対称性(読み)たいしょうせい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「対称性」の意味・わかりやすい解説

対称性
たいしょうせい

人の体は外見左右対称にできているとか、球は回転対称性をもつとかいう。一般に「ある対象Mが対称性Sをもつ」とは、Sで指定された操作をMに施してもMが変わらないことをいう。このような操作を対称操作とも変換ともよぶ。だから、球が回転対称性をもつというのは、球が、その中心を通る任意の直線を軸にしてどんな角だけ回転させても、もとの球とぴったり重なることを意味する。人体の左右を入れ替えることは不可能であるが、かりに考えのうえでその操作を行う、あるいは鏡に映してみると外見は変わらない。これが人体の外見は左右対称だということの内容である。

[江沢 洋]

図形の対称性

平面図形の対称性には、まず線対称点対称がある。線対称の対称操作は鏡映、点対称のそれは反転とよばれる。回転対称性は、正六角形が60度の整数倍の回転に対してのみ対称であるように、特別な角のみについていう離散的対称性と、円におけるように任意の角の回転を許す連続的対称性とが区別される。前者は、360゜/nの整数倍の回転についてのときn回対称とよぶ。正六角形は6回対称である。一般に、複数の点からなる図形について、その中の1点の周りの回転や、その点に関する反転、その点を通る直線に関する鏡映など、考えられる対称操作の全体を点群とよぶ。

 平面図形が平行移動しても変わらないことをいう並進対称性にも、連続と不連続の区別がある。両方向に無限に延びた直線はその方向に連続的並進対称性をもち、碁盤目をなして四方八方に限りなく広がった正方格子は離散的並進対称性しかもたない。一般に、並進対称性をもつ平面格子が点群のn回対称性をももつとき、nは、5を除く1から6までの整数に限られる。

 立体図形についても、点対称は平面図形と同様の意味をもつが、線対称は面対称(鏡映対称)に変わり、回転対称をいうには回転軸の方向も指定しなければならない。とくに、固定点Oを通るどの方向の軸の周りにどれだけの角を回しても変わらない図形は、球対称であるという。基底状態にある水素原子は球対称である。また、たとえばアンモニア分子NH3は、窒素原子Nを頂点として水素原子Hが3個で底面を張る正三角錐(すい)をなし、Nを通って底面に垂直な軸の周りに3回対称であり、Nおよび底面の中線を通る平面に関し鏡映対称でもある。与えられた図形Mのもつ対称性を数え上げたとき、そのおのおのをMの対称要素という。分子や結晶などをはじめ物理系の性質は、それがもつ対称要素により強く制約される。

[江沢 洋]

数式の対称性

x2y2xyを取り替えても変わらないので対称(多項)式であるといわれる。xyのどんな対称多項式も、そのなかでもっとも基本的なξ=xy,η=xyの多項式の形に書ける。このことは一般に成り立つ。x2y2はまた、xyxx'cosθ-y'sinθ,yx'sinθ+y'cosθを代入するとx'2y'2となり、形を変えない(θは任意の実数)。これもx2y2の対称性の一つであり、変換(x,y)→(x',y')が直角座標軸の回転にあたるので、回転に関する共変性として言い表される。

[江沢 洋]

物理法則の対称性

物理の基本法則は、それを直角座標系で書き表すとき、座標軸の向きを変えても形が変わらない。座標系の回転に関し共変、つまり対称なのである。アインシュタインの特殊相対性理論は、物理の基本法則をローレンツ変換に関し共変であるという要請により変革した。今日の素粒子物理は、さらに基本粒子の間のある種の変換に関して法則が共変なことを発見し、それをゲージ変換に関する対称性に押し広める方向に進展している。

[江沢 洋]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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