左右(読み)そう

精選版 日本国語大辞典 「左右」の意味・読み・例文・類語

そ‐う サ‥【左右】

〘名〙 (「う」は「右」の呉音)
① 左と右。さゆう。
※続日本紀‐霊亀元年(715)正月甲申「朱雀門左右、陣列皷吹騎兵
※枕(10C終)二九六「左右の大将、中・少将などの御格子のもとにさぶらひ給ふ、いといとほし」
※源氏(1001‐14頃)若菜上「山の左右より、月日の光さやかにさし出でて、世をてらす」
曾我物語(南北朝頃)二「伊東・北条とてさうの翼にて、いづれ勝劣有るべきに」
② そば。かたわら。また、そば近くに仕える者。さゆう。
※百座法談(1110)三月七日「その後廿五年の間(あひだ)、かた時仏の左右にしたがひたてまつらずして」
③ あれかこれかのなりゆき。ことの様子。有様
※金刀比羅本平治(1220頃か)中「平家勝たば、主上わたらせ給へば、六波羅へ参らんと思ひ、軍の左右(サウ)を待つと見るはひがことか」
④ あれこれ言うこと。とやかく言うこと。また、非難してあれこれ言うこと。
※小右記‐寛弘九年(1012)九月二日「御斎会所事又誰人奉仕哉、大甞会行事所左右
※平治(1220頃か)上「一門の中の大将、すでに従ひ奉る上は、左右にあたはず」
※曾我物語(南北朝頃)二「さうにをよばずとて、忽に上件の曜宿を繰り」
⑤ とかくの指図。指令。命令。
※源平盛衰記(14C前)三九「御所へ申し入れて、其の御左右(サウ)に依る可しとて奏聞あり」
※仮名草子・ねごと草(1662)下「日も暮れはんべらば、はやはや御さう申すべし」
⑥ 善悪、良否、是非などの裁定。あれかこれかの決定。
※東寺百合文書‐ほ・保安三年(1122)三月一一日、伊勢大国荘専当藤原時光菅原武道等解案「度々雖訴於司庁、不定左右
※平家(13C前)一〇「この御請文のおもむきは、兼てより思ひ設けられたりしかども、いまだ左右(サウ)〈高良本ルビ〉を申されざりつる程は」
※近世紀聞(1875‐81)〈染崎延房〉一一「断然これを行ふに堪ずと左右(サウ)して其地を辞し去り」
⑦ たより。しらせ。情報。音信。消息。安否。また、合図
※太平記(14C後)八「敵を全員落さん事日を過さじと心安く思ける。其の左右を今や今やと待ける所に」
人情本・清談若緑(19C中)初「久しく叔母の左右(サウ)をもきかず」
⑧ 数を表わす語に付いて、その前後の数であることを示す。多く、年齢などに用いる。
※評判記・たきつけ草(1677)「そのかたなどのやうに、さう六十のよはひになりては」
※黒潮(1902‐05)〈徳富蘆花〉一「主と見ふるは、三十左右(サウ)細作りな美人」
[語誌](1)「観智院本名義抄」には「左右」に「トニカクニ」の訓があり、「万葉集」や「色葉字類抄」からは、古くは「左右」の二字で「かにもかくにも」「とさまかうさま」とも読まれたことがうかがわれる。やがてサウと音読され、形容詞左右無し」などが生じる。
(2)漢音読みのサユウも中世以来並用され、現在では普通サユウが使われる。

さ‐ゆう ‥イウ【左右】

〘名〙
① ひだりとみぎ。左側と右側。また、左翼と右翼。
懐風藻(751)秋日於長王宅宴新羅客「琴書左右、言笑縦横」
※平家(13C前)四「たとへば鳥の左右(サユウ)〈高良本ルビ〉の翅の如し」 〔詩経‐周南・関雎〕
② (━する) 左や右にうごくこと。
米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一「手にて機を動せば左右する仕掛をなし」
③ (━する) そば。かたわらにあること。また、そば近く仕え補佐すること。または、その人。側近。
聖徳太子伝暦(917頃か)上「伏請。能守左右姦人
※金刀比羅本保元(1220頃か)上「十二人のものども則左右(サユウ)のぢんをわたして叡感あって」 〔書経‐説命上〕
④ (数を表わす漢語のあとに付いて) その数に近いこと。特に年齢などがその前後であることを表わす。前後。
※随筆・文会雑記(1782)三「其年紀を推すに、南郭三十歳の左右なり、と君修語れり」 〔春秋左伝注‐僖公五年〕
⑤ (━する) 態度をあいまいにすること。その場その場でことばを変えること。言いのがれすること。
真理の春(1930)〈細田民樹〉頭の上の街「なぜか言葉を左右(サユウ)にして、一度も容作に会ってさへくれなかった」
⑥ (━する) どちらかに決断すること。また、その決定。どういうものかがはっきりすることをもいう。
歌舞伎御国入曾我中村(1825)二幕「併しわし商売づく、早く御左右(サイウ)をなされませ」
⑦ (━する) 自分の自由にすること。支配すること。
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉一〇「政党領袖となりて、議論を左右(サイウ)すべき人柄とぞ思はる」 〔春秋左伝‐僖公二六年〕
⑧ 能や狂言の舞の型の一つ。左方へ左手をやや高く出すにつれ、右手を低くそえて数歩出る。次に右方にむきを変えて右手をやや高く出しながら、左手を低くそえて、数歩出る所作。〔八帖花伝書(1573‐92)〕

