(読み)あれ

精選版 日本国語大辞典 「彼」の意味・読み・例文・類語

あれ【彼】

〘代名〙 (中古以後用いられた)
[一] 他称。話し手、聞き手両者から離れた事物、人、場所、過去の出来事などを指し示す(遠称)。あ。
① 事物を指し示す。
※枕(10C終)一五二「親の来たるに所得て『あれ見せよ、やや、はは』などひきゆるがすに」
浄瑠璃曾根崎心中(1703)「あれじゃ何も話されぬ。わしがするやうにならんせ」
② 人を指し示す。
※宇津保(970‐999頃)国譲中「あれはあらぬ人ぞよ」
源氏(1001‐14頃)総角「わが身にては、またいとあれがほどにはあらず」
③ 場所を指し示す。
平家(13C前)九「あれに見え候、粟津の松原と申す」
④ 過去の出来事を指し示す。
蜻蛉(974頃)中「あれより四日、れいの物忌みとかあきて、ふたたびばかりみえたり」
⑤ はっきり言いたくないことやうまく言えないことなどを指す。
※桑の実(1913)〈鈴木三重吉〉八「その積りで麺麭も余計にあれしたんですから」
⑥ 性的な事柄や性行為を、遠回しに指す。
※安吾巷談(1950)〈坂口安吾〉東京ジャングル探検「懐中電燈がパッと光ると、そこには必ずアレが行われているのだから」
⑦ (It の訳語) 昭和初期の流行語。性的魅力をいった俗語。→イット。〔モダン用語辞典(1930)〕
[二] 他称。相手側に属し、話し手から離れた事物、人、場所などを指し示す(中称)。
① 事物を指し示す。
※延慶本平家(1309‐10)五本「いかに佐々木殿遅れおはし給ぞ。あれは生喰と見候はいかに」
② 人を指し示す。
※枕(10C終)八「あれはたそ顕証(けそう)に」
③ 場所を指し示す。そこ。あそこ。
※光悦本謡曲・善知鳥(1465頃)「なふなふあれなる御僧に申べき事の候」
[三] 対称。あなた
※宇治拾遺(1221頃)一「侍、あれはいかなる御坊ぞと問ひければ」
[語誌](1)古くは「これ」対「かれ」、「こなた」対「かなた」のように、近称「こ」対遠称「か」の対立が中心的であった。平安時代に「あ」「あれ」が現われ、しばらくは「か」「かれ」と共存して、おおむね、「あ」「あれ」は現場にない対象、「か」「かれ」は現場に見える対象のように使い分けられていたものと考えられる。中世に入ってしだいに「か」「かれ」が衰退し、遠称はもっぱら「あ」「あれ」が担当することとなった。
(2)近世以後は(二)の用法は「それ」「そこ」等「そ」の領域と認められるようになった。
(3)(三)の対称の用法は(二)から派生したもので、現代語の「あなた」がこの用法の痕跡として認められる。

かれ【彼】

[1] 〘代名〙
[一] 他称。
① 話し手、相手両者から離れた事物・場所・方角・時・人などをさし示す(遠称)。
※万葉(8C後)一八・四〇四五「沖べより満ち来る潮のいやましに吾(あ)が思(も)ふ君が御船かも加礼(カレ)
② 話し手、相手以外の人をさし示す。明治期まで男にも女にも用いた。
※万葉(8C後)一一・二五四五「誰そ彼(かれ)と問はば答へむすべをなみ君が使を帰しつるかも」
※信長公記(1598)一二「下女一人候つる。かれには、うつくしき小袖をとらせて」
男性をさす。「彼女」とともに、西欧語の三人称男性代名詞の訳語として一般化したもの。→「かのじょ(彼女)」の語誌。
※和英語林集成(初版)(1867)「Kare(カレ)ヲ ニクム モノガ オオイ」
④ 人以外の身近に感じられる生物や事物をさす。
※良人の自白(1904‐06)〈木下尚江〉後「嗚呼平民社、彼も亦た日露戦争の産児なりき」
[二] 対称。相手をさしていう語。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「三人の人問ひていはく『かれはなむぞの人ぞ』。俊蔭答ふ『日本国の王の使清原の俊蔭なり。ありしやうは、かうかう』といふ時に」
[2] 〘名〙 ((一)(一)③から転じて) 恋人である相手の男性。彼氏。
[語誌](1)三人称(他称)の代名詞として上代から存在するが用例は少なく、事物・人ともに指示した。「かれ」も含めてカの付く指示語は、コの付く指示語から分化したものといわれる。
(2)→「あれ」の語誌

