に,パーソナリティ理論の19命題を掲げている。その中には,人間は場に対して経験され知覚されるままに反応するが,この知覚は個人にとって実在する。人間は,体験を歪曲せずに現実化したいという基本的な傾向と渇望をもっている。そして,行動を理解する最も有益な視点は,その人間自身の内的判断基準(内部的照合枠)から得られると記されている。そこから,各人の知覚的世界とは,客観的世界よりも主観的・意味的世界を知ることが個人の理解には重要だとの考えが導かれた。ロジャーズはクライエント中心カウンセリングを提唱したことで知られているが,クライエントclientとは依頼人,来客の意味で,「来談者」と訳されている。何がその人を傷つけているのか,どの方向へ行くべきか,何が重大な問題なのか,どんな経験が深く秘められているのか,などを知っているのはクライエント自身であるとの考えに基づいている。これらの考え方からロジャーズらの自己理論は,人間性心理学humanistic psychologyともよばれている。しかし,ロジャーズらの成長論は,人間の成長・発達を植物の生長アナロジーで語っているとの批判から,社会構成主義による後述のナラティブ・セラピーが提唱された。そこでは,近代のモデルは普遍的な成長・発達を想定しないため,頭の中の知識から,個人ではなく共同体こそが知識生成の場を成すという発想に移るとして,ナラティブ・セラピーなどの新たな実践方法を提示している。

 人-状況論争person-situation debate ミッシェルが問題視したのは,行動の規定因としての状況要因の軽視に対してであるが,それとともに,特性論や力動心理学が主張する性格概念が内的な実態として扱われてきたことや,質問紙法などによる性格の測定結果と現実の行動評定の相関係数がせいぜい0.3程度と低いことを疑問とした。ミッシェルの問題提起に対しては,さまざまな反論が行なわれた。マグヌセンMagnusson,D.とエンドラーEndler,N.S.は,一貫性はパーソナリティ概念そのもので,一貫性にはいくつかの種類があるが,その一つに継時的安定性temporal stabilityがあり,たとえば認知スタイル・帰属スタイル・催眠感受性などは,発達過程を通じてかなりの安定性を示す。また,通状況的一貫性cross-situational consistencyについては,コヒアランスcoherence(首尾一貫性),すなわち人と状況との相互作用によって行動は決定されるが,行動の安定性と変化が秩序立てて行なわれている限り,また予測可能な限り,一貫性として認められると考えた。この立場は,相互作用論interactionismの基本仮説とされている。行動は個人と状況との相互作用あるいはフィードバックの関数であり,個人は,この相互作用の過程における意図をもった能動的なエージェントで,相互作用を個人の側から見れば,認知的・動機づけ的要素が決定因であり,状況の側から見れば,状況が個人にとってどのような意味をもつかが決定因になると考えた。人-状況論争を踏まえて,ビッグ・ファイブモデルが新たに性格理論のある程度の共通性と普遍性を保証したことから,その根拠を探す遺伝学的・進化論的研究,人間が状況を選んだり維持したり変えようとする自己制御などの研究を活発にした。特性概念あってこその性格心理学といえる。