ひだり‐みぎ【左右】

〘名〙
① 左と右。左側と右側。さゆう。そう。
※書紀(720)朱鳥元年九月(北野本訓)「次に浄広肆河内王、左右大舎人(ヒタリミキのおほとねり)の事(こと)を誄る」
※源氏(1001‐14頃)蓬生「ひだりみぎの戸も皆よろぼひ倒れにければ」
② 左にしたり右にしたりすること。あれこれとすること。多く「に」を伴って副詞的に用いる。かれこれと。あれやこれや。とやかく。とやこう。
※源氏(1001‐14頃)空蝉「ひだりみぎに苦しう思へど」
③ 舞楽で、左舞(さまい)と右舞(うまい)。左方の楽と右方の楽。
※源氏(1001‐14頃)紅葉賀「ひだりみぎの楽のことおこなふ」
④ 左と右と位置が転倒していること。みぎひだり。

ひだり‐みぎり【左右】

※寛文版発心集(1216頃か)六「これらをひたりみきりにすへ」

さ‐う【左右】

〘名〙 ⇒そう(左右)

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デジタル大辞泉 「左右」の意味・読み・例文・類語

さ‐ゆう〔‐イウ〕【左右】

[名](スル)
ひだりとみぎ。「左右を確認する」「左右の手」
かたわら。そば。まわり。「左右に従える」
そば近く仕える者。側近。「左右に問う」
年齢などが、それに近いこと。前後。「六〇左右の人」
立場や態度をあいまいにすること。「言を左右にする」
左か右かを決定すること。どちらかに決めること。
思うままに支配すること。決定的な影響を与えること。「一生を左右するような出来事」「作物の生育は天候に左右されやすい」
能や狂言の舞の型の一。左手をやや高く出し、左斜め前へ左足を出して右足を引きつけ、右手をやや高く出し、右斜め前へ右足を出して左足を引きつける。
[類語](1横様よこさま横向き水平/(2手近い程近い近い間近い間近じきすぐ至近目前鼻先手が届く指呼しこ咫尺しせき目睫もくしょうかん目と鼻の先身近手近卑近身辺そばかたわわき片方かたえ手もと近く付近近辺近傍近所最寄りもと足元座右手回り身の回りまのあたり目睫もくしょう面前目の前眼前現前目先鼻面はなづら鼻っつら前面正面真ん前手前先方直前/(7支配束縛拘束規制制約縛る

そ‐う〔サ‐〕【左右】

左と右。また、かたわら。さゆう。「左右の手」
さとり難くして、―を顧みる」〈今昔・九・二七〉
左か右に落ち着くこと。決着。また、その成り行き。「きっ左右
いくさの―を待つとみるはひがごとか」〈平治・中〉
年齢などの数を表す語に付いて、その前後の数であることを示す語。
「三十―、細作りな美人」〈蘆花黒潮
とやかく言うこと。非難すること。
「頼長と申すは…人柄も―に及ばぬうへ」〈古活字本保元・上〉
指図。命令。
「御所へ申し入れて、その御―に依るべしとて」〈盛衰記・三九〉
あれこれの知らせ。便り。手紙。
「御―遅しとぞ責めたりける」〈太平記・二一〉

ひだり‐みぎ【左右】

左と右。左方と右方。さゆう。
左と右を取り違えること。みぎひだり。「サンダルを左右に履く」
あれこれとすること。あれやこれや。とやかく。多く「に」を伴って副詞的に用いる。
「―に苦しう思へど」〈・空蝉〉

もと‐こ【左右】

《「もと」の意》かたわら。そば近く。
「天皇めぐみて、―にし置きたまふ」〈垂仁紀〉

さ‐う【左右】

そう(左右)

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普及版 字通 「左右」の読み・字形・画数・意味

【左右】さゆう(いう)

右と左。近傍。同列。近臣。また、佐助する。〔国語、晋語四〕此の三人の偃(こえん)・趙衰(ちようし)・賈佗(かた))は、實に之れを左右す。子(重耳)居るときは則ち之れに下り、動くときは則ちる。

字通「左」の項目を見る

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とっさの日本語便利帳 「左右」の解説

左右

日本では左と右。中国では同じ使い方もするが、~くらい、~程度の意でよく使う。

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