か【彼】

〘代名〙 他称。
① 遠称。話し手、相手の両者から離れた物や人をさし示す。かれ。
※万葉(8C後)一四・三五六五「可(カ)の子ろと寝ずやなりなむはだ薄(すすき)浦野の山に月かたよるも」
② (「何(なに)」と対応して用いられ) 並列する事物を漠然と示す。
史記抄(1477)九「なにかほしい、かかほしいと云ことを、やかて天子へ言して行い下しそ」

あ【彼】

〘代名〙 他称。話し手、聞き手両者から離れた事物を指し示す(遠称)。平安時代以降用いられ、格助詞「の」を伴って連体修飾語となることが多い。あれ。か。→あの
※竹取(9C末‐10C初)「あの書き置きし文」
※源氏(1001‐14頃)明石「あはとみるあはちのしまのあはれさへのこるくまなくすめるよの月」

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デジタル大辞泉 「彼」の意味・読み・例文・類語

かれ【彼】

[代]
男性をさす三人称の人代名詞。あの男。西欧語の三人称男性代名詞の訳語。「は君の弟かい」⇔彼女
三人称の人代名詞。明治時代まで男女の区別なく用いた。あの人。あれ。
「余はエリスを忘れざりき、否、―は日毎にふみを寄せしかばえ忘れざりき」〈鴎外舞姫
二人称の人代名詞。あなた。おまえ。
「―は、なむぞの人ぞ」〈宇津保・俊蔭〉
遠称の指示代名詞。あの物。あれ。
ふ君がみ船かも―」〈・四〇四五〉
[名]恋人である男性。彼氏。「ができる」⇔彼女
[類語]彼氏彼女此奴こやつこいつ其奴そやつそいつ彼奴かやつきゃつあいつやつやっこさん先生大将この方この人その方その人あの方彼方あちらあの人ボーイフレンドガールフレンド彼氏彼女愛人恋人情人いろいい人思い人思い者情夫間夫間男色男男妾若い燕情婦手掛け二号側室側女そばめ愛妾囲い者思い者内妻色女手つき一夜妻ラバーフィアンセダーリンハニーパートナーアモーレ

ひ【彼】[漢字項目]

常用漢字] [音](呉)(漢) [訓]かれ かの あれ あの
〈ヒ〉向こうにある人や物をさす語。あの人。あれ。向こう。「彼我彼岸彼此ひし海彼
〈かれ〉「彼氏彼等かれら
〈かの〉「彼女かのじょ
[難読]彼奴あいつ彼奴きゃつ彼処あそこ彼処かしこ彼所あそこ彼方あちら彼方あなた彼方かなた彼誰時かわたれどき

あれ【彼】

[代]
遠称の指示代名詞
㋐第三者が持っている物、または、話し手・聞き手の双方に見えている物をさす。あのもの。「は何だ」「が欲しい」
㋑双方に見えている場所をさす。あそこ。
「―に見えるは茶摘みじゃないか」〈文部省唱歌・茶摘〉
㋒双方が知っている過去の事柄をさす。例のこと。「は忘れられない出来事だ」「以来からだのぐあいが悪くってねえ」
三人称の人代名詞。双方に見えている人、分かっている人をさす。あの人。「が君の妹か」
二人称の人代名詞。あなた。
「―は何する僧ぞと尋ねらるるに」〈宇治拾遺・一〉
[類語]これそれどれこのそのあのどのかの

か【彼】

[代]
(多く「の」「は」を伴って用いる)遠称の指示代名詞。あれ。かれ。
「兎追いし―の山」〈文部省唱歌・故郷〉
「―の児ろと寝ずやなりなむはだすすき浦野の山につく片寄るも」〈・三五六五〉
「何」と対になって、並列される事物を漠然とさす。「なんとかとか不平を並べたてる」「何ややとうるさい」

あ【彼】

[代]遠称の指示代名詞。あれ。
「雲立つ山を―はとこそみれ」〈大和・一四五〉

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デジタル大辞泉プラス 「彼」の解説

日本のテレビドラマ。放映はフジテレビ系列(1997年1月~3月)。全11回。原作:竹山洋。音楽:日向敏文。出演:篠ひろ子、稲垣吾郎、ヒロミ、沢口靖子ほか。

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