【統合理論と分析レベル】 マクアダムスは,全人的人間の統合科学のための5大原理を示している。原理1:進化と人間性 ヒトとしての種に特有な特性は進化の産物であり,遺伝子の複製と自然淘汰による。原理2:特性次元 オルポート以来の特性次元として,行動・思考・感情の通状況的・時間的アウトラインを示す。ビッグ・ファイブはここに位置づけられる。原理3:特有な適応 時代・状況・役割に関連づけられた動機や認知,目標,戦略,自己イメージなどの違いを意味する。原理4:生活物語と現代のアイデンティティへの挑戦 自身の生活を物語として解釈し,個性的で文化に根ざした意味を与える。原理5:文化への特異的な役割 文化は特性表現において要求特性や表現ルールを用意し,物語の選択は文化と人の関係を説明する。五つの原理は心理学や行動科学のディシプリンdiscipline(学範)を整え,性格心理学の歴史的な任務を復活させるという。また,オルポートとマレーMurray,H.A.は,性格心理学が生物心理学から臨床的な実践に至るまでを統合するかもしれないとしていたが,これらの原理はそれに当たると主張している。最近,ミッシェルらは,発見や原理を統合する枠組みとして,認知的・感情的パーソナリティ・システムcognitive-affective personality system(CAPS)を提唱しているが,これはパーソナリティ・システムの包括的モデルをめざし,すべての分析レベルの発見や原理を統合するための枠組みとしての提案である。同様の試みの一例は,ロータッカーRothacker,E.の層理論layer theoryに求めることができる。ロータッカーは生物学,解剖学,脳病理学,発達心理学,民俗学などの幅広い研究成果をよりどころに層理論を発展させた。オルポートは層理論に対して,異なる哲学的立場に立つ実証的研究に対して洞察とアイデアを提供していると評価している。

【対象と方法】 新しい研究法が学問の独立を促し,研究の発展を先導してきた歴史から,パービンとセルボーンCervone,D.は,性格研究法としてケース・スタディと臨床的研究,相関研究と質問紙法,実験研究を取り上げて,おのおのの長所と短所について論じている(表)。ここでは,もう少し広い視点から,以下の八つの研究法および指標について述べる。

 実験法experimental method 実験法は,独立変数を体系的に操作して,従属変数の変化を検証することで,両変数の因果関係を推測でき,適応や行動改善に役立てられるという特色がある。仮説を検証したいと考えるなら,実験的手法を用いる必要がある。このような条件を満たした,性格ないし個人差の実験研究としては,アイゼンクが行なった内向性の方が外向性より条件づけやすいとの仮説の検証,ロッターRotter,J.B.による内的統制と同調行動,外的統制とギャンブルや喫煙の関係,ほかに各種の生理的指標を用いたストレス研究,視覚的絶壁課題における回避傾向と気質との関連など,さまざまな実験が工夫されている。しかし,実験法の前提として,性格そのものというより,選択された性格のある側面に焦点を当てた構成概念の操作的定義に基づいた研究が行なわれている。

 検査法test 心理検査(心理テスト)psychological testとは,ある人の行動を観察し,それを一定の数量尺度またはカテゴリーによって記述する系統的手続きである。ここで行動というのは,ことばによる反応,筆記された応答,身体の動き,生理的な反応,さまざまな実験装置に対する反応動作のことである。クロンバックはまた,心理検査を最大量の遂行を見る能力検査と,いろいろな生活場面での典型的動作を発見しようとする性格検査に2大別した。表わしている数値の信頼性を高め,妥当性(尺度特性)を明確にし,実施と採点の手続きを客観化し,基準尺度を構成するという4条件を明確にすることを標準化standardizationという。性格検査personality testは質問紙に対する自己記入式が一般的であるが,社会的認知の二過程説を受けて非意識的な認知処理が仮定されるに及び,潜在連合テストimplicit association test(IAT)が考案さている。前者は顕在テスト,後者は潜在テストと位置づけられている。

 個性記述法idiographic method 心理学の研究法を普遍的な性格の特徴をとらえようとする法則定立的アプローチnomothetic approachと各人に特有な性格を記述しようとする個性記述的アプローチidiographic approachの二つのアプローチ(研究法)に分けたのはオルポートであったが,ここで個性記述とは,定性的アプローチの一つで,事象の一回性,個別性を強調し,個の全体的な把握をめざすものとされている。近年の性格心理学では,法則定立的アプローチとの融合が図られており,たとえばケリーKelly,G.A.の役割構成レパートリーテストrole construct repertory test,通称Rep testは個を記述するアプローチとして著名なものであるが,結果の処理に多変量解析を用いることがある。

 生理的指標biological response 性格研究の生理的指標としては,睡眠と意識レベルならびにいくつかの精神疾患の測定に用いられる脳波electroencephalogram,精神感動の指標とされるEDA(electrodermal activity),ストレスや不安の生理・身体指標としての冠状動脈性の心疾患coronary heart disease(CHD),脳の活動部位を3次元のカラー画像で示す機能的磁気共鳴画像functional Magnetic Resonance Imaging(fMRI)などがある。これらは心理的・主観的現象に対する客観的・生理的指標として,心理的研究結果をより確かなものとすべく多様な生理的指標が使われている。その背景として,人間は紛れもなく生物であり,かつ進化する存在であるとの前提がある。

 観察法observation method 人間や動物の行動を自然な状況や実験的な状況のもとで観察,記録,分析し,行動や意識の質的・量的な特徴や法則性を解明しようとする方法である。しかし,性格研究で観察法を用いる場合,対象とする性格や行動が観察できるような場面をどのように選択,設定するか,観察指標と性格をどのように対応づけるか,またその妥当性をいかに検証するか,などの問題点が指摘できる。

 面接法interview method 被面接者と対面しながら必要な情報を収集する方法で,ケース(事例)研究を主体としており,双方向的なやり取りを行ないながら語ったことばを主な資料として,対象者の内面について理解しようとする。そのため面接は,目的をもった会話といわれることがある。性格心理学と関係が深い面接法としては,ロジャーズのクライエント中心療法があるが,何が重大な問題なのか,どんな経験が深く秘められているかなどを知っているのはクライエント自身であるとの考えに基づいている。面接の中で語られる内容は,一見,語る側の自由のように見えるが,聞く側との関係に大きく規定されている。なぜなら,面接場面で開示した自己が他者から批判されたりすることは,被面接者にとって恐ろしいことで,対象者とのラポールrapport(疎通性)の形成が必要とされる。

 双生児法twin method 双生児法は個人差に及ぼす遺伝要因と環境要因,あるいは発達における成熟要因と学習要因の寄与率を明らかにする方法である。双生児には一卵性と二卵性の2種類があり,前者は遺伝的に100%等しく,後者は普通の兄弟・姉妹と同じで平均して50%の遺伝子を共有するところから,一卵性の行動特徴が二卵性より類似している場合に遺伝的影響があると推定する。ビッグ・ファイブの双生児相関を見ると,いずれの次元を取っても一卵性の類似度が上回り,遺伝の影響が示唆された。また,能力差に寄与する環境は,兄弟・姉妹に共通する共有環境であるのに比して,パーソナリティ特性に寄与するのは,兄弟・姉妹間で異なる非共有環境によって引き起こされる影響が大きいことが示された。プロミンPlomin,R.らは,これらの成果を行動遺伝学として体系化した。

 自己物語法self-narrative method ヘイニネンHanninen,V.は,われわれが自分自身に語る物語には,過去の意味の理解を促し,未来の展望を提供し,個人の物語的アイデンティティを定義し,価値観や倫理基準を明確化し,情動の調節を助ける機能があるとしている。また,自己物語とは,人は生き直せないが,語り直せるとの立場から,一種の治療法として,自己を語り直すことによるナラティブ・セラピーnarrative therapyも行なわれている。自己物語は,トーン(人生初期の情緒的な調子,信頼か不信か),イメージ(ファンタジーに基づいた未加工の材料,自己像や未来展望),テーマ(現実的な目標や到達見通し)を素材として,人生物語に筋をつける過程とされ,語るたびに変化してゆくとされる。それは他者との対話の中で生成・構成されて,自分なりに編集した物語であり,現時点を結末にして,現在から過去に向かって構成されている質的な研究手法である。 →観察法 →気質 →現象学的自己理論 →自己物語法 →実験法 →質問紙法 →人格 →性格検査 →性格発達 →生物・進化論 →相互作用論 →投映法 →特性論 →力動心理学 →類型学
〔杉山 憲司〕